自社工場を持たず、色々なお菓子を生み出している会社が東大阪市にあります。その名も「株式会社MDホールディングス」。お菓子問屋でありながら約12年前からプライベート商品を展開しています。皆さんが日常で使うスーパーでも手に入る、いわゆる「流通菓子」。自社工場なしでどのように作られているのか?その開発の裏側に迫ってきました。
今回訪れたのは、精密機械から食品製造まで、職人の技とこだわりが生きる街・東大阪市。中小企業を中心に多くの製造業が集まるこの地域には「東大阪ブランド」として全国に誇る技術力を持つ企業が数多く存在しています。
出迎えてくれたのは、MDホールディングスの開発部でリーダーを務める原口孝さんと、主にSNSなどデジタルマーケティングやPRを担当する常岡奈央さん。MDホールディングスの商品企画の裏側に迫っていきます。
——今日はよろしくお願いします!まずは、MDホールディングスさんの成り立ちについて教えていただけますか?
原口さん:よろしくお願いします!弊社グループには、菓子の卸売業を営む誠商会と大信菓子があり、MDホールディングスはこれら2社のバックオフィス業務および物流業務を担っております。
——菓子問屋から、現在のプライベートブランド(PB)商品の展開を始めたのはどういった経緯でしょうか?
原口さん:私たちはもともと卸売がメインでしたが、会社の存在価値を高めるため、2012年頃から本格的にPB商品の開発を強化しました。大手メーカーの商品を扱うだけでは独自性が出せませんから、自社で企画から開発まで携わるオリジナル商品を増やすことで、他社との差別化を図っています。
——なるほど…。他社との差別化という点で、他に意識していることはありますか?
常岡さん:代表的なのが「低温真空フライ(バキュームフライ)」ですね。一般的な揚げ方と違って、低温でじっくりと加熱するので、素材の風味や色、栄養素が残りやすいという特徴があります。
原口さん:バキュームフライが代表的な例ですが、そういった時間とコストのかかる製法を、小回りの利くメーカーさんの協力を得ることで実現できるのが当社の強みです。
——大手ではできないことを、あえて攻めていくのは面白いですね。
常岡さん:好きなお菓子を作れるのは当社ならではかなと思います。というのと、やっぱり一番のメリットは、お互いがWin-Winの関係を築けることですね。例えば、ある老舗のごま菓子メーカーさんがいるんですが、もともとは小規模で、自社だけでは販路を広げるのが難しかったそうなんです。そこで私たちが商品企画をして、販売ルートを作ることで全国展開が実現し、売上が大きく伸びたということがあって。実際にメーカーさんとお話ししたときも、「売上が伸びて本当にありがたい」と言っていただけました。
——一緒に成長するパートナーとしての関係を築いているんですね。
原口さん:そうですね。自社工場を持たない分、柔軟にいろんなメーカーさんと組めるのが強みです。市場に出回っていない“おいしいもの”を発掘し、新しい価値を加えて広める。それが私たちの役割だと思っています。
——これまでに数多くのPB商品を手掛けていますが、中でも特にヒットした商品は何でしょうか?
原口さん:2024年12月に過去最高の売上を記録したのが「魚の炙り焼」です。これは、あじ・いわし・きす・さよりの4種類を炙って仕上げたおつまみで、素朴ながらも甘みのある味付けが特徴です。
——魚の炙り焼がトップに立ったんですね!ちょっと意外な…?それまではどんな商品が人気だったのでしょう?
常岡さん:それまでは「森の黒トリュフ塩ナッツミックス」が売上トップだったんです。黒トリュフの香りがしっかり感じられるナッツで、おつまみや贅沢なスナックとして人気がありました。でも、魚の炙り焼がこれを上回る結果になったんです。
——すごいですね!売上が急上昇した要因は何だったのでしょうか?
原口さん:実は、大きな販売戦略の変更や新たな流通先の開拓をしたわけではないんです。ひとつの要因として、市場の環境変化があります。特にイカの不漁が大きな影響を与えました。
——イカの不漁、ですか?
原口さん:これまでスーパーの珍味コーナーでは「さきいか」や「イカの珍味」が定番でしたが、近年、イカの漁獲量が激減し、供給が減っています。そのため、“水産系の珍味を食べたい”というニーズが高まり、代替商品として魚の炙り焼に注目が集まったのだと思います。
——なるほど!では、魚の炙り焼自体は以前から売れていた商品だったのでしょうか?
常岡さん:そうですね。もともと“安定した売れ筋”のポジションにいた商品でした。大きく売上が落ちることもなければ、爆発的に売れることもない。でも今回、市場の流れに乗ったことで、一気にトップ商品に躍り出たんです。
——元々品質にこだわっていて、今回のヒットはそれがしっかり評価された結果なんですね。
原口さん:そう思います。市場の流れにうまくマッチすれば、良い商品は必ず評価される。魚の炙り焼の成功は、まさにそれを証明した出来事でしたね。
——今回新商品は13商品とのことですが、スノーボールのような「シルキー」はこれまでにない挑戦だったのだとか。まずはその特徴について教えてください。
常岡さん:「シルキー」は、口の中でホロホロとほどける食感が特徴の焼き菓子です。バターの風味がしっかり感じられる、シンプルだけど奥深い味わいに仕上げています。実はかなり前から作りたいと思っていた商品なんです。開発戦略グループの上司が熱望していて「絶対に出したい!」と。でも、なかなか実現できなかったんです。
——そんなに難航していたんですね。なぜ商品化できなかったのでしょう?
原口さん:2つの課題がありました。まず、製造できるメーカーが見つからなかったこと。このホロホロ食感を再現できる工場がなかなかなくて…。そしてもうひとつが価格の問題です。美味しさを追求するとどうしてもコストがかかります。でも、市場にはすでに手頃な価格で美味しいクッキーがたくさんあるので、どう差別化するかが課題でした。
——でも、最近はお菓子の価格も上がっていますよね?
原口さん:そうなんです。昔なら「高い」と感じられていた価格帯でも、今では「これくらいが普通」と受け入れられるようになってきています。そういう市場の変化もあり、今なら勝負できる!というタイミングで発売に踏み切りました。
——「シルキー」のホロホロ食感はどのように実現したのでしょうか?
常岡さん:一つは、バターの配合量です。通常はコストの関係で抑えられることが多いですが、シルキーでは原材料表示の2番目にバターがくるほどしっかり使用しています。ホロホロ感を出すのに、粉糖の種類と使い方にもこだわりました。特に、夏場でもベタつかない“溶けない粉糖”を採用しています。
原口さん:本当にベタつかないか確かめるため、社用車の中に商品を長時間放置するという過酷なテストもしました(笑)。夏場の車内は灼熱ですが、それでも粉糖がベタつかなかったので、自信作です。
——社用車でテストするってすごいですね!(笑)それだけこだわり抜いた商品が、ついに商品化されたわけですね。
常岡さん:ずっと温めていた企画がようやく実現しました。私たちのこだわりが詰まった「シルキー」を、ぜひ多くの方に楽しんでもらいたいですね!
——他に、今回ぜひ知って欲しい新商品はありますか?
常岡さん:全部なんですけど(笑)、中でも「ココ&ナナ」は、ココナッツチャンクの自然な甘みとココナッツオイルで揚げたバナナスティックを活かした、自然由来のMCT(中鎖脂肪酸)が摂取できる素材菓子です。特に“健康に気を遣いながらもスイーツを楽しみたい”というニーズを意識して開発しました。
——MCT(中鎖脂肪酸)入りのお菓子って、健康志向の方にもウケそうですね。
常岡さん:若手メンバーが中心となって進めたプロジェクトです。上層部のサポートを受けながら、“食べ物から取れるMCT(中鎖脂肪酸)を活かした商品を作ろう”というコンセプトのもとで開発を進めたので、ぜひお手に取ってもらえたら。
——若手メンバーが主体とは、フレッシュなアイデアが生まれそうです。開発する中で特にこだわったポイントはありますか?
常岡さん:主原料にココナッツチャンクを使用し、ホワイトクリームコーティングを施しています。ほどよい甘みとコクがあり、“ココナッツクッキーのようなホロホロ感”を感じてもらえるようにしています!このコーティングは老舗の豆菓子メーカーの技術を活用しています。
——メーカーの技術あってこそ実現したお菓子なんですね。開発の背景を聞くとより興味が湧いてきます!MCT(中鎖脂肪酸)入りという点も魅力的ですよね。
常岡さん:これまでMDホールディングスの商品は珍味系が多く、比較的男性向けでした。今回は“女性が手に取りたくなる商品”を意識し、健康や美容を気にする方にも響くような仕上がりを目指しています。
原口さん:最近は、健康に関する情報が溢れていますよね。「MCT(中鎖脂肪酸)が身体にいいらしい」とは知っていても、“どう取り入れたらいいかわからない”という方も多いと思います。そこで“お菓子なら気軽に取り入れやすい”という点を大事にしました。
——まさに“健康と美味しさの両立”ですね!
常岡さん:甘いものは好きだけど、できるだけ健康的に食べたいという方におすすめです。カロリーを気にしながらも、たまにはスイーツを楽しみたいという気持ちを大切にした商品なので、ぜひ試してみてほしいです!
——まだまだ聞きたいところですが、長くなるので(笑)…。あとは公式HPやSNSをチェックしてもらいたいですね。最後に、今後の展望について教えていただけますか?
原口さん:そうですね、どれもこだわって作ったものばかりで、我が子のように送り出していますので(笑)。スーパーなどで見かけることがあれば、手に取ってみてほしいです。これからもまだ世に出ていない“おいしいもの”を発掘し、食品メーカーさんと協力しながらワクワクする商品を届けていきたいと思っています。
MDホールディングスは、自社工場を持たずに全国の工場と築いた信頼関係を活かし、常に新しいお菓子を生み出し続ける企業です。今年は「シルキー」や「ココ&ナナ」を含む計13種類の新商品を発表し、その開発力の高さを改めて証明しました。
今回の新商品は、食感や味わいにこだわったものから、健康を意識したものまでバラエティ豊か。特に「シルキー」はホロホロとした口どけ、「ココ&ナナ」は自然由来のMCT(中鎖脂肪酸)を活かした軽やかな甘さが特徴です。これらの商品は、工場の技術力とMDホールディングスの企画力が融合した、まさに“こだわりの結晶”といえるでしょう。
「自分たちだけで作っているわけではない。メーカーさんがあってこそ作れるので、メーカーさんの事業に貢献したり、底上げができる存在になりたい」――この想いのもと、MDホールディングスはお菓子業界全体を盛り上げる企業として進化を続けています。13種類の新商品が市場にどんなインパクトを与えるのか、今後の展開から目が離せません!
あかざしょうこ
ウフ。編集スタッフ
関西方面のスイーツ担当。1984年生まれ、大阪育ちのコピーライター。二児の母。焼き菓子全般が好き。特に粉糖を使ったお菓子が好きです。
Photo by Minoru Tada
注目記事