バレンタイン特別企画、有名ショコラティエによるチョコレートの面白さ・奥深さを体感できる「ショコラティエWEEK」も3日目に突入。今回は、ショコラティエWEEKながらも、絶対にインタビューをのせたいと思った「memento mori」(メメント モリ)南雲主于三さんが主役。
2020年に虎ノ門ヒルズにOPENした「memento mori」(メメント モリ)の店主であり、ミクソロジーの第一人者でもあります。ショコラティエではないながらも、カカオの原始まで遡って研究し、カクテルという小さなグラスの中にカカオの無限大の可能性を広げ、今もなおその可能性を探り続けている南雲さん。今回はカカオの奥深い話と、カクテルにおける「混ぜる」ことで起きる化学変化の面白さを語って頂きました。“カカオを愛するものへ”ぜひ読んでいただきたい。
Q.この聞きなれない「Memento mori(メメント・モリ)」という単語。どういう意味で、どういう経緯があったのでしょうか?
南雲さん「これはラテン語で『死を忘れるな!』という意味。もともとお店のコンセプトを、ボタニカルで考えていました。ボタニカル(植物)の“生”をあますことなく使うお店にしようというテーマで、SDGs的意味合いも込めて、ごみを減らしていくという新しいバーの在り方と提案性が込められています。
植物であったり、お店で使う食材(モノ)への感謝。そういうコンセプトのもとだと、レモンを絞るだけでも、果たしてレモンが必要なのかとか、ゴミをどうやって減らせるかなど、考え方や物の見方が変わりますよね。今も果物を使ったカクテルを作るときは、茶こしを使っていて果物のカスは乾燥させて、二次使用しカカオワインのフレーバーに使ったりしています。
カカオを使おうと思ったきっかけ・カカオと出会ったきっかけはカカオの果肉を飲ませてもらったことから始まりました。非常に面白いなと思い、僕たちが知っているような一般のチョコレートの世界とは違い“カカオの果肉ってこんなにフルーティーなものから始まっているんだ”と気づき、歴史を調べてみようと思ったんです。
そこから僕たちが食べている固形のチョコレートというのは、今から170年ぐらい前の話のもので、それより前の3000年前の歴史ではカカオは樹液を入れて、スパイスを入れて、飲み物として飲まれていた。マヤ文明とかアステカ帝国とか、その時代。その後、カカオがヨーロッパへうつっていくと、貴族の女性がカカオを飲み物として愛飲した、という記録がたくさん残っていました。だんだんとカカオが貴族のたしなみに変わっていった歴史があるんです。
女性の方が自分でカカオの工房を使って、当時の女性が好きだった“バラ”とカカオを混ぜてという記述も残っているんです。そうやって考えていくと混ぜていく行為=カクテルにすごく近いなと思ったんです。カクテルの材料になりえるなと思っていて、カカオとボタニカルを合わせて、ここの店舗の主のコンセプトにしようと思いました。メメントモリの死をという言葉が“カカオ”にも当てはまるなと思って、この店名にしました。」
Q.お店のコンセプト「カカオ」。そのカカオとお酒を合わせる、科学変化させていく、その新しいカクテルの在り方、食の在り方への挑戦のきっかけを教えてください。
南雲さん「もともと会社を作ったのが2009年です。この『混ぜる』という意味合いを持つミクソロジーの考えのもと、様々な店舗をやっていきました。2017年にはミクソロジーサロンができて、あれが5店舗目です。幅広く色々なカクテルを作っていくという考えのもとやってきました。ブルーチーズをカクテルにしようとか、朝食をカクテルで表現してみようとか。
そういう“カクテルにできないことをカクテルに”してきていて、専門家との協業では例えばクラフトビールの方とクラフトビールのカクテルをやったり、お茶の仕事では、お茶の専門家の方ともやりました。その中でも、お茶がすごく面白くて広いジャンルを扱うのもいいけれど、一つのことを深く探っていくのもとても大事でいいなとその時に思ったんです。」
その体験から、会社のミッションとして“すべての液体をカクテル化する”ことを決めました。僕たちはカカオを“液体”として捉えています。今まで誰もやってこなかった、カカオという液体をカクテルにしようと。それを文化的に当たり前の世界までもっていくということと、パティシエとのコラボレーションとかスイーツとかのペアリングも考えていて、そういう幅広い可能性があるカカオは人をハッピーにすると考えたんです。
固形物であるチョコレートの世界と、液体としてのカクテルを一緒に楽しめたら幸せも2倍になると思いました。」
Q.もともと幼少期からチョコレートがお好きだったとインタビューで拝見しましたが、どんなチョコレートが好きで、どこに魅力を感じていらっしゃいましたか?
南雲さん「子どものころの記憶でいえば、選ぶときにケーキもチョコレートケーキでしたし、アーモンドもチョコを選ぶし、好きなスイーツの一つでした。かといって大人の時は、チョコレートに目がないという感じではなかったのですが。
Q.カクテルの素材として、カカオはどうして面白いと思ったのでしょうか?
南雲さん「もちろん、先の話の通り食べ物の好みはありますが、私が好きなものは“カクテルの素材として可能性を感じるもの”なんです。お酒が好きなんじゃなくて、“カクテル”が好きなんです。素材として面白ければ、カカオもそうですしお茶も面白い。珈琲も面白いと思いましたが、これに関しては珈琲は掘り下げていっても、掘り下げきれない気がしていて。幅が思ったより広くない。なんというか、珈琲のカクテルって表現するのがとても難しい。
数種類を試したときに“カカオはいける”と踏んだんですよね。これはまだ僕の知識と技術の問題なので、2年後に珈琲をやっているかもしれません(笑)。」
Q.カカオをカクテルに落とし込む時に、たくさんの生産者や専門家の話を聞いたと伺いました。
南雲さん「はい。物事を知ることは、生産者、専門家の話を聞くということ、それは必須だと思っています。
その人たちから話を聞いて、メカニズムみたいなものを知って、アウトプットしていく。だから生産者も、流通に携わる方もショコラティエにも話を聞きましたね。とくに最近は日本人の方で、海外でカカオに携わる方が増えています。彼らは生産者を豊かにしようという考えを持っていて、ある程度高値で買って市場に卸そうとしていて、カカオの味だけではなくそういう背景も知って、そういう方にも是非カカオのカクテルを飲んでもらいたいと思っているんです。」
Q.そんな中でも話を聞いて印象的だった方はいらっしゃいますか?
南雲さん「カカオハンターの小方真弓さんですね。見た目はラテン人のようで、お酒を飲むと歌い出すような、すごく面白い方なんです。若いころから、会社をやめてリュック一つでカカオハントしに世界へ行かれていて、その時のストーリーを色々と聞くと、とても面白いですし、何よりカカオの発酵の話が面白かった。
カカオの今の状態を、コロンビアの現地の製造者と連絡を取り、発酵や焙煎の数値で常に確認しているんですよ。小方さんが、毎日その数値を現地の人たちから聞いて、考えながら指示を出し目指す味を作っていく。今までは現地に行けたのが、今はコロナ禍もあり行けなくなってしまったので、“カカオをどうすると美味しくなるか”という話が感覚的なものではなく、実は科学的なアプローチだったということがモノづくりの立場としても非常に心に響きました。もっとカカオの味をサイエンティスティックに解明しようと、そういう動きや考え方が小方さんの話を聞いて学ぶことが出来ました。」
Q.カカオパルプ、ニブ、溶かしたチョコレート、それぞれ液体・素材としてカクテルに昇華する際にそれぞれの魅力や難解で複雑で難しかった部分を教えてください。
南雲さん「まずカカオパルプ。これはパックになって常温の状態で来ます。使いやすいし、カクテルに馴染みやすい。ただ望むところは色々な種類のものが欲しいけれど、今は手に入るのがエクアドルだけですね。いいカカオだからといって、いいパルプが取れる訳ではなく、取れる品種と取れない品種があるんです。
そしてニブですね。これがまずはお酒につける実験から始めました。まずは3日、4日、5日と日ごとに記録していって。味の変化を確認すると、これがかなりブレました。“一定のいいな”をというところを見つけるのに、実は1年もかかっているんです。
Q.カカオで感じる華やかさ、フルーティーさ、苦み、酸味、濃く、甘み、多種多様な顔を持ち合わせる要素を、どのように抜き出し、グラスに描く作業をされるのでしょうか?
南雲さん「カカオをフレーバー別にすると……
シトラス
ベリー
ウッディー
ハーバル
この4つの世界からだと思っています。カカオ豆だけを使っていくと、カカオの発酵のコンプレックスも出てきて、行き過ぎると醤油とかみりんとかせんべいのようにもなるものなんです。それぐらいこの発酵感が奥行きを持たせてくれるものなので、この発酵をカクテルに合わせて使っています。
カカオ豆は、この産地が安定しているとか色々あるのですが、カカオは1年ごとに、気候の影響もあるので、味が変化していっているようにも感じますね。常に変化と向き合っている感じです。」
Q.カカオ以外にも植物、花、木、果物。先日にエディブルガーデンさんのバラを使ったものもそうだと思いますが、ボタニカルをカクテルに使う理由、そしてそれがもたらすものを教えてください。
南雲さん「よくスイーツでバラの風味や香りがあると思いますが、本当のバラのエキスって、“液体”だと思っています。バラの香りがするカクテルも作るし、ふきのとうのお酒とかイチジクの葉のカクテルとか。
ボタニカルのいいところは“香り”だと思っています。お酒に対してお花を過去も業界では使っていたはずですが、既製品のリキュールが多く、どれも加工されていて、かつ香料も多かった。いわゆるバラっぽいって芳香剤っぽさがあったんです。本当のバラの美味しさを作るために、相当数の試作をしましたが、すごく難しくて何度も失敗をしました。
そこで考えたのは、瞬間冷却粉砕。液体窒素で粉々にしてしまうんですよ。そうすることでバラの花束が仮死状態になります。だから酸化しない。一番怖いのが酸化で、香りが劣化してしまいます。
そしてもう一つ。粉々にするとこれぐらい大きな花束が小さくなる。そうすると、100gしか入れられなかったものが、容積が大きく取れるので3倍の300g入れることができる。いかに総量を増やすか、という部分をクリアできるようになります。つぶせばいいんじゃないかという声もありますがそうするとお花にストレスがかかるんです。欲しい美味しさのベストは、その一瞬です。」
About Shop
memento mori
東京都港区虎ノ門1丁目17番1 虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー 3階
営業時間:14:00~23:00
定休日:なし
クリーム太朗
ウフ。編集長
編集責任者。ショートケーキ研究家として、日本全国のケーキを食べ比べる。自身でも、ケーキやチョコレートの製造・販売を目指すべく、知識だけではなく実技も鍛錬中
Photo&Writing/Cream Taro
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