今月のパン特集でもある「パンとおやつと、幸せと」。パンがもたらす幸せは、美味しさだけではなく人と人を結びつけてくれる日本の食文化の一つ。今回はパン特集の中でも、お店だけではなく「人」にもスポット当てていきます。パン職人たちのインタビューはもちろんのこと、パンにまつわる人たちも。今回は、日本でもトップクラスのパンインフルエンサーである「パンくん」(@pan.commu)を主役に。
昨今増えているグルメ系インフルエンサーとは違い、彼が伝えようとしているメッセージの深さや想いの熱さは計り知れないほど。今回はその想いを取材してきました。
Q.パンくんが、パンの世界に引き込まれ、Instagramを始めたきっかけと理由を教えてください。
パンくん「約10年前にInstagramを始めました。きっかけは自転車で、パンではなかったんです。当時ハマっていた自転車から、パンのアカウントに変わっていったのは旅行先のハワイでたまたま食べたマフィンでした。今アカウントを遡っていただくと、一番最初の投稿でのせているのがマフィンだと思います。
このマフィンがすごく美味しかったんです。日本に帰国してから、マフィンというものがどこで売っているかがわからなくて、パン屋にあると思ったら全然売っていませんでした。どこに売っているのだろうかと、色々なお店をまわっているうちに、日本のパンがすごく美味しくて、いつの間にかパンの世界にどっぷりつかっていたんです。特に感動したのが、『ル・ルソール』さん(駒場東大前)。こんなに美味しいパンはないと、驚いたのを覚えています。
買ったパンの個人の記録用にやっていたInstagramのアカウントが、いつの間にか大きくなり、今に至ります。当時は週1回程度の投稿で、頻度も多くはありませんでした。その理由としては、当時は収入も少なくて、自分の中の贅沢がパンだったんです。週に1回、自分の好きなものが買える、その時が本当に幸せでした。」
Q.取材時点(2022年4月)では、フォロワー数は3万人を超えています。どうしてそこまでフォロワー数が増えたのでしょうか?
パンくん「パンを撮るものをiPhoneからカメラに変えたからではないか、と思っています。当時はインスタ映えというものはなく、またパンをわざわざ一眼レフカメラできれいに撮っている人もいませんでした。パンをポートレートで、背景をぼかすように写真を撮ったときは、1カ月に2000人のフォロワーが増えたこともありました。つけたハッシュタグで、すぐに人気投稿に取り上げられ、当時のInstagramの人口の少なさやライバルの少なさも影響していたのかもしれません。
もう一つの理由としては、本業がSNSマーケティングの仕事をしていること。本業の知見を活かして、どういうコミュニケーションをとれば世の中の人が喜ぶだろうか?とうことを考えてInstagramをやっていました。」
Q.アイコンのイラストがとってもキュートで、どんな経緯で描いてもらうことになったのでしょうか? またその時のイメージはございますか?
パンくん「もともとイラストレーターさんのことを知らなくて、部下にいい人いないか?と相談したのがきっかけです。イラストをひと目見て、その世界観にすごく惹かれました。描いてくださったのはBONYUKIさんという人気のイラストレーターさん。個人の依頼だと、絶対に受けてくれないだろうと思ってダメ元でオファーをしたら、なんと描いてくださったんです。
イラストも、髪の毛が長い姿にも理由があります。初めてできたパン友、カン・ハンナさんという韓国人のパン好き方がいらっしゃいました。その方と日本で“パンをもっと盛り上げたいよね”というのがきっかけで、『パンハンナ会』というイベントをやっていました。今では一番のパン友です。
このアイコンのイラストは、その時にご一緒したハンナさんをロングヘアで表現しています。そして私も描かれていて、パンで頭の中がいっぱいというのを表現してくださりました。」
Q.本業をやりながらも、色々な人とコミュニケーションをとったり、ライブ配信をしたり、そこまで精力的に「パン界」を盛り上げようとする、そのパッションはどこからきていますか?
パンくん「理由は一つで、パン会をやったときに『同じ熱量で話せる人がいてよかった』と言われたんです。
“人と人とをパンでつなげていく”
そんな機会の大切さを感じました。パンを通じて、色々な出会いや良い科学変化を起せたらと思っています。パン会で見かけてメンバーを、パン屋で見かけると嬉しくなります。」
取材の話題は、“パンくん積み”に。上記の写真のように3つのパンを重ねて写真を撮るその発想のユニークさもあって各メディアにも取り上げられ、“映える”写真の撮り方として注目を浴びました。そしてInstagramのストーリーズでは真似をする人が後を絶たなくなるほどの話題ぶり。しかし、その本質にはとあるストーリーが隠されていました。
Q.以前、パンくん積みの理由をストーリーにあげていて感動したのを覚えています。パンくんが、人と人をつなげる以外に、大切にしていることがあれば教えてください。
パンくん「きっかけはコロナ禍です。コロナ禍の影響は、飲食店とりわけパン屋への影響もすごく大きいものでした。客足が減り、お店が閉店してしまう現実を見ていく中で、たった一人のインスタグラマーではあるものの、何かできないかと思ったのが理由の一つです。
『パンを一つでも多く買ってください』と発信しても、絶対に響かないと思いました。そこで家でも、誰でもできるような、楽しくなるようなまねできるようなものを、家でできるものを考え抜いたんです。
それが“パンくん積み”でした。
一番は顧客の単価アップのことを考えたんです。薄利多売のパン屋を応援したいと思い、パンを3つ積んで。みんなが真似して、客単価がアップしたら、お店が少しでも救われると思ったんです。“映える”写真の撮り方として取り上げられましたが、真意はお店の応援だったんです。」
Q.パンくんが、今の世の中にパンを通じて、最も発信したいことはどんなことですか?
パンくん「“買ったものは全部食べて”、そのことが言いたいことです。いいものをInstagramにアップしたい、人気者になりたいって決して悪いことではありません。でも、食べ物を粗末にしてまでやることでしょうか? これはパンに限ったことではありませんが、“ひと口食べて、写真を撮って捨てる”みたいな話をよく聞きますし、帰り道に捨てた人を見たことがあります。
たかがパンかもしれないけれど、パンはシェフの立派な作品だと思っています。」
Q.現在、生まれたばかりのお子さんもいらっしゃって、子育てに奮闘されていますが、お子さん連れて入りやすいお店を発信したり、そういったことも今後考えていらっしゃるのでしょうか?
パンくん「はい。考えている理由が、子育てしている方々からの質問がすごく来るんです。“一人でもベビーカーではいれそうですか?”とか“階段はありますか?”とか。本当は聞きたいことだけれど、なかなか情報が入ってこない、子連れでのパン屋さん情報は、今後も発信していきたいと思っています。
みんなでパンを楽しんで欲しいですし、子育て中のママたちは結構ストレスがたまるものなので、パンで癒される時間が少しでもあればと思っています。」
Instagramが普及し、情報があふれる時代になりました。そして食を扱うインスタグラマーと、ライターと名乗る人達も増え、情報の発信源はより増えていく時代になっています。そんな時代の中でも、純粋な情報が純粋ではなくなり、色々なしがらみが増していくことに加え、争いやそもそも食べ物を大切に扱わなくなるような、根底として間違っている動きにもなりつつあります。
そんな中でも“正しく”インフルエンスし、世の中に少しでもいい影響を考えている、パンくんは、多くの人が見習うべき真のインフルエンサーの姿だと思いました。今後のインフルエンサーに求められるのは“考え行動すること”。取材をしながら、そんなことをひしひしと感じました。(編集長 坂井)
クリーム太朗
ウフ。編集長
編集責任者。ショートケーキ研究家として、日本全国のケーキを食べ比べる。自身でも、ケーキやチョコレートの製造・販売を目指すべく、知識だけではなく実技も鍛錬中
Photo&Writing/Cream Taro
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