バレンタインも1か月を切り、世界中から一流ショコラティエやブランド、最高級のチョコレートが集まる、世界最大級のチョコレートの祭典「サロン・デュ・ショコラ」もいよいよ開催に。
カカオを巡る世界で、ここ数年大きなムーブメントと市場に革命を起こしているブランドがある。それは太田哲雄氏の「AMAZON CACAO」(アマゾンカカオ)だ。「アマゾンの料理人」と呼ばれ、TV番組「クレイジージャーニー」で密着されるなど、今各方面で最も注目を浴びているといっても過言ではない。19歳で伝手もなくイタリアに渡って以降、料理人として、イタリア、スペイン、ペルーと3ヵ国で通算10年以上の経験を積み、2015年に日本へ帰国。「世界一予約のとれない伝説のレストラン」と称され、「分子ガストロノミー」で一世を風靡したスペインの3つ星レストラン、エル・ブジで働いた最後の日本人である。
「AMAZON CACAO」のお菓子は、太田哲雄氏が長野の食材を使って料理する軽井沢のレストラン「LA CASA DI Tetsuo Ota」で作られている。素材としての「アマゾンカカオ」は、太田哲雄氏が直接ペルーで仕入れたクリオロ種カカオから作られたテンパリング前のチョコレート(カカオマス)のこと。現地のカカオ農家の生活をよりよくするため、ペルーでチョコレートにまで加工してから、日本に輸入している。
今回は太田哲雄氏に1月17日から始まるサロン・デュ・ショコラ直前に大変お忙しいタイミングで、インタビューをさせていただいた。インタビューでは「AMAZON CACAO」を通じて何を伝えたいのか。職人としての責任感と、本当の意味での美味しさの追及、そして美味しさに向き合った先に広がる生産者への熱い想いをお届けする。カカオ一つで“そこまで考えるのか、そこまでするのか”それほどまで、読んだ人が驚くような、太田氏の等身大の声とは。
太田氏が「サロン・デュ・ショコラ」に参加したのは、2019年。今まで主にショコラティエが中心となっていた本イベントで、「料理人」が一石を投じる形になった。デビュー当時に出した「アマゾンカカオと玉ねぎのグラタン」「牛ほほ肉の赤ワイン ・アマゾンカカオソース」といったメニューは人々を驚かせた。
参加するきっかけは、熱い想いを持つバイヤーだったという。「太田さん、もっとカカオの世界を広めてもらえませんか? そして今のショコラティエに刺激を与えてほしい」とバイヤーに言われた太田氏は驚いたという。完全アウェイな状況での「サロン・デュ・ショコラ」の参戦は、太田氏のハートに火をつけた。
「そのお話が来たときはカカオの輸入をして、少したったぐらいのときでした。私は料理人ですがお菓子を作っていたし、ずっとチョコレートの世界に疑問をもっていました。“このままだとサロショ終わる”と思っていたほどです。
“フランス勢と戦いたい”
その想いが高まる一方でした。いつかフランス勢の中で戦ってみたい、今でもその野心を持ち続けています。」
太田氏「2019年、初めて参加した『サロン・デュ・ショコラ』の会場でショコラティエたちに聞いたんです。カカオ農園へ行ったことありますか? 発酵の過程を知っていますか?と聞いたら8割ぐらいの人が行ってなかったし知らなかった。チョコレートひいてはカカオの本質を誰も考えていなかったし、知らなかった。私は現地で足を運んでその現状を見て知っていて、経済的格差を目の当たりにしていました。
日本のバレンタイン市場ではチョコレートが、何千という数が飛ぶように売れていく。ショコラティエたちはサインを求められ、壇上にあがり、キラキラしてかっこよかった。でも、農園を持っている人は誰もいなくて、栽培している人もいない。チョコレートを加工して商品として手掛けるだけで、同じカカオを一つで“ここまで世界が違うのか”と衝撃を受けました。
私はもっと地に足をつけて、原産国が豊かになるようなことを考えたいと強く心に思いました。少しでもいいから農園にいって、カカオの本質を知ることが大事だし、そうじゃないとそれを知ったうえで作るものと知らないとで作ったものでは“美味しさ”で変わってくると思っています。
『AMAZON CACAO』は、小規模の生産農家を抱えている、そんなブランドです。」
初めは500人の農家だった「AMAZON CACAO」も、今では2000人の農家になったという。コロナ禍でも、太田氏が輸入したカカオの量は減ることはなく増える一方だった。
「できたものは、責任もって全部買う」
太田氏の力強いこの言葉。生産者さんにとって、安定と安心を、そしてモチベーションの向上をもたらした。そして太田氏を通じて生産のアドバイスをすることで、よりいいカカオづくりができ生産者の成長にもつながる。太田氏を通さなくても世界で販売できるような“自立した農家の在り方”を目指し促した。その責任感はどこから来るのか?それは生産者への想いはありながらも『AMAZON CACAO』というブランドは勝ち続けなければいけない」その大きなプレッシャーと決意があった。
太田氏「私にかせられていることは泥水をすすっても勝つこと。『サロン・デュ・ショコラ』では1年目、2年目、確実に階段をのぼっていると感じています。もちろん生産者への気持ちもあります。
今ではバレンタイン市場で『アマゾンカカオ』で検索するとそのカカオを使用している商品がたくさん出てくるようになりました。2015年に日本に帰国し、最初に使ってくれた人はレストラン系のシェフたちだけでたった5人だったんです。今ではショコラティエだけではなく、カフェでも使われるようになりました。使ってくれたその商品が売れれば、それはこの上なく嬉しいことですね。」
太田氏「今何を伝えたいか、今でも変わらず生産者で農家です。彼らが一番になる世界をどうやったら目指せるのか。私は『AMAZON CACAO』でその役割を全うしているし、それが自分の役目です。
カカオも先に述べた通り、全部買っています。あとは自分に鞭を打ち続けお菓子を作り続けるだけです。『AMAZON CACAO』という名前には、アマゾンにはどういう問題があるのか、カカオはどういう問題に立ち向かっているのか、10年後農家の世界がどうなっているのか、その想いが込められています。私は“今”ではなく10年後の未来を見据えて考え、行動しています。」
太田氏が毎年行く場所として、「AMAZON CACAO」のルーツであるペルーが挙げられる。写真で太田氏が着用しているパーカーの写真は、ペルーの金の採掘場。森林伐採が止まないペルーで、どうして温暖化が進むのか、自分の目で見たいという気持ちから自ら足を運んでいるという。
太田氏「カカオとかチョコレートってアマゾンで生まれた天然の食材です。まだその原種が眠っているかもしれない森が燃やされている。その現状を見ていると、来年は日本の苺は恐ろしいことになると思っています。2023年のクリスマス時期は苺不足が深刻でした。温暖化により、とても暖かい一年でしたよね。驚くと思いますが、日本の農地はどんどん砂丘のようになってきてしまっています。熱帯化しその影響が北上して、今は北海道が面白いといわれていますが、10年後はもしかしたら南国の果実パッションフルーツが北海道で育っているかもしれません。
先述のカカオの生産者のこともそうですが現状の問題を“知ってもらうこと”が大切だと思っています。この目まぐるしいバレンタイン市場で、常に作りたいものを作って、暑苦しいかもしれないけど、商品説明を必死にして伝えたいことを伝える。それが今私にできる、最大限の責任です。」
「AMAZON CACAO」太田シェフ出店情報
1月17日~22日 伊勢丹新宿店 6F「サロン・デュ・ショコラ」
2月2日~14日 松屋銀座ほか
クリーム太朗
ウフ。編集長
編集責任者。ショートケーキ研究家として、日本全国のケーキを食べ比べる。自身でも、ケーキやチョコレートの製造・販売を目指すべく、知識だけではなく実技も鍛錬中
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