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日本代表が世界3位入賞 – ICC(国際ケータリング大会)の舞台裏から見る、日本人パティシエが世界で強いワケ

日本代表が世界3位入賞 – ICC(国際ケータリング大会)の舞台裏から見る、日本人パティシエが世界で強いワケ

2025年1月に開催された、世界のトップシェフとパティシエが技術を競う「インターナショナル・ケータリング・カップ」(以下、ICC)。今年、10年ぶりに挑んだ日本代表チームが、見事世界3位に輝きました。

「インターナショナル・ケータリング・カップ」とはそもそもどんな大会?今回は大会の特徴や競技内容、日本代表の挑戦、そしてデザート部門を担当したパティシエ・吉田薫さんのこだわりを特別にインタビューしました。世界大会の舞台裏をたっぷりとお届けします。

世界に挑んだパティシエ・吉田薫さん

今回足を運んだのは、京都府八幡市にある「パティスリー・ナチュール・シロモト」。閑静な住宅街の中にある、広々とした敷地のパティスリーで、2階にはゆったりと寛げるサロンもあります。

日本代表が世界3位入賞 – ICC(国際ケータリング大会)の舞台裏から見る、日本人パティシエが世界で強いワケ

このお店のスーシェフを務めているのが、吉田薫さん。厨房の最高ポジションであるオーブン担当として活躍しています。

日本代表が世界3位入賞 – ICC(国際ケータリング大会)の舞台裏から見る、日本人パティシエが世界で強いワケ

吉田さんは9年前「パティスリー・ナチュール・シロモト」に転職。お店の先輩として今年の洋菓子の世界最高峰「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー」で優勝を飾った日本代表・的場勇志シェフ(現在は株式会社美十)も在籍していて、刺激を受けたそうです。高い技術を持つ的場さんの背中を見ながら、自身も数々の洋菓子コンクールに挑戦。

日本代表が世界3位入賞 – ICC(国際ケータリング大会)の舞台裏から見る、日本人パティシエが世界で強いワケ
「ルクサルド・グラン・プレミオ」3位入賞作品。絶妙すぎる飴細工のバランス

その努力の成果が着実に実を結び、2020年には「ルクサルド・グラン・プレミオ」で3位に入賞。そして、吉田さんにとって初めての世界規模の挑戦となる「ICC」では、堂々の3位入賞を果たしました。

世界大会「ICC」とは? 料理人とパティシエがタッグを組んで挑む料理&デザートの戦い

━━大会、お疲れ様でした!そして、3位入賞おめでとうございます。まず「ICC」という大会について詳しく教えてください。

吉田さん「ありがとうございます。『ICC』とは、料理だけ、デザートだけではなく、総合力を競う国際大会です。なので、料理人とパティシエがペアを組んで挑みます」

━━「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー」は先日テレビでも「2連覇の快挙」と大きく取り上げられるほど日本でも認知されてきましたが、「ICC」は初めて聞きました。

吉田さん「今回、日本にとってICC出場は10年ぶりだったそうなので、おそらく同業(パティシエ)も知らない人の方が多いと思います。が、フランスではかなり有名な大会だそうですよ。『クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー』と同じ会場で、『ICC』が先に実施されました」

日本代表が世界3位入賞 – ICC(国際ケータリング大会)の舞台裏から見る、日本人パティシエが世界で強いワケ
厨房でも厚い信頼が寄せられる吉田さん

━━吉田さんが「ICC」に出場することになったのは、どういった経緯で?

吉田さん「主催・運営の理事を務めているジョスレン・ドゥミエさんが、団長として指揮をとってくれて。僕はお世話になっている先輩の紹介を受けて、チームに参加させてもらうことになりました。最初は『世界大会』と聞いてすごく驚きましたが、二度とないチャンスだと思い、挑戦させてもらったんです」

日本代表が世界3位入賞 – ICC(国際ケータリング大会)の舞台裏から見る、日本人パティシエが世界で強いワケ

━━料理担当が「神戸北野テラス」の塩見隆太郎シェフ、デザート担当が吉田さん、団長にジョスレン・ドゥミエさんの3人で、日本チームが結成されたんですね。

吉田さん「僕にとっては初めての『チームで取り組むコンクール』。今までは個人戦ばかりだったので、すごく新鮮でした。約10ヶ月の間はひたすら試作をする日々でしたが、行き詰まった時もチームとして意見をくれて、力強かったですね」

限られた食材と制約の中で挑んだ至高のチョコレートスイーツ

━━大会で作ったデザートについて教えてください。

吉田さん「課題のメニューはあらかじめ決められていて、『アントルメ・ショコラ』『チョコレートパウンド』『スフレ・クレープ』の3品です。使用できる食材が大会から指定されていて、食材リストの中からしか選べなかったのが難しかったですね」

━━そうなんですね…!出場した12カ国、みんな同じような味わいになりそうですよね。

吉田さん「はい。みんなが同じ食材を使うから、いかに独創性を発揮し、どうやって差別化するか、本当に悩ましかったです。でも逆に、食材でごまかせない。自分のアイデアや製法、技術が試された場にもなり、勉強になりました」

━━その中で吉田さんが特に工夫された点について教えてください。

吉田さん「『アントルメ・ショコラ』というのは、いわゆるチョコレートケーキのことで、大会からはカカオ分80%と50%の2種類のチョコレートを使うように指定がありました。凝固剤(ゼラチン・ペクチンなど)を使い分けることで、口の中で溶ける時間を計算し、味わいにグラデーションをつけました。また、バニラビーンズを3本使用したバニラムースをセンターに忍ばせることで、香りを強調しています」

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アントルメ・ショコラ

━━凝固剤の使い分けは、製菓のプロの発想ですね。

吉田さん「あとは、イチジクのコンポートを加えました。ちょうど試作をしている最中にフランスへ研修留学する期間があり、フランス人たちにも意見をもらいました。イチジクのプチプチとした食感がすごく好評で。あと、底の層にはフィアンティーヌ(薄焼きクレープを砕いたもの)を忍ばせ、カリッとした食感を加えました」

━━聞くだけで美味しそうです!チョコレート&バニラにイチジクは香りが負けてしまうかな?と思ったのですが、食感は大事ですよね…。チョコレート・パウンドについても教えてください。

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手前がチョコレート・パウンド

吉田さん「食材リストの中で、パウンドに使えるドライフルーツはすごく限られていて。どう個性を出すかがポイントでした。それと、指定の焼き型があるんですけど、それが日本に売っていなくて。フランスから取り寄せたんですけど、めちゃくちゃデカい型で驚きました(笑)」

━━型が大きいと難易度が上がるんですか?

吉田さん「火の入れ方が難しくなるんです。外と中の温度が一定にならないから、外は焼きすぎてパサパサになりますね。逆に、火入れを弱くすると生焼けになってしまいます。しかも大会ではコンベクションオーブンしか使えないと聞いて、さらに難しく感じました。コンベクションは温風で火を入れるので、生地の水分が奪われてしまうんです」

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━━なるほど…。その課題に吉田さんはどう取り組んだのですか?

吉田さん「熱が均等に入るよう、特別な段ボールで囲んで、アルミホイルを被せて…と焼き型に直接風が当たらないようにガードして焼きました。あと、カステラの焼き方からヒントを得ました。そのためにカステラの作り方を一から勉強して…」

━━え、カステラの焼き方って特殊なんでしょうか?

吉田さん「焼成の途中でオーブンから出して、うっすらと表面が焼けて皮が張っているものを霧吹きで戻してあげてから混ぜる。という、生地に含まれた気泡を抜く『泡きり』を繰り返すんです。これによって熱が均等に入り、きめ細かい生地に焼き上がります」

━━そんな焼き方をしている国は…

吉田さん「日本だけですね(笑)。審査には作業点も含まれるので、審査員たちは興味津々で見ていました。ふわふわ食感になるので、日本人好みすぎるかな?と悩んだのですが、自分的には違いを見せることができて、結果的には良かったかなと思います。あとは、フレッシュのオレンジの皮をコンフィ(砂糖漬け)にし、香りを引き出しました。香りと食感のバランスが命。シンプルだけど、食べたときに『あっ、違う』と感じてもらえるようにしました」

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━━3品目がスフレ・クレープですが…そもそもスフレ・クレープってなんでしょうか?

吉田さん「分からないですよね(笑)。実は自分も食べたことがなくて、正解が分からず困りました。調べると、スフレをクレープ生地で挟んだもので」

━━そのままなんですね(笑)

吉田さん「ただ、スフレは温めて膨らませるものなので、提供のタイミングが鍵を握っています。時間が経つと萎んでしまうんです。ほんの数分で印象が変わるので、慎重に調整しました

━━なるほど、「ケータリング」だから大規模なパーティーやイベントなどで提供される想定で仕上げないといけないんですね。

吉田さん「そのため、ただ美味しい料理を作るだけでなく『短時間で大量に提供できる仕組み』『食べる瞬間まで美味しさをキープする工夫』『限られた設備で最大のパフォーマンスを発揮する力』といった、現場で役立つスキルが審査されるそうです。審査員は12カ国分を食べないといけなくて。もっと言うとデザートだけじゃなく料理も食べているんです」

━━結構な試食量がありますね。

吉田さん「なので、いかに『軽く食べてもらえて、印象に残るか』に重点を置きました。チョコレートは重くなりがちなので、クレープ生地にはレモンで作ったマーマレードを塗り、レモンのつぶつぶが時折感じられるように。さらに、仕上げに塩を軽く振ることで、甘みが引き締まり、最後まで飽きずに楽しめるようにしました」

日本代表が世界3位入賞 – ICC(国際ケータリング大会)の舞台裏から見る、日本人パティシエが世界で強いワケ

━━食べる人へのちょっとした配慮が、日本らしい気遣いですね。

吉田さん「3位という結果は、正直悔しいです。ただ、審査後、審査員に今後のアドバイスをもらいにいったところ『デザートは日本が圧倒的に一番だった』と高く評価してくれて、胸を撫で下ろしました」

━━吉田さんの挑戦は、世界に爪痕を残したんですね。

吉田さん「大会を通じて、改めてチームの大切さを実感しました。一人ではなく、支え合いながら最高のものを作る。そんな経験ができたことが、何よりの財産です」

「焼きたて・作りたて」にこだわる職人・吉田さんの今後は…

日本代表が世界3位入賞 – ICC(国際ケータリング大会)の舞台裏から見る、日本人パティシエが世界で強いワケ

10ヶ月の戦いを終えた吉田さんに、今後の目標や夢を聞いたところ「来年、独立を予定しています」とのこと。これまでに培った技術とアイデアで、どんなスイーツができるのかが楽しみです。

吉田さんの信念となっているのは「ナチュール」、つまり素材の鮮度を大切にし、最高の状態でスイーツを提供すること。現在の職場「パティスリー・ナチュール・シロモト」のオーナーシェフ・城本智和さんのポリシーでもあります。

独立後も「焼きたて・作りたて」を軸に、自分の理想とするお菓子作りを続けていきたいと語ってくれました。

日本代表が世界3位入賞 – ICC(国際ケータリング大会)の舞台裏から見る、日本人パティシエが世界で強いワケ
朝焼きのスポンジしか使わないという「鮮度」にこだわっている名店です!

「これからも挑戦を続けて、もっと技術を高めていきたい」——。そう語る吉田さんの目には、未来へのまっすぐな情熱が宿っていました。

About Shop
パティスリー・ナチュール・シロモト
京都府八幡市欽明台北4番地
営業時間:10:00〜18:30
定休日:不定休
Instagram:@nature_shiromoto_kyoto

あかざしょうこさん

あかざしょうこ

ウフ。編集スタッフ

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関西方面のスイーツ担当。1984年生まれ、大阪育ちのコピーライター。二児の母。焼き菓子全般が好き。特に粉糖を使ったお菓子が好きです。