2025年1月15日、江崎グリコに新しいブランドが誕生しました。その名も「Tunmel」(トゥンメル)。「時を超える、とろける貴石」というコンセプトのもと、古代マヤ文明の知恵と最先端技術、そしてグリコの健康への想いが融合した至高のチョコレートです。カカオの持つ無限の可能性を引き出すという「コールドエクストラクション」製法とは?その秘密を紐解くため、江崎グリコの開発チームにインタビューしてきました!
訪れたのは、大阪市北区。梅田駅から歩いて、オフィスビルの20階にある「江崎グリコ株式会社」の梅田オフィスに到着しました。
江崎グリコといえば、思い浮かべるのは「Pocky」シリーズをはじめとするお菓子類。ここ数年ではアーモンドミルク飲料の「アーモンド効果」が大ヒット。アイス部門では「パピコ」、カレールゥなど様々な食品を生み出してきた国民の味方です。
取材に応じていただいたのは、「Tunmel」(トゥンメル)プロジェクトリーダーを務める槌田智子さん(右)と商品開発担当の内藤篤さん(左)。早速、新ブランドについて聞いていきます。
━━「Tunmel」(トゥンメル)の発表、おめでとうございます!新ブランドは、どのような経緯で誕生したのでしょうか?
槌田さん:当社「江崎グリコ」はこれまで、「Pocky」や「メンタルバランスチョコレートGABA」など、親しみやすいチョコレート商品を多く手掛けてきました。当社の創業は、牡蠣の煮汁に含まれる栄養素「グリコーゲン」を気軽に摂ってもらえるようにと、栄養菓子「グリコ」を販売したことから始まっています。創業精神である、「おいしさと健康」の両立を体現する商品を作りたいという想いから、このプロジェクトがスタートしました。グリコの原点回帰とも言えると思います。
━━「グリコ」はむしろ、子どもに食べさせたいおやつの代表ですよね…!そこで着目したのが、カカオだったということですね。
槌田さん:2022年に、スイスの「Oro de Cacao(オロ デ カカオ)」社の技術を知る機会がありました。その技術というのが、素材の栄養分をより緻密に抽出するものだったんです。今回はその技術を活用してカカオの栄養素と魅力を引き出し、新しい価値を提案したいと考えました。
━━槌田さんも内藤さんも、新ブランドの立ち上げは初めてだったそうですね。
槌田さん:そうなんです。本当に…何もない状態から(笑)。最初にぶつかった壁は、「そもそも何を作ればいいのかわからない」ということでした。「ガナッシュを作る」という選択肢もあったし、生チョコやミルクチョコレートを作ることもできました。でもカカオそのものの魅力を引き出せる技術があるのだから「無垢なチョコレートそのものを作ろう」という方向に落ち着いて、ブランドコンセプトの策定、レシピ開発、製品テスト、販売計画まで…およそ1年で進めました。
━━たった1年でここまで進められるのはすごいですね…!
内藤さん:特にこの技術「コールドエクストラクション」を最大限活用するために、スイスの「Oro de Cacao」社と何度もやり取りを行い、サンプル製造のため現地にも足を運びました。日本国内での最終調整も何度も行い、理想的な味わいや形状を追求しました。試作回数は…100回以上はしたと思います。
※日本を含む複数国で特許が成立している技術。
日本における特許番号JP6655178B
━━今回採用した「コールドエクストラクション」とは、どのような技術なのでしょうか?
内藤さん:「コールドエクストラクション」は、「Oro de Cacao」社が持つ国際特許技術のことです。技術開発したのはチューリッヒ応用科学大学で食物に関わる研究をしている教授です。元をたどれば古代マヤで、カカオ豆に水を加えて石臼ですり潰して飲んでいた「ショコラトル」から着想を得ているようです。
━━古代マヤの知恵からヒントを得て、大学で研究され、「Oro de Cacao」社が特許を取得したと…。
内藤さん:通常、カカオ豆からチョコレートを作るには焙煎をするのですが、「コールドエクストラクション」では焙煎を行いません。カカオ豆に水を合わせ、時間をかけて磨砕(固い物質を細かく砕くこと)していきます。その後、特殊な設備を使ってカカオから成分を分離・抽出し、最終的にココアバター・ココアパウダー・ポリフェノールが多く含まれるココアエクストラクト・ココアアロマの4つになります。
━━カカオを4つの成分に分解するという意味合いでしょうか?
内藤さん:イメージしづらいかもしれませんが、簡単に言うとそうです。「香り」「風味」「ポリフェノール」などに一旦分解し、不要な酸味や苦味を取り除きながらそれらの成分を再度組み合わせるんです。この製法を取り入れることで、カカオが持つ栄養素を残し、そして余計な材料を使わずに美味しいチョコレート作りが実現できました。
━━なるほど!口溶けや香りといった「美味しさ」のための香料や乳化剤は不要ということですね。
内藤さん:そうです。砂糖の使用量も出来るだけ抑え、ほぼカカオがもつ成分だけで、日本人が好む「口溶け」感やカカオの香り、風味を感じてもらえるものになったと思います。
槌田さん:驚くほど苦味が抑えられているので80%以上のハイカカオは苦くて食べられない、という方にぜひ挑戦してもらいたいです!
━━ということは焙煎をしなくてもチョコレートは作れるということですよね?通常行う焙煎にはどんな意味があるのでしょうか。
内藤さん:焙煎が行われる理由としては、チョコレートらしい香りや風味を生み出すためです。ロースト感を出し、カカオ本来の旨味を引き出すんです。しかし、焙煎をしないとどうなるかというと、例えばローチョコレートのような青臭い香りや、カカオ独特の発酵臭が際立つことがあります。一方で、焙煎を施すことでそうした青臭さが抑えられ、一般的に馴染みのあるチョコレートらしい風味が作られます。
━━なるほど…。
内藤さん:ただし、焙煎にはデメリットもあります。焙煎しすぎると苦味や焦げた風味といったネガティブな要素が出てしまうこともあるため、そのバランスを取るのが難しい工程でもあります。今回、私たちは焙煎を行わないという製法を採用したんです。
━━こちらに3種類のサンプルがあります。まずは初級編(?)から…ペルー81%をいただきます!
内藤さん:ペルー産カカオのフローラルで華やかな香りを活かしたく、香り立ちのいい薄いキャレ形状にしています。舌の上で溶けていき、一番軽めに楽しんでもらえるかなと思います。
━━あっ、すごく口溶けなめらかな…ザラザラっとした細かい粒子感もまったくないですね。
内藤さん:カカオの食感をあえて残すこともできるのですが、香りを楽しんでいただきたいので口溶け重視です。そこまでの滑らかさを表現できるのも、ミクロ単位にまで磨砕できる高い技術のおかげなんです。ドミニカ82%は、重厚感がありながらフルーティな味わいに仕上がっています。
槌田さん:形状にもこだわっていまして、ドミニカは、美しい比率としてデザインに用いられる「白金比」を基にした長方形です。今回企画した3種すべてに共通するのですが、一口で食べられるサイズにしています。日本の食習慣を考えると、板チョコをかぶりつくというのは子どもの頃以来やっていない方が多いですよね。
━━確かにそうですね。イライラした時には無性にかぶりつきたくなりますが(笑)
槌田さん:そういった食べ方は甘いものを手軽に欲しい時のものですよね。糖分を摂取する意味合いが強いというか。味わって楽しむ時には向いていない食べ方な気がしました。そこで「一口で食べられるチョコレート」を作ろうと決めたんです。1寸(約3㎝)にすることで、ひとくちで味わっていただけるサイズに仕上がりました。型も3Dプリンターで試作したり…ここでも試行錯誤(笑)。
━━見た目のデザインも大事ですよね。シンプルだけど個性が必要…難しいところだとは思います。
槌田さん:ガーナ83%は宝石のようなブリリアントカット形状にしています。どこからみても美しく見えるようにしているのと、多面体にすることで表面積が一番広くとれるんです。その分風味が長く持続します。
内藤さん:ガーナはカカオの重厚感をしっかり味わえると思います。カカオ分は一番高いのですが、チョコレートらしい味わいです。それぞれ、抽出した成分の配合でどの要素を強めるか、どう食べてもらうのが良いのか、を何度も話し合い試作を進めました。使用している原料はカカオと砂糖のみです。この新しいチョコレート体験をぜひ楽しんでいただければと思います。
━━何か新しいことが始まった気がします!実際に食べてみて、特にハイカカオが苦手な方でも美味しく食べられると思いました。一度試していただきたいですね。
槌田さん:そうなんです!むしろこれまでハイカカオが苦手だった方にとって、新しい出会いになるかもしれません。チョコレートは子どもの頃からスーパーで売っているので、食べ慣れているお菓子です。その一方で、深掘りしていくととても奥が深い世界ですよね。今回のような製品を通じて、産地の違いや香りの特徴を楽しむきっかけを提供できればと思っています。これならより分かりやすく、そして美味しく楽しんでもらえるんじゃないかと。
━━ありがとうございました!新ブランド「Tunmel」(トゥンメル)の、今後の展開について教えてください。将来的には他の産地やバリエーションの展開も考えていらっしゃるのでしょうか?
内藤さん:そうですね。ゆくゆくは、カカオ本来の風味が主役のチョコレートなので、砂糖以外の余計なものを使わない分、カカオの特性がダイレクトに伝わります。そのため、バラエティを広げるという意味では、産地や品種を増やすことが面白さにつながると考えています。今後の展開の一つとして、その方向性も視野に入れて検討しています。
━━ちなみに現段階では、販売場所は百貨店のみになるんですか?
槌田さん:はい、現時点では百貨店のみです。現在公開している情報としては、バレンタインに向けて阪急百貨店と伊勢丹新宿店にて期間限定で販売する予定です。具体的には、伊勢丹では2月8日から1週間のポップアップショップを予定しており、両百貨店のオンラインストアでも取り扱いがあります。その先については、引き続きポップアップショップの展開や、今年中(2025年中)にどこかで常設店を出したいと考えています。最新情報は公式Instagramで発信していくので、もし興味を持っていただけたなら、ぜひ百貨店やイベントに足を運んでいただけたらと思います。
「Tunmel」販売スケジュール
阪急うめだ本店 地下1階 ツリーテラス
2025年 1月15日(水) 〜1月19日(日) ※販売は終了しています。
伊勢丹新宿店本館 地下1階 フードコレクションバレンタインステーションショコラ
2025年 2月8日(土) 〜2月14日(金)
Instagram:@tunmel_official
あかざしょうこ
ウフ。編集スタッフ
関西方面のスイーツ担当。1984年生まれ、大阪育ちのコピーライター。二児の母。焼き菓子全般が好き。特に粉糖を使ったお菓子が好きです。
Photo by Seiki Masai
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