秋になると京都に行きたくなるのは私だけでしょうか。今回も京都にある、デザート店を取材しました。京都や大阪では、数年前からカウンタースタイルのアシェットデセール専門店が次々と生まれていますが、その中でも特にデザート好きを唸らせると話題のお店です。
SNSを見ると敷居が高そうな、完成度の高い美しいデザートの写真が並んでいます。その世界観から「こだわりが強い職人」が営んでいる印象を受けますが、安心してください。カウンタースタイルをあえて選ぶということは、お喋りが大好きなのです。京都のデザート店「Harmonika(ハーモニカ)」と、芸術的なデセール3皿を紹介します。
「Harmonika(ハーモニカ)」のオープンは2022年。フレンチレストランで料理人をしていた松本シェフが、祇園にある履き物屋さんの一角を間借りして始めたデザートのお店です。あまりにも見つけにくい場所にも関わらず、料理人ならではの感性で生み出される芸術的な一皿が話題に。デザート通の心をがっしりと掴む存在になりました。
そして今年2月、待望の移転。場所は、京阪電車の「祇園四条」駅または「清水五条」駅から歩いて10分ほどのところにあります。
移転はしたものの「見つけにくい」は変わらないようで、とあるマンションの奥なのでうっかり通りすぎてしまいそうになります。通路の奥に進むと会員制バーのような雰囲気の看板が見えてきます。
綺麗なカウンターテーブル8席に、テーブル席が2卓。満席時でもすべて一人で対応するのだとか。メニューは、季節のフルーツを使ったアシェットデセールのアラカルト。取材に訪れた11月下旬は無花果、柿、葡萄、洋梨などがメニュー表に書かれていました。
「注文をいただいてからフルーツを切り始めるので、鮮度は良いですよ!同じ素材でも切ってみたら状態や味のバランス感が違うので、分量とか組み合わせるものなどは日々変わりますね。同じメニューに見えても微妙に違うと思いますよ。今日は何が食べたいですか?」
と、明るく導いてくれる松本シェフ。初対面でもグッと距離を縮めてくるけど、嫌な印象が一切ないコミュニケーションスキルは、一種の才能です。「お前はカウンタースタイルに向いているよ」と、過去働いたお店の上司にも言われたそうです。一人で行っても、いやむしろ「Harmonika(ハーモニカ)」は一人で行って松本シェフと話すことを楽しむお店なのかもしれません。
まず作ってもらったのは「洋梨」メインの一皿。
薄くスライスした洋梨で作られた薔薇が美しいです!この内側には、国産のヨーグルトをベースにクリーム状にした酸味のあるクレームダンジュ。そして、柚子で作ったコンフィチュールのソース、賽の目切りにした和歌山産みかんが入っています。
その周りに、国産のクラフトジンで作ったシャーベット。泡のソースにはライチの香りを移していて、最後に目の前でライムの果皮を削り、全体的に「爽やか」な仕立てです。
元料理人の松本シェフが考えるデザート構成は、パティシエとどんな違いがあるのだろう?と気になり、聞いてみました。
「パティシエは基本、持ち帰り前提のケーキを作る方が多いですよね。だからフルーツなども、一度ピューレやムースに加工して、生クリームやバター、砂糖と合わせます。その『加工』をして美味しさを引き出して表現するのが、パティシエさんたちの技術なのだと思います」
「自分は、旬のフルーツはできるだけそのまま出していて。洋梨を美味しく食べてもらうために、周りにどんな味、食感、香りがあればいいのかなっていう考え方をします」
主役のフルーツは手を加えずに、その良さを引き立たせるために脇役となる素材を存在させるのだとか。それぞれを単体で口に含んでも意味がなく、すべてが合わさってはじめて成り立つ、まるで一つの「劇」のようです。ただ、色々な味や香りはするものの、何も考えなくてもシンプルに美味しい。これが「Harmonika(ハーモニカ)」の魅力です。
「常連のお客様、多いですね。一週間連続で来てくれる方とか、海外の方だったら日本に来る度に必ず寄ってくれるとか。外国語はまったくできないんですけど、なんとか会話できています(笑)。大事なのはコミュニケーションを取りたいっていう気持ちなので。次に来てくれた時には相手の国の言葉で迎えてあげたいな、という想いで、中国語や韓国語、イタリア語にスペイン語…挨拶は覚えるようにしています」
続いて、「柿」の一皿を作ってもらいました。
柿のデセールでは、フレッシュの柿と少し色の濃い「江戸柿」を組み合わせています。フレッシュなものと熟してるものと2種類入れることで、柿のレイヤー感(奥深さのこと)が出るのだとか。
また「杏仁豆腐ではない杏仁豆腐」?が敷かれています。ここで言う「杏仁豆腐ではない杏仁豆腐」というのは、「杏の仁」を入れていないのでそう呼べないが、味はほぼ杏仁豆腐だというもの。一周回って、このように説明するのが一番分かりやすいそうです。
さらに薔薇のソース、アプリコットで作った酸味のあるソース、ローストしたアーモンドを砕いて食感に。
「アイスクリームは『リッチ杏仁豆腐パート2みたいなアイスクリームです」と、ボケているのか真剣なのかわからない解説をする松本シェフ。どうやら杏仁豆腐?の質感が異なったバージョンでアイスクリームにしているそうです。
そしてこちらにも泡のソース。
「料理人あるあるかもしれないんですけど、泡で盛り付けがち(笑)。美しさももちろんあるんですけど、液体で組み合わせるよりも量を減らせるんです。質感が重たくならずに口の中を軽くする効果があって、さっぱりさせてくれます」
ここまで読んだ方はなんとなくお気づきかもしれませんが、松本シェフは本当に話好きで、トークスキルも抜群です。テキパキと手を動かしながら「歌姫といえば誰?」「推しに会う方法」「英語の勉強をいつ諦めたか」…など次々にトークテーマを振ってくれるので、いつの間にか大盛り上がり。常連客が通いつめるのも納得です。
念願の移転を終えた松本シェフには今後、2つの目標があるそうです。
「1つはポップアップやコラボレーションなど、自分一人ではできない『広がり』のある仕事をしたい。そのためには人脈・縁・タイミングなど色々な要素が必要になると思うのですが、実現させるためのベース作りをしているところです。2つ目は、自分のデザートをポルノグラフィティに食べてもらうことです」
あ、ポルノグラフィティが好きなんですね。と話題を振ると、「お店の壁にサインしてもらうのが夢なんです!」と30分近くポルノグラフィティ愛を熱く語ってくれた松本シェフでした。
最後に、秋の味覚といえば「栗」。メニュー表には載っていないけれど、丹波の栗を使った限定デザートを作ってもらいました。
まずはイタリア産の栗で作ったクレームブリュレの表面を、バーナーで薄くキャラメリゼ。そこに丹波栗の渋皮煮を大胆に乗せて、甘納豆とレモン皮のコンフィ、オーツミルクのアイスクリームが盛られます。
「モンブランじゃないんですね」と尋ねると、和栗の繊細な香りを味わうなら渋皮煮や焼き栗、蒸し栗が一番だと話してくれました。
渋皮煮のシロップにラム酒を混ぜたソースをかけて、カカオのチュイールをトッピングして完成です。
これも絶品。丹波栗はもちろん美味しいのですが、イタリア栗のクレームブリュレと相まって全体の深みを出しています。モンブラン以外の新しい栗の楽しみ方だと感じました。
「Harmonika(ハーモニカ)」はアシェットデセールだけでなく、テイクアウトでフルーツタルトや焼き菓子も購入できます。もちろんタルトも、注文が入ってからカットして盛り付けてくれます。ただし、松本シェフのほぼワンオペ営業なので、時間に余裕をもって訪れてください。
松本シェフは時間が許す限り、たくさんの話をし、話を聞いてくれる方でした。中でも印象に残ったのは「Harmonika(ハーモニカ)」がカフェ・サロン・レストラン…といった既存のカテゴリのお店ではないということ。
「ジャズクラブみたいな感じで、共通の趣味を持った人たちが集まる社交場のような店です。デザートを通じてお互いに好きなものを語ったり、いい雰囲気で楽しんだり。そんなイメージで『desert club』という、新しい呼び方をしています。『Harmonika(ハーモニカ)』を誰かに話す時は、そう言ってくれたら嬉しいですね」
そんな“desert club”の「Harmonika(ハーモニカ)」、気軽な交流の場なので予約は不要です。
「中心地からそこまで離れてはないとは言え、少し歩くので。ここまで来て入れなかったっていうのは申し訳ないので、向かう前に電話をいただけたらありがたいです。で、電話に出れたら『席が空いてるんだな』と思ってもらえれば(笑)」と松本シェフ。
「甘いものが食べたいな」と思えば、ふらっと訪れることもできますが、確実に時間通りに席に座りたい場合は、お店に気軽に電話してみてくださいね。
About Shop
Harmonika(ハーモニカ)
京都府東山区弓矢町38 東側 Hale Luana 1階
営業時間:12:00〜21:00(L.O20:30)
定休日:火曜日
あかざしょうこ
ウフ。編集スタッフ
関西方面のスイーツ担当。1984年生まれ、大阪育ちのコピーライター。二児の母。焼き菓子全般が好き。特に粉糖を使ったお菓子が好きです。
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