ufu(ウフ)スイーツがないと始まらない。
「Artichoke chocolate(アーティチョークチョコレート)」(清澄白河)業界の異端児が作る、世にも美しく奇妙なショコラ~連載「チョコと人と、物語と」vol.13

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チョコレートの持つ「美味しさ」だけではなく、「人」にスポットをあてた連載「チョコと人と、物語と。」。今回も書き手をつとめるのは、ue_mon氏。チョコレート好きとしてだけではなく、チョコレートを取り巻く世界で活躍中。2023年は神戸市中央区 フェリシモ本社屋内にある「フェリシモ チョコレートミュージアム」で企画展も開催したue_monさんは、カカオに携わる多くの人たちから、大きな信頼を得ています。

そんなue_monさんの久しぶりとなる連載の舞台は清澄白河。蔵前と並び、今HOTな地域の一つ。メディアでの取材も過去にあまりない、「Artichoke chocolate(アーティチョークチョコレート)」宮下氏へ取材をさせていただきました。貴重なインタビューとなる今回、業界の異端児とも呼べる宮下さんが手掛ける、「Artichoke chocolate(アーティチョークチョコレート)」とは?

まずはインタビューの前にお店のことをご紹介します。

街に根付くお店としての「Artichoke chocolate(アーティチョークチョコレート)」

「Artichoke chocolate(アーティチョークチョコレート)」(清澄白河)業界の異端児が作る、世にも美しく奇妙なショコラ~連載「チョコと人と、物語と」vol.13

清澄白河から徒歩5分程度。2015年にOPENして以来、この街の大人やそして子供たちにも愛されるお店に。店内には、小さめサイズのタブレットショコラやボンボンショコラがズラリ。自社で職人たちがカカオ豆からチョコレートを作っており、カカオも産地ごとに使い分けています。

ボンボンショコラは季節で変わる新作がとってもユニークで、取材した時期はなんと「担々麺」など。

食べてみると本当に肉味噌?と思う食感とコクは、他では味わえません。そう、この「Artichoke chocolate(アーティチョークチョコレート)」の真骨頂ともいえるユニークなショコラは、どれも美しく、美味しく、心を奪われるものばかり。

ユニークなチョコレートの数々にときめく

「Artichoke chocolate(アーティチョークチョコレート)」(清澄白河)業界の異端児が作る、世にも美しく奇妙なショコラ~連載「チョコと人と、物語と」vol.13

ボンボンショコラ以外に、骨付きチキンのショコラや取材時期的にシュトーレンをショコラにしたものも。

またニンニクの形をしたショコラなどもあり、独特な世界観を持つ商品ラインアップ。そしてウッディーな店内で緑色に染まるパッケージの色合いは、ふと森の中にいるかのような空気感に。

ロリポップショコラは、小学生の人気商品らしく、一粒から買えるボンボンショコラしかり、地元のお客さんが買いやすく楽しみやすい設計になっています。

それではこの「Artichoke chocolate」。どういう経緯で誕生し、店主である宮下さんはどんなキャリアを歩み今に至るのか、カカオとの出会いと現在のカカオを通じた表現を伺いました。

パティスリーから飴屋へ、異色の転職

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ue_mon:初めに「Artichoke chocolate」をオープンさせたのはいつになるのでしょうか?

宮下さん:2015年11月にオープンさせました。

ue_mon:日本のBean to Bar業界の黎明期ですね!

宮下さん:はい! 実はオープン当初から僕たちは積極的にBean to Barと言うこと言葉は使ってきませんでしたし、お店のどこにも書いてないんですが、確かに他でやっているお店は少なかったと思います。

ue_mon:そうなんですね。その話も後ほどお伺いしてみたいですが、まず、宮下さんのキャリアとお店を立ち上げるに至った経緯を教えていただけますか?

宮下さん:僕は元々静岡が地元なんですが、学生時代は自分が将来オフィスでデスクワークをするイメージができなくて、それでただ漠然とですが手を使った仕事をしてみたいと思っていました。当時は美容師なのかパティシエなのか、はっきりとは考えていませんでしたが、技術を身に着けて商売をすることに憧れていたんです。そんなときに家の真裏にケーキ屋さんができて、そのお店のプリンを食べたときにあまりの美味しさに感動したんです!当時はまだあまりなかった滑らかなプリンで衝撃的でした。それで、こんな美味しいものを自分で作れたら幸せだろうなと思ったのが、製菓の世界を志すきっかけでした。

ue_mon:どこにきっかけが眠っているか分かりませんね! それで製菓学校へ?

宮下さん:はい!僕は東京の東京のエコール・キュリネール国立(現 エコール 辻 東京)に1年通いました。学校に入ってすぐに実習でアングレーズソース(卵黄を使ったカスタード風味のソース)を作ったんですが、それが美味しすぎて、「こんな完成された美味しさには勝てん!」と思いました(笑)でも、在学中、実習で使うヴァローナのクーベルチュールの美味しさに惚れ込んで、将来はチョコレート屋さんをやりたいと思いました。

ue_mon:凄く学びや刺激の多い1年だったんですね!それからどのようなキャリアを歩まれたんですか?

宮下さん:それでいざ就活となったときに、先生にもショコラティエになりたいと伝えたんですが、先生からショコラティエになること自体は反対されませんでしたが、「最初からチョコレートに道を絞ると学べることも限られてくるし、作業の内容自体はとても狭くなるよ。」とアドバイスを受けて。確かに求人を見てもセントラルキッチンの様な工場勤務みたいなところも多かったので、じゃあまずは色んな材料を扱えるパティスリーからだなと思いました。

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ue_mon:確かにパティスリーではチョコレートは扱えますが、ショコラトリーでは扱わない材料も多いですしね。

宮下さん:それで当時通っていた学校が国立市にあって、住んでいる場所も学校から近い場所に住んでいたんですが、そこから引っ越すのが面倒だなと思って近場で探しました(笑)

ue_mon:そこにこだわりは無かったんですね(笑)

宮下さん:はい!当時はあくまでもチョコレートに向かうまでの過程としか考えてなかったので、色々学べれば場所はこだわらなくても良いかなと思ってました(笑)それで国立にあったグーデ サンクと言う町のケーキ屋さんに就職しました。

ue_mon:いよいよキャリアのスタートですね!そこではどのくらい働かれたんですか?

宮下さん:そこでは一通り洋菓子全般を学んで、4年ほど働きました。

ue_mon:それからどちらに移られたんですか?

宮下さん:その後はいくつかのお店でアルバイトとか研修を受けながら、転々としていました。と言うのも、実際に4年パティスリーで働いてみて、ケーキに対する考え方がぼやけてきたこともあって、これからまた別のパティスリーで何年働いて・・・みたいなイメージが掴めなかったんですね。それで何しよう?って考えていたところ、飴屋さんに出会ったんです!

ue_mon:飴屋ですか!?

宮下さん:はい!PAPABUBBLEっていうスペイン バルセロナ発のお店です。

ue_mon:あぁ!よく飴細工の実演販売とかやっている! 金太郎飴みたいなキャンディのお店ですね!

宮下さん:そうです!

ue_mon:ケーキ屋から飴屋って振り幅も凄いですね。

宮下さん:逆にこだわりや執着がないからこそ、これまでのキャリアを捨てられるってこともありますが、今になって考えれば、色んな経験をしてきたことは無駄にはなってないですからね。

ue_mon:確かに「Artichoke chocolate」にもそれが反映されている気がします。それからPAPABUBBLEではどんなことをされていたんですか?

宮下さん:当時はまだ日本上陸間もないころで、中野に一店舗あるのみでした。まずは中野のお店で飴作りを教わりながら勤務して、半年ぐらい経って店舗拡大の時期も重なり、二店舗目を渋谷に出すことになって、その渋谷店の店長を任されました(笑)

ue_mon:大抜擢ですね!

宮下さん:凄く良い経験になりまいた。それからあちこち店舗を回って、最後は東京駅の大丸の地下にある店舗で一年ほど勤務してました。

ue_mon:僕もPAPABUBBLEを知ったのは大丸東京だった気がします。黙々と飴を作ってるところって、なぜだかずっと見てられるんですよね。当時見ていた職人さんは宮下さんだったかもしれませんね(笑)

宮下さん:そうかもしれません!

ue_mon:それでPAPABUBBLEの後はどうされたんですか?

宮下さん:その後は少し間を挟みますが、もう「Artichoke chocolate」の立ち上げです(笑)

ue_mon:っえ!?その流れから急にチョコレートですか!?

宮下さん:そうなんです(笑)

ue_mon:話が急すぎて・・・もう少し流れを詳しく教えてください!

ハワイで出会ったチョコレートづくりの面白さ

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宮下さん:まずPAPABUBBLEは世界中で店舗を展開しているんですが、それぞれの国に現地法人があって、様々な国の法人と人材交流とかもやっているんです。僕も一応店長と言う肩書だったので、色んな国に研修に行かせてもらう機会もあって、そこで世界のことを知れたのは、「Artichoke chocolate」の立ち上げに少なからず影響していると思います。

ue_mon:なるほど。パティスリーではヨーロッパや特にフランスに行く機会はあっても、世界中とまではいかないですものね。仕事では何ヵ国ぐらい回られたんですか?

宮下さん:もちろん本国のスペインには行きましたし、韓国やシンガポール、ベルギー、オランダにも行かせてもらいましたね。その研修とは別に社員旅行で海外にも行かせてもらっていて、ハワイにも行きましたよ。

ue_mon:す、凄いですね(笑)

宮下さん:本当にこれからビジネスを拡大していくって時期だったので、勢いもありましたし、人材育成にはかなりお金かけていたと思います。それでハワイに社員旅行で行った際に、どうやらハワイにはManoa Chocolateっていうカカオ豆からチョコレートを作るお店があるらしいということが分かって、それで社員旅行中なんですけど一人抜け出してManoa Chocolateに行って、オーナーのディランに会って、Bean to Barについて色々教えてもらいました(笑)。

ue_mon:まさかそこでManoa Chocolateが出てくるんですね!でもその頃には既にBean to Barにご興味があったんですか?

宮下さん:明確にBean to Barをやる!って言うことではありませんでしたが、色々と海外を見て行く中で、そういうものがあるってことは何となく知っていました。それでManoa Chocolateのディランに「僕も将来チョコレート屋をやろうと思っているんだよね」って伝えたら、「それなら工房見せてあげるよ!」って言ってくれて、一日かけてBean to Barのこととか、機材のことをディランから教えてもらいました。その頃はまだManoa Chocolateも今ほど大きい会社じゃなくて、狭いスペースで作っていたので、それを見てコンパクトなスペースでもチョコレート作りってできるんだなってことを学びました。

手段としてのBean to Bar。無限の可能性を楽しむチョコレートづくり

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ue_mon:では、Manoa Chocolateを訪れて初めて具体的にBean to Barを意識されるようになったんですね!

宮下さん:そうですね。それからハワイから帰国して、早速小さいメランジャー(ドラムの中で石のローラーが回転し、チョコレートを練り上げる機械)を購入して、自分のお家で実際にカカオ豆からチョコレートを作ってみました。それで何度か作っていくうちにチョコレートに対する考え方はある程度固まってきたんですが、それと同時に何も目的や目標が無いまま作っていてもあまり良くないなって思うようになって、それだったらとりあえずでも良いからお店を作ってしまって、実際に色んな方に食べてもらえれば、味の感想もフィードバックしてもらえるし、目的や目標もできるかなと思って、お店を作ることを決めました。

ue_mon:そんな経緯があったんですね。それにしても『とりあえず』と言うのはどういう意味でしょう?

宮下さん:先ほども少しお話しましたが、僕らがBean to Barと謳ってない理由もそこにあるのですが、もし美味しいチョコレートが作れなければBean to Barである必要は無いし、そもそも僕はヴァローナのクーベルチュールが美味しくてチョコレートの道を志した人間なので、今でもBean to Barで納得できる味が作れないならクーベルチュールを使えば良いと思っていますし、当初は始めた後でBean to Barを辞めてしまうのも手だなと思っていました。なのでとりあえずお店を作ってやってみる!このお店はそんなやりたいことや挑戦を表現できる場であって欲しかったんですね。

ue_mon:色々経験されてきた宮下さんだからこそな自由な考え方ですね!でも、それってある意味覚悟が要りますよね?

宮下さん:そうですね。でも、一つの考え方に執着し過ぎないことも商品作りには大事だと思います。極端なことを言ってしまえば、僕自身はBean to Barはあくまでも手段であって、それ自体が価値ではないと思っています。今は美味しいクーベルチュールはたくさんあるので、別に困ることはないんです。それでもA社のこのクーベルチュールにはベリーフルーツが合うとか、B社のこのクーベルチュールにはプラリネが・・・みたいな、そんなありふれた商品作りはしたくは無かったですし、美味しさを追求しながらも商品に個性を出したいとなると、表現に無限の可能性があるBean to Barと言う手段は魅力的だと感じています。

お店のルーツはフランスの田舎町

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ue_mon:Bean to Barは美味しさや個性を追求する上で必要な手段と言うことですね!だからホームページや商品説明にも謳っていないんですね。ところで、なぜお店の場所を清澄白河にしたのでしょうか?

宮下さん:これはお店のコンセプトのルーツにも関わる話になりますが、実はPAPABUBBLEを辞めた後に数か月間ヨーロッパを旅したんですね。最初トルコから入って、北欧の国々を回って、南下してフランスやイギリス、スペイン、ポルトガル、最後はモロッコまで行きました。その最中フランスに滞在しているときに、知り合いの伝手で紹介してもらった田舎のショコラトリーで一か月くらいお手伝いをさせてもらう機会があって、そのときの経験が大きく影響しています。

ue_mon:宮下さんの話を聞けば聞くほど、色んなご経験がありますね(笑)そこはどんなお店だったんですか?

宮下さん:僕自身も他のショコラティエには無いキャリアだなと思っています(笑)そのお店はリヨンの近くのグリニーと言う田舎町にあるChocolaterie G.Panelと言うところで、全然有名なお店ではないんですが、それでも創業100年以上の老舗でした。そのお店は本当に町の人たちに愛されいてるし、お客さんとの距離感が凄く近いんですね。三代目の女性オーナーは常連さんやご近所さんが集まると、よく作業台にお茶やお菓子を広げてお茶会を始めていました(笑)お国柄と言うか、土地柄みたいなものもあるのかもしれませんが、町の人達もチョコレートを買いに来るだけでなく、お店の人を気にかけて他愛のない会話をしに来てくれたり、ただチョコレートを売ったり、買ったりする店員とお客さんの関係じゃなくて、人と人とが繋がるコミュニケーションの場になっているなって感じて、とても居心地が良かったんです。日本だとショコラトリーって洗練されていて、どこか緊張する雰囲気があるなって感じるところもあるんですが、そのお店は全然そんなことなくて。

ue_mon:確かに日本でのフランスの洋菓子やチョコレートのイメージって、どこか堅苦しい部分もありますが、実際にフランスで見てみるとそんなこと無かったりしますしね。特に田舎の方はそれが顕著だと思います!

宮下さん:そうなんですよね!それに言葉の文化と言われたらそれまでですが、僕は日本のお店の「いらっしゃいませ」って言葉にも違和感を感じていて、普通人と会ったら「こんにちは」とか「おはようございます」とか挨拶するじゃないですか?それがお店をやってると皆「いらっしゃいませ」って、なんでなんだろ?って思ってるぐらいなので、僕のお店では「いらっしゃいませ」って言葉は基本は使わず、お客さんには普通に挨拶をするようにしています。それでヨーロッパの旅から帰って、色々考えたら自分のお店もChocolaterie G.Panelの様に、お客さんと距離の近いお店にしていきたいなって思って、そう考えたときに、東京で人と人とのコミュニケーションがまだ生きてる場所って、何となく下町風情が残るエリアかなって思ったんです。

ue_mon:なるほど!それで清澄白河!お店のコンセプトに合わせて町選びをしたと?

宮下さん:はい!でも、実は最初は隣の蔵前で探してたんです(笑)それが蔵前で中々良い物件が見つからなくて、範囲を広げて清澄白河も探してみようってことで探してみたら、今のお店の場所に巡り合えました。丁度物件を探している時期は、清澄白河にブルーボトルコーヒーの一号店がオープンして間もない頃で、その他にもいくつかコーヒー屋さんがオープンして町に勢いがあったので、昔ながらの風情や生活感を残しながらも、若い人たちも結構歩いてて良い雰囲気でした!

「Artichoke chocolate(アーティチョークチョコレート)」の由来

「Artichoke chocolate(アーティチョークチョコレート)」(清澄白河)業界の異端児が作る、世にも美しく奇妙なショコラ~連載「チョコと人と、物語と」vol.13

ue_mon:確かに清澄白河は町を歩いていても親しみやすい生活感がありますが、「Artichoke chocolate」を含め、個性豊かで魅力的なカフェや飲食店が多いイメージがありますね!ところで「Artichoke chocolate」のアーティチョークって、あの野菜のアーティチョークですよね?とても個性的な名前だと思うのですが、どんな由来があるのでしょうか?

宮下さん:諸説あります(笑)と言うのは冗談ですが、本当にこれっていう由来はありません!初めて本物のカカオの木を見たのがベトナムに行ったときだったんですけど、そのときにアーティチョークも初めて見て、なんか面白い形の植物だなって思ってたら、食べられる野菜だと知って衝撃を受けて、その印象が強かったんですかね。アーティチョークってガクを剥いてその中心にある柔らかいツボミの部分を食べるんですけど、そのツボミの部分をアーティチョークハートって呼んだりするんですよ。なんかハートのある植物って素敵じゃないですか?僕らもハートのあるチョコ作りをしたいなと。あと、清澄白河って東京都現代美術館があって、結構アートの町って言われたりするんですけど、アーティチョークの語呂がアートとチョコっぽいから良いかなと(笑)

「Artichoke chocolate(アーティチョークチョコレート)」(清澄白河)業界の異端児が作る、世にも美しく奇妙なショコラ~連載「チョコと人と、物語と」vol.13

ue_mon:フィーリング的な意味合いが強いんですかね(笑)アートと言えば「Artichoke chocolate」って、チキンを模したチョコレートやニンニク、蓮根、果ては鰻の蒲焼きや数の子まで、ユニークでアーティスティックなチョコレートを手掛けていますが、それにはどう言う意図があるのでしょうか?

宮下さん:意図と言いますか・・・僕らは前提としてBean to Barでのチョコレート作りも含め、やはりオリジナリティがある商品を作っていきたいと考えています。それともう一つ、僕自身のフランスでの経験から、チョコレートをもっと親しみやすくしたいとも思っているんですね。それで親しみやすいって言えば日常にある風景や、見慣れたものになると思うので、そういう形のチョコレートを作ったら、個性的かつ手に取ってもらいやすいチョコレートになるかなって。もちろん、清澄白河がアートの町だからって言うのもありますが、それはどちらかと言えば美術館のついでに立ち寄って下さるアート好きなお客さんに偶然刺さったと言うか、後付け的な要因が多いですかね。

ue_mon:そうなんですね!店内にチキンやニンニクの形を模したチョコレートが陳列してあるのって、凄くシュールですよね(笑)それにしてもチキンの骨の部分なんて凄くリアルだと思うんですが、これはどのように作っているんですか?

宮下さん:これはですね・・・ケンタッキーのフライドチキンでドラムって縦長の形をした下モモ肉の部位があるんですが、そのドラムをひたすら注文して骨をかき集めて(笑)シリコンで型を取って、その型にホワイトチョコレートを流しています。だから形は本物ですよ!そのホワイトチョコレートの骨に、お肉に似せて成形したジャンドゥーヤをまとわせて作ったのが、チキンのチョコレートですね。

ue_mon:まさかケンタッキー フライドチキンの骨だったんですね(笑)因みにこういったリアリティのある造形の商品は、どういうアイデアで生まれるのでしょうか?

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宮下さん:僕は日頃から何かチョコレートにできる題材はないかなって考えてはいるんですが、その殆どは思い付きですね。これをチョコレートにしてみたら面白いかな?みたいな感じです。ニンニクのチョコレートは、台湾に旅行に行った際に、たまたま通りかかった地下通路にアート作品を飾っているスペースがあって、そこにニンニクの彫刻が飾ってあって、なんか面白いなって思ったので、僕もチョコレートで作ってみようと。

ue_mon:なかなか普通のショコラティエではそうはならないんでしょうけど、今までの宮下さんのお話を伺っていると妙に納得してしまいます(笑)。

宮下さん:でもこれはあくまでビジュアルから入っている話ですが、あえて自分で乗り越える壁を作るって言うのも意識しています。例えばボンボンショコラとかは最近だと担々麺フレーバーのボンボンとか、ポン酢フレーバーのボンボンを作ったんですが、普通そんなの誰も作らないし、前例が無いから当たり前ですけど、一から自分でバランスとかレシピを考えていくしかないんですよね。どうやったら担々麺らしさを表現しつつ、チョコレートとしてちゃんと美味しく落とし込めるか?とか。でも自分自身に課題を設けて、それに向けて試行錯誤をするのは成長にもなるし、やっぱりもの作りをしている実感があるので楽しいです!

宮下さん流のチョコレートづくり

「Artichoke chocolate(アーティチョークチョコレート)」(清澄白河)業界の異端児が作る、世にも美しく奇妙なショコラ~連載「チョコと人と、物語と」vol.13

ue_mon:変わった商品を作るってそういう意味合いもあるですね!でも、既存のクーベルチュールならまだしも、クラフトチョコレートだと使用するチョコレートの選び方も違いますし、大変ではないですか?

宮下さん:片っ端から自作のチョコレートを試して、場合によってはシングルオリジンのチョコレートをブレンドして素材に合わせたりします。でも、その中でもある程度傾向はありますよ。例えばオレンジならエクアドルとか、ナッツ系ならドミニカとか。この作業自体はクーベルチュールと変わりませんが、何せ種類が多いのとカカオ豆も農産物なので、ロットによって仕上がりも変わりますし、その点は結構大変ですね。でも、お客さんも「次は何やるんですか?」って期待してくれてる部分もあるので、最近ではお客さんの無茶振りをどう形にするかっていう感じになってます(笑)

ue_mon:なるほど(笑)そのお話を伺ってても、お客様との関係性や宮下さんが目指すお店作りが垣間見える気がします!チョコレートの話に触れたので、Bean to Barでのチョコレート作りについてもお伺いしたいと思いますが、「Artichoke chocolate」さんが特徴的なのが、カカオ豆の状態からローストをするホールビーンズローストではなく、カカオニブに加工してからローストをするニブローストを取り入れている点だと思います。日本のクラフトチョコレートでは、ホールビーンズローストが圧倒的に多いですが、ニブローストをされている理由はどこにあるのでしょうか?

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宮下さん:カカオ豆はやはり農作物なので、産地や品種にもよりますが大きさが全然違うんですね。それで、その大きさの違うカカオ豆を一緒くたにローストをしてしまうと、大きい豆は中心が生焼け、小さい豆は焦げてしまう、なんてことも起こってしまいます。最終的にそうしたカカオ豆を全てすり潰して一つのチョコレートにするわけなので、味わいにブレが出てしまう可能性があるんです。それだったら自分たちである程度大きさを揃えて、その状態からローストを始めれば、焼き具合も均一にできるって言うのがニブローストのメリットだと思います。

ue_mon:確かにどこのメーカーもカカオ豆の大きさの違いは気にしている点だと思います。カカオ豆の大きさごとに選別して、そのカカオ豆のサイズに合わせて焼き具合も調整する、なんてこともホールビーンズローストだと必要になってきますね。

宮下さん:そうなんですよね。それに僕らがニブローストを取り入れて良かったと思う点がもう一つあって、カカオ豆の状態での仕入れに拘らなくて済むところにもあります。ホールビーンズローストをしているところでしたら、当然カカオ豆の状態で仕入れないといけませんが、僕らはそもそもニブローストなので、仕入れ先からローニブ(ローストをしていない生のニブ)か、極浅いローストをしたニブを指定して仕入れて、状態をチェックして、問題無ければそのままローストすることができるんです。なので、カカオハスク等の不可食部が出ることもなくて、処分に困ることもありません。今はカカオ豆の状態で仕入れるところもありますが、可能であれば産地の方でハスクが取れる程度のギリギリのローストをして、ニブに加工してもらうようにお願いしています。

ue_mon:メーカーによってはカカオ豆の状態で仕入れることに拘りを持っているところもあると思いますが、その点「Artichoke chocolate」はフレキシブルに対応されているんですね。それに産地にリクエストやフィードバックができるのも、現地生産者と密にコミュニケーションが取れるインポーターがいてこそですよね。

宮下さん:僕らが扱っているカカオ豆は、一つの生産国だけを相手にカカオ豆の輸入をされている専門性の高い小規模インポーターが主なので、何かあれば生産者ともしっかり連絡を取ってくれますし、リクエストにも対応してもらえます。やはり農作物は年によって出来不出来は必ずありますが、生産者とコミュニケーションが取れれば、事情を汲み取ることもできますし、それに合わせて我々側で対応することもできます。僕らはなるべくそうした生産者の分かるカカオ豆を選ぶようにしています。

ue_mon:素晴らしい取り組みですね。良いチョコレートを作るために産地やスペックで選ぶことも重要ですが、良いカカオ豆を作って行くために、生産者と協力していくことも同じく重要だと思います。ところで、もう一つ「Artichoke chocolate」の特徴的な点として、チョコレートをコンチング(チョコレートを練り上げて滑らかに仕上げる工程)する際に、メランジャー(ドラムの中で石のローラーが回転し、チョコレートを練り上げる機械)ではなくボールミル(金属の球が入ったドラムを回転させて内容物を粉砕する機械)を使っている点がありますね。どういった理由でボールミルを使われているのでしょうか?

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宮下さん:先ほどハワイから帰って、メランジャーを購入したって話をしたと思うんですけど、開業前にチョコレートの試作をしていく中で、メランジャーで使われている石材がチョコレートの味わいに与える影響って無いのかな?って疑問に思ったのがきっかけです。メランジャーでチョコレートを作ったときに、どこか曇った様な味わいになるのが気になっていて、それで色々調べたらボールミルって機械もあるらしいってことが分かって、最初は薬を粉末にするときに使う小さいボールミルを購入して、作ってみたら僕らが求めていた味わいになったので、それからずっとボールミルを使い続けています。今は生産量も増えたので、セルミ社製の製菓用のボールミルを使用しています。

ue_mon:クラフトチョコレートではコンチングってメランジャーのイメージが強いですが、ボールミルって選択肢もあるんですね。驚きです!

宮下さん:メランジャーと比べて、導入コストが高いのはデメリットかもしれませんが、やっぱり僕たちが表現したい味わいのためには替が効かない機材だと思っています。「Artichoke chocolate」が目指すテイストは、クーベルチュールとクラフトチョコレートの中間の様なチョコレートで、「食べ易いけどちゃんと個性もある」そんなチョコレートなので、口溶けが滑らかであることとか、味わいがクリアであることとかは結構重要だと思っています。

“生産者さんをもっと知って欲しい”「Farmer’s」と書かれたシールの秘密

「Artichoke chocolate(アーティチョークチョコレート)」(清澄白河)業界の異端児が作る、世にも美しく奇妙なショコラ~連載「チョコと人と、物語と」vol.13

ue_mon:確かに「Artichoke chocolate」のチョコレートは表現がシンプルで、とても理解し易いとなと思います。それでは最後に「artichoke chocolate」の今後の展望についてお伺いしたいと思います。宮下さんはこれからどの様なことに取り組んでいきたいと考えていますか?

宮下さん:「Artichoke chocolate」としては、もっと生産者との関係性を太く密にしていきたいと考えています。今、僕らのお店に並んでいる商品の中で、「Farmer’s」と書かれたシールがあると思うんですが、このシールはカカオ豆やフルーツ、ハーブ等の原料で、生産者と直接取引をしているか、インポーターを介して生産者とコミュニケーションが取れる商品に対して表示しています。この表示自体は去年2022年頃から始めたんですが、元々は先ほどもお話ししたカカオ豆の仕入れを小規模インポーターに切り替えたことでカカオ農家とも関係性が築ける様になったので、消費者にも何かの形でお伝えすることはできないかなと思ったのがきっかけです。今はそれが広がって国産のフルーツやハーブ等も直接取引している生産者をもっと知って頂きたいと考える様になりました。今後はもっと原料に拘って、直接取引する生産者を増やしていきたいと考えています。

ue_mon:確かに「Artichoke chocolate」の商品は奇抜なものに目がいきがちですが、素材にフォーカスした商品も多く並んでいますね。今現在、どのくらいの生産者と取引されているんですか?

宮下さん:現在直接取引しているところだけでも20軒ぐらいでしょうかね。ちょうど今は大分県の神鳥さんと言う方が育てている柚子が届いて、仕込み作業をしているところです。ここの柚子も無農薬で、肥料に海藻を混ぜて与える方法で栽培していて、そのお陰でエグ味の少ない柚子に育つので、茹でこぼしの回数も減って、ピールに香りを多く残すことができるんです。パティスリーで働いているときに、フランスから取り寄せるフランボワーズや洋梨のピュレを見てきましたが、僕らが今やりたいことはやっぱり生産者が見える素材をもっと使っていくことかなって思っています。それに、その素材で作った商品を生産者に送ったりもしているんです。やっぱり自分たちが育てたものが最終的にどの様な商品になるのか気になると思いますし、僕らもお客さんだけでなく生産者に伝えていくことも重要だと考えているので!

ue_mon:素晴らしい取り組みですね!ところでちょうどインタビュー中に小学生が一人でチョコレートを買いに来てましたが、よくあることなんですか?

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宮下さん:よく来ますね!ロリポップって言うスティック状のチョコレートは通常300円なんですが、小学生以下の子供に限って100円で販売しているので、学校帰りとかにおやつを買いに寄ってくれるんですよ。僕らが目指す方向はやっぱりフランスの田舎のショコラトリーなので、地域に受け入れられてこそだと思いますし、子供が安心して遊びに来れるお店って今の時代特に必要ですよね。今後もそう言う店であり続けたいと思ってます!

編集後記:取材しているときも、近隣の小学生が100円玉を握りしめてこのロリポップチョコレートを買いに来る子が。地元の人たちに愛され、ものづくりに必死に打ち込む宮下さんの姿がとても印象的でした。

About Shop
Artichoke chocolate
東京都江東区三好4丁目9−6
営業時間:11:00~19:00(日曜日のみ18時)
定休日:月曜日

ue_monさん

ue_mon

通りすがりのただのチョコ好き

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Instagram ue_monにて、お酒や料理、チョコレートの情報を発信中。チョコのテイスティングの感想も上げながら、チョコレートの魅力や楽しみ方も投稿。この連載では、チョコレートの作り手、ブランドを担う人々の姿や想いを執筆してくれます。