「ガレット・デ・ロワ」というお菓子をご存じでしょうか? シュトーレンに続き、このお菓子界で大旋風を巻き起こしている焼き菓子です。
その見た目は真ん丸なパイ生地で、日本では新年を迎えデパートはもちろんのこと、パン屋やお菓子屋さんからレストランまで、幅広い展開を見せています。
今回の記事では、ガレット・デ・ロワを数多く食べて取材してきたufu.編集長である筆者が「現代」のガレット・デ・ロワについてその深い世界をお届けしていきます。
「ガレット・デ・ロワ」はもともとはキリスト教の祭日、エピファニーにちなんだもの。エピファニーは公現祭と呼ばれ、1月6日または1月2日から8日の間の主日(日曜日)に、キリスト教会で行われる祝祭です。クリスマスとつながっており、エピファニーは6日と決まっていますが、実際は1月の第1日曜日が慣習となっていて、この日は家族で集まってガレット・デ・ロワを食べ、クリスマスを締めくくるというのが習慣になっています。
エピファニーではアジア、アフリカ、ヨーロッパの3大陸から訪れた東方三博士が幼子イエスを礼拝し、贈り物をした日ともされています。「ロワ rois」=「王たち」とは東方三博士のことで、彼らが持参した供物のシンボルがガレット・デ・ロワ=王様の菓子といわれています。
1月に入るとフランスの町のパン屋やケーキ屋のウインドウは、この伝統菓子でいっぱいに。スーパーでズラリとパックに入ったガレット・デ・ロワが大量に並べられている様子は、日本ではなかなか見られない光景です。
新年を祝う菓子となった現在は、切り分けた中にフェーヴが入っていた人は、王冠をかぶり、その1年を幸せに過ごせるものとして日本でも人気のお菓子の一つに。日本では誤飲の恐れがあることから、基本的には中には入れず、箱に添えられていることがほとんどです。
そのフェーヴが、例えば「ピエール・エルメ パリ」をはじめとした有名ブランドは毎年オリジナルのものを、そしてデザイナーとコラボレーションのものを出すなど、コレクターがどんどん増えているのが現状です。
実際に個人店でも作家さんとのコラボレーションも増え、1月4日から新宿の伊勢丹地下1階での催事を控える人気ブランド「Galet Galet(ガレガレ)」は人気陶芸作家村井陽子さんとコラボレーションのフェーヴが限定でつくほど。朝からフェーヴを求めて今年も並ぶことが予測されています。
もう一つ注目すべきは、ガレット・デ・ロワの表面に描かれる模様であるレイエ。パティシエたちの技術が結集し、腕の見せ所。伝統的なレイエは全部で4種類あり、それぞれに意味があります。
まずは写真一番左の月桂樹=勝利。そして左から2番目の太陽=生命力、写真右から2番目の麦の穂=豊穣、写真一番右のひまわり=栄光。
昨今は新しいレイエもどんどん生まれており、辰年ということで龍の鱗を表現したものもあり、もはやアートの領域に。
それぞれのレイエは、食べるときの食感にも大きな影響をもたらす。線画細かい太陽のレイエは、堀が深ければ深いほど、凹凸感ある食感になり、クラスト感あふれる味わいに。レイエ一つでも口の中で広がる味わいは大きく変わるのも面白い点です。
そして続いては中身についても、説明していきましょう。基本的にはフイユタージュ(パイ生地)とアーモンドクリームというシンプルな組み合わせの菓子です。そのクリームにカスタードクリームを加えたものをフランジパーヌといい、より卵感となめらかさを感じるため、フランジパーヌを使うお店、そうしないお店と分かれていきます。
生地は、「フイユタージュ・アンヴェルセ」といい、折りパイ生地の技法のひとつを使うお店もあります。通常のフイユタージュは、小麦粉と水と塩でつくった生地でバターを包み込み、のばして折って、を繰り返しますが「アンヴェルセ」はその逆で「逆折込パイ生地」と呼ばれます。
バターで生地を包んで折り重ねていくので、通常の生地よりも食感が圧倒的に軽く、食べたときにハラハラとした食感に。口溶けがよく、手間がかかる分美味しさに直結しているといえます。
そんな伝統的な「ガレット・デ・ロワ」ですが、昨今はショコラフレーバーをはじめ、新しい味わいがどんどん増えています。
今年はリンゴと柚子だったり、辰年にちなんでウーロン茶フレーバーのものが出たり中にクリームが入ったものなど、日本流にどんどん新しくなってきています。フランスの伝統は守りつつも若い人たちに「ガレット・デ・ロワ」はより浸透していきました。
先述の「Galet Galet(ガレガレ)」は、2023年にデビューしたばかりの「ガレット・デ・ロワ」専門店。実店舗を持たず、催事だけで活動するブランドでシェフをつとめる大澤シェフはビゴの店やホテル雅叙園など、名店出身。
今年も1月4~9日の間、新宿の伊勢丹地下での催事は人が殺到すること間違いなし。その秘密は「おひとり様」用のカット「ガレット・デ・ロワ」があるところ。ホールのサイズだと、大きくて食べきれないのが「ガレット・デ・ロワ」。そこで一人で暮らす方やギフト用にカットしたものを提供し始めたのがこの同ブランドです。
フランスの伝統を守る、伝えるという観点では否定的な意見を述べるジャーナリストもいますが、若い人や初めてこのお菓子に触れる人が増える点では、文化に興味を持ってもらういいきっかけになるのではないでしょうか? フランスの古典菓子は多くの人に“正しく”を大事にしながら、知ってもらうことが未来の伝統の継承と、存続につながるのではないでしょうか。
初めて知った方々へ、ぜひフランスのお正月のお菓子を食べてみてくださいね。
クリーム太朗
ウフ。編集長
編集責任者。ショートケーキ研究家として、日本全国のケーキを食べ比べる。自身でも、ケーキやチョコレートの製造・販売を目指すべく、知識だけではなく実技も鍛錬中
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