春になり、お出かけが気持ちのいい時期になりました。美味しいパンを食べながらピクニックしたり、「春のパン祭り」という言葉をよく耳にする通り、パンが恋しくなる季節です。スイーツメディアufu.の4月から5月の終わりまで特集するのは「パン」。一見スイーツじゃないように思えますが、老若男女問わず「おやつ」としてパンを食べるから、というのが理由の一つです。
今回、最初の記事として登場するのは八王子市で人気のお店「チクテベーカリー」。今回の特集のテーマでもある「パンとおやつと、幸せと」。パンが持つ幸せの力と、作り手の想いをお届けしていきます。
多摩ニュータウンの一部として開発された南大沢。都心部、新宿からは約1時間程度の八王子市にあります。団地も多く、その中でもかつては賑わっていた南大沢三丁目商店街にできたのが「チクテベーカリー(CICOUTE BAKERY)」です。
もともとは団地の人達が使うスーパーがあり、閉店後はシャッターが閉まり、町全体も高齢化。シャッター街となってしまった商店街を、再び元気にしたのが移転した「チクテベーカリー」でした。その後は、カフェ、そして向かいには再びスーパーが、そしてこだわり派のジェラート店など、賑やかな商店街に。商店街を見渡せば、学生や団地に住むご年配の方々、そして子供の遊ぶ声も聞こえてくるなど、とても活気あふれてのどかな空気が流れます。
お店を一歩入れば、そこはパン好きにとってはパンの楽園。コロナ禍前はやっていたというイートインスペースは、今はパンをお渡ししたり、日によって発送のパンの梱包スペースになっています。
11時半の開店に合わせて、どんどん焼きあがっていくパン。ハード系のパンから、お惣菜系のパン、ドライフルーツなどの甘いパンとその種類も豊富。季節でも変わっていくパンと、定番の人気のパンがいっぱい。
そして目を向けて欲しいのは、ズラリと並ぶパンだけではありません。
カウンターの横には、本や雑貨が並びます。店主の北村さんがおすすめするものを置いて、販売しているんだそう。
またお店のほとんどの部分が、小学校の廃材の一部を使っているんだそう。お店へ入った時に、よくお店の中を見回せば、ちょっとした懐かしさを感じるはずです。正面のパンが並ぶカウンターは、理科室のテーブルを上の板だけ変えて作ったもの。
また奥のパン製造へ入る入り口の木の格子やトイレの扉部分も、学校の廃材を。トイレの扉は、体育館の床素材を再利用しています。
またもう1つかわいらしいスポットが。前の小さなお店からあったこちらの一角を北村さんが「チクテ文庫」と呼びます。
お客さんに頂いたものや北村さんの娘さんが使っていたグロッケンシュピール(鉄琴)を置いて、お母さんがお買い物の時間も子どもたちがここに来て、楽しみにしてくれるのもいいなと思って作った場所なんだとか。
どうしても並ぶパンに目が行ってしまいますが、この記事を読んだパン好きの皆さんにも、ぜひ北村さんのこだわった空間を目で見て感じてみて欲しいです。
そして、お待ちかねのパンについて、チクテベーカリーのパンは国産の小麦と自家培養発酵種で作るところが大きな特徴です。北村さんが鎌倉のお店での修行時代から継ぎ続けている酵母なんだとか。
店内には、ハード系のパンがたくさん並ぶほか、冷蔵ケースには最近流行のあんバターなどサンドイッチもズラリと並びます。
北村さんに、ラインナップをどうやって決めたのか伺いました。
北村さん「食事系のパンが大好きなんです。特にハード系のパンが多く並ぶのは、自分が好きというのも理由ですが、やっぱり小麦、塩、水、酵母というシンプルで素材を感じられるパンが好きです。
小麦の味を活かそうと思うと、どんどんシンプルになっていきます。ただハード系のパンとか、食事系といってもすごく種類はいっぱいあるし、製法、味わいの方も色々あるので、シンプルなパンだからこそ、生活の中で食への喜びや感謝や楽しみ方を提案したいなと思っています。華やかなパンといよりは、素朴で素材を感じるようなパンを作っています。」
パン一つをとっても、美味しさの発見がつまった「チクテベーカリー」のパンは、日常生活の食の部分で小さな喜びや幸せを感じさせてくれます。そして最後に、この時期にぴったりなパンで北村さんからおすすめを教えていただきました。
数多くのパンの中で、この5つをおすすめいただきました。それぞれ解説していきます。
◎「あんバター」:毎日、夏場もやっている人気のパン。生地は食パンと同じで、むちっとした感じが食パンよりもあるんだとか。小豆は北海道の土蔵さんという農家さんから“エリモ小豆豆”をきび砂糖でさっぱりでコクのある味わいに。店主の北村さんのお母様が煮ているそうです。無塩バターとの相性が最高です。
◎「菜花と、豆腐ディップチキンとマッシュルームのサンド」:「有機農園けのひ」さんという、若いご夫婦が作られている有機野菜を使わっていて春のこの時期だけの商品。カーボロネロ菜花、小松菜菜花、白菜菜花、のらぼう菜の4つをミックスしていて、菜花の苦みも楽しめるような構成です。菜花はその時期収穫されるもので、多少変わるそう。
続いては、ハード系のパンを紹介します。
◎「黒小麦のプチバゲット」(写真右):長野の農家、なつみ農園宮原さんの小麦を使ったバゲット。モンゴルが発祥の古代種の小麦「黒小麦」を使用しています。小麦の外皮が黒というか紫色になっていて、お店にある石臼で自家製粉。小麦粉をまるごとひいて、丸ごとパンにされているんだとか。ぎゅっとかむと甘み、うまみが出てくるパンで北村さんのおすすめは生ハム、無塩バター。リベイクせず、そのままでも3日間は美味しくいただけるそう。
◎「マロングラッセ」(写真左上):砕いたマロングラッセを波照間(はてるま)黒糖を合わせていて、甘さが優しくて、コクがある仕上がりに。マロングラッセの栗の渋みと、すごく合う黒糖なんだとか。人気のパンで、毎日作っているそうです。スライスして無塩バターがおすすめだそう。
◎「オーガニックくるみのパン」(写真下):同じく、長野県のなつみ農園さんのパン。有機ユメアサヒ、シラネ小麦を合わせた自家製粉の全粒粉100%のパンで、甘みのあるくるみと、甘みがある小麦とのハーモニーがたまりません。味の濃厚さがうまく混ざり合って、スタッフたちにも人気のパンなんだとか。美味しいオリーブオイルで食べるのがおすすめだそう。
実は春先の週末は、土日限定で「いちごのタルティーヌ」が食べられるんだとか。これでもか!とふんだんに使われた苺と、ピーナッツバターを合わせて香ばしく焼き上げたバゲットとなっています。小粒苺のあとは、小豆島の無農薬夏ミカンのマーマレードとマスカルポーネのタルティーヌになるそうです。土日に行く方に、朗報ですね。
また常時買えるスイーツなパンもおすすめいただきました。フリュイとジンジャーのパンです。
ジンジャーのパンは、ライムジュースにつけたドライジンジャーとゆずピール、クルミを合わせて、食べた瞬間にしょうがの辛さというよりはアロマの香りとゆずの爽やかさで、もうひと口食べたくなる美味しさ。チーズに合い、男性に人気商品だそう。
フリュイは、ピーカンナッツとクランベリーとブルーベリーと、ラズベリーが入っています。フリュイでライ麦入りの生地はあまりないそうで、フルーツの濃厚さがぎゅっとつまったような味わいになっていて、ワインにも合うそう。
どちらもライ麦40%の生地で、スライスしてお好みの大きさで食べるのがおすすめなんだとか。
夕方前には完売してしまうチクテベーカリー。ぜひ今回の記事を読んで、買うパンの参考だけではなく、お店に一歩入ったときの温もりと北村さんの優しさとこだわりのつまった空間も楽しんで欲しいです。そしてお店を一歩出たあとに見える青空、そして自然の数々も一つの楽しみになれば。
「チクテベーカリー(CICOUTE BAKERY)」(南大沢)店主北村さんがパンを通じて運ぶ“小さな幸せ”
About Shop
チクテ ベーカリー
東京都八王子市南大沢3丁目9−5 コーシャハイム南大沢101
営業時間:11:30~16:30
定休日:月~水
クリーム太朗
ウフ。編集長
編集責任者。ショートケーキ研究家として、日本全国のケーキを食べ比べる。自身でも、ケーキやチョコレートの製造・販売を目指すべく、知識だけではなく実技も鍛錬中
Photo&Writing/Cream Taro
注目記事