今月のウフ。の「芋vs栗」で表紙に選んだのは、自由が丘にお店を構える「モンブラン」。有名人も手土産にするこのモンブラン、ufu.編集長の大好きなモンブランでもあり、レトロな見た目ながらも計算され、「栗」の美味しさを舌で本格的に味わえる最高の逸品。実は創業1933年、日本初のモンブラン発祥の店です。レシピを変えず、美味しさを保ちながらも進化を続けるモンブランの美味しさの秘密と、素敵なイラストレーションが施されたお店の秘密を今回取材してきました。
創業当時は、戦前。お店を開いたのは最初は三谷町。今でいう学芸大学のあたりに店を構えていたそう。戦争が始まり、強制疎開。戦後に再開するにあたって、お店選びに悩んだ末、選んだのはここ自由が丘。今ではスイーツの聖地として、年々お店が増え続けるこの地、当時はこの一帯は文化人、芸術家の方が多い地域ということもあり、舌が肥えている人が多かったのでこの地を選んだんだとか。
お店を入ると、すぐショーケースが。モンブランはもちろんのこと、今の季節でいうとイチジクのケーキがあるなど、季節によって変わる豊富なラインナップが並びます。ケーキはもちろんのこと焼き菓子、そしてアイスモンブランまで、幅広く取り揃えています。
そんなお店の名前「モンブラン」の名前がついた理由は、山登りが好きだった初代社長がシャモニーでモンブランというヨーロッパ最高峰の山を見て、その山に大変惹かれることもあり、「ぜひ、自分のお店にモンブランという名前をつけたい!」ということで、シャモニー市のふもとのホテル モンブランの支配人にも会いに行って、ちゃんと許可を取り商標登録を取ったんだそう。
ズラリと並んだモンブランは圧巻です。そしてショーケースを過ぎて、奥へ行くと広々としたティールームが。
席数は100程度、ゆったりとした空間となっています。またお店に飾ってあるのは、昭和の美人画家として有名な東郷青児。しかもこれはすべて原画という驚き。またケーキの箱も東郷青児のイラストが採用されているなど、どうしてこのお店で東郷青児の画がこんなにも飾られているのか、その理由を伺いました。
「創業者が、家族ぐるみで仲がよかったことが一つ理由です。創業者は先生が書生、無名時代から応援していたこともあり、店のために描いてくださいました。何度も書き直しを繰り返し、今のデザインになったそうです。
また絵のテーマは、洋菓子を通して、人々に夢を与える。人々の笑顔のきっかけになればと思い、やわらかい女性の美しい世界観で仕上げてくださいました。」
黄色く絞られたそのモンブラン。グラデーションがかったカップのフィルム、まるまるっとした上にのったメレンゲ。1933年からずっとこの見た目。今見ても、このフォルムの圧倒的な美しさ、かわいさは揺るぎません。洋酒をはじめとする、他のものを一切入れずに、日本人として大事にしてきた「素材」の良さを活かしたモンブラン。その誕生の秘話とは?
「モンブランで初めて作られたモンブランは、モンブランの山肌と万年雪を表現しています。おだまきで絞った栗のクリームがモンブランの山肌を。てっぺんに乗っかった白いメレンゲが万年雪を表しています。もともとは中世からあったデザートで、メレンゲの上にマロンのクリームを盛り付けたようなデザート。それにヒントを得てお持ち帰りできるようにしたのが、モンブランという、ケーキの始まりなんです。
お持ち帰りできるように、どのような形でカステラを入れようかっていうことや、日本の皆様に食べていただきたいケーキだったので、フランスやイタリア産の栗は使わずに、国産の栗を使うことを考えて・・・構想をすごく練りました。高級なイメージのある栗をどのように洋菓子に取り入れるかということも考えたようなんです。」
「そうして、初代社長が考え出した形は・・・土台のカステラの中をくりぬいて、そこにカスタードクリームと甘露煮にした栗が丸ごと1個。その上にバタークリームがあって。生クリームがきて。おだまきで絞った栗のクリームに白いメレンゲがのって・・・こうしてモンブランの形ができたんです。マロンクリームの下に見えるクリームはバタークリーム。味わいのアクセントに土台のフチに細く一周だけ絞ってあります。全体の絶妙なバランスは創業時から変わりません。」
今回、なかなか難易度が高い、このモンブランの断面図の写真をいただきました。まるまるっと入った栗が絶品。そして上のバタークリーム、その上のマロンクリーム、メレンゲ、すべてのバランスが絶妙。そんな栗に、大きなこだわりがありました。
使っている栗についてのこだわりを伺うと、愛媛県産でずっと契約している農家さんの「中山栗」だそう。その栽培方法も独特で、木をあえて傾斜のあるところに植えていて、たくさん木になったものをまびいて、厳選した栗たちに栄養がわたるようにしているんだそう。
そのため原価はかなり高くなるとのこと。中山栗の特徴を伺うと……。「日本の栗というのは、洋栗と比べて、非常に繊細ながら華やかな香りです。角のない味わい。とくに中山栗は甘みも香りもいいです。日本全国の農園を渡り歩き、この栗にたどり着きました。うちではマロンクリーム、バタークリーム、生クリーム、カスタードクリーム4種類を使っていて、それぞれが主張しすぎない、そのバランスをすごく大事にしています。」
1933年から続くモンブラン。いつの時代の変わらなく美味しく食べられるように、モンブランを構成する要素・軸は変えず、材料を始め、製造する環境や機械などは常にブラシュアップしているんだそう。
About Shop
モンブラン
東京都目黒区自由が丘1丁目29−3(MAP)
営業時間:11:00~19:00
定休日:無休
クリーム太朗
ウフ。編集長
編集責任者。ショートケーキ研究家として、日本全国のケーキを食べ比べる。自身でも、ケーキやチョコレートの製造・販売を目指すべく、知識だけではなく実技も鍛錬中
Photo&Writing/Cream Taro
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