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若女将衆は“地方創生”のキーマンとなりうるか?石川県小松市に見る活性化のヒント

石川県小松市をご存知でしょうか。今回本記事を執筆するのはスイーツメディアufu.(ウフ。)編集長であるわたくし坂井。東京生まれであり、小松市とは縁もゆかりもない地ではあるものの、人と人との“縁の輪”で小松市の仕事をさせていただいたことがある。今回はメディア向けのモニターツアーに参加し、新しい小松市の取り組みを取材しながら“見て、聞いて感じたこと”を主たるテーマとして執筆させていただいた。

伝統文化が根付く歴史ある「産業都市」としての小松

まず石川県小松市について、知らない方も多いと思われるため紹介していきたい。小松市は、石川県の西南部に位置しており、2024年3月に北陸新幹線が開通し、小松市へのアクセスもしやすくなった。東京からは飛行機で約1時間20分程度とアクセスもよい。

先に述べた通り、小松市は産業都市である。江戸時代から、前田利常公の殖産興業政策によって城下に職人たちが集まり、「ものづくり」を生業として繁栄してきた時代背景もあり、この地には取り分け伝統工芸や産業が根付いている。建設機械メーカー「コマツ」誕生の地であり“世界のコマツ”としてその名前は広く知られている。また繊維業も盛んであり、その高い技術力で世界中の国と取引する企業も多くいる。

また小松市を語るうえで、伝統工芸「九谷焼」は外せない。九谷焼は人間国宝をはじめ、若い世代の作家も数多く輩出しており、石川県全体の中でもその数は抜きん出ている。

そんな小松市には、今回で三度目の訪問となる。伝統文化もさることながら、私個人が感銘を受けたのは「人」だ。

現代に生きる九谷焼作家たちの姿

今回のモニターツアーでまず伺ったのが、九谷焼・伝統工芸士である浅蔵 一華さんの窯元。二代目が確立した「浅蔵カラー」と呼ばれる色彩表現を引き継ぎ、若くして2015年には伝統工芸士(九谷焼・加飾部門)に認定。今の小松市を代表する九谷焼作家である。

受け継がれし「浅蔵カラー」の大きな特徴はこのイエローである。なぜ黄色か?それは「九谷五彩」と呼ばれる九谷焼独自の文化がある。九谷焼の特徴は呉須(ごす)と呼ばれる寒色系の黒色で線描き(骨描き)し、紺青・赤・紫・緑・黄の五色での絵の具を塗るのが大きな特徴だ。

一華さん曰くこの「浅蔵カラー」の凄みは、色合いそれぞれに代々受け継がれてきた「レシピ」があるところ。門外不出のレシピで彩られる絶妙な色合いと、造形美が相まってこの窯元の作品が出来上がる。

今回のツアーではないが、初めて小松市を訪れた際に出会った九谷細字技法(極小の文字を九谷焼の器体に描き入れる技法)を得意とする陶窯田村の4代目であり、九谷毛筆細字師 田村星都さんもこの地を代表する若い世代の一人だ。

この技法を受け継ぎ、現代に表現するのは親子でもある田村敬星さんと田村星都さんの2人だけ。極細の毛筆は、本当に人の手で仕上げられたのかと感嘆するほどの技術力。

小松市には、親から子へとその技術が代々守られ、更なる光を放っている。これは地方都市における大きな財産であり、未来でもある。

料亭文化の根付く小松市の女将の情熱

先述の通り、産業都市ゆえに多くの人が行き交う都市である小松。現代においてはビジネス利用も多い。小松にはものづくりの文化が花開くと同時に、食文化も並行して発展していった。

そのため、小松市には多くの料亭文化が根強く残っている。その小松の料亭文化を広めようと、市内の料理店や旅館の女将たちが 2023 年に「こまつ女将 小珠(こたま)の和」を結成した。

結成の背景には「コロナ禍」。そう話すのは料亭「梶助」の女将で、女将の会代表の梶あい子さん(写真)。それまでは女将同士顔を合わせる機会もほとんどなかったという。この小松市を盛り上げようと、小松市の料亭の女将たちが2023年に立ち上がり、北陸新幹線小松駅開業を起爆剤とし、おもてなしの心で地域の魅力を発信していくことを目的に発足した。

グループ名はふるさと“小松”、きらきら輝く“珠玉”と、故事「“和”を以って貴しとなす」から一字ずつ取って名付けられている。

女将の中には元オリンピック選手や己書の師範など、さまざまな経歴や個性を持ったメンバーが集まっており、小松市の魅力を伝えようとその情熱の火を灯したばかりだ。そんな女将たちの情熱と手を組んだのが「ゴディバ ジャパン」だ。

小松市と東京、そして世界を結ぶコラボレーション

日本橋にある「GODIVA café」にて記者発表会が開かれ、「ゴディバ」と連携して新商品開発に取り組むことが発表された。両者にどのような接点があったのであろうか? そのヒントに世界的建機メーカー「コマツ」の存在があった。1972年に「コマツ」の欧州拠点がベルギー・ビルボールド市に移転したことを契機に、1974 年に両市が姉妹友好都市の協定を締結。50 周年となる 2024 年、ベルギー発祥のゴディバは多彩な連携で両市の友好関係を祝福、応援するという形でこのようなコラボレーションが実現したのである。

先述の「こまつ女将 小珠の和」に参加する 9 つの料亭や旅館で GODIVA café と共同開発したオリジナルメニューを提供。写真は「和餐 伸」の鮎とチョコレートソースの共演だ。さらに首都圏で展開する GODIVA café では小松食材を取り入れ、九谷焼の器で提供する期間限定スイーツの販売も計画している(7/1から8/31までの期間限定)。この器を手掛けたのが、先ほど紹介した伝統工芸士・浅蔵一華さんだ。

完成した器

実際に訪れた際は器を作っている最中だった。ゴディバ監修のもと、器のサイズやデザインは協議を重ね、器を完成させた。これは伝統工芸と、今東京を沸かしているスイーツである「パフェ」との異文化交流だ。この器で食べる特別感は、彼女の工房へ直接赴いたからこそ感じるものがある。

また今回のモニターツアーでは料亭のコラボメニューの一部をいただくことができ、そして女将たちの本プロジェクトにおける熱い想いを聞くことができた。

「和餐 伸」の女将と大将

“まさかチョコレートを扱うとは思わなかった”そう話す女将と料亭の大将たち。チョコレートを扱うパティシエたちとは全く異なる、豊かなクリエイションを感じるチョコレート×料亭文化はとてつもなく新鮮なものであった。都内の星付きレストランでも、この感動は味わえないであろう。何が感動かというと、それはやはりこの小松市を盛り上げようとする職人たちの姿だった。

2024年。本当の意味での必要な地方創生策とは?

旅先で出会った小松市の方々。左上から「日本料理 なか乃」の女将、「割烹鮨 米八」の女将、和菓子屋「御朱印」の大将、左下から小松九谷工業協同組合理事長の宮本 雅夫先生、嘉永年間創業 手打ち蕎麦と乾物のお店すみげん店主、「長保屋茶舗」店主

東京での記者発表だけでは見えない、小松市の持つ芯(真)の部分=ポテンシャルを、実際に足を運んで訪問してからこそ気づくことができた。それは地元を盛り上げようとする若い世代や文化を引き継ぐ2代目、3代目以降の子孫の存在だ。人口急減・超高齢化という大きな課題は決して小松市だけではない。それは東京、いや日本全体の問題である。そしてその問題を解決するには数百年単位の月日がかかるであろう。長い目で、未来と今を結ぶ時間軸を俯瞰してみたときに、この小松市の希望の光は一番最初に書いた通り「人」である。

「マスメディア」が地方創生に影響をもたらすか? それはメディアの責任者である私自身がメディアを否定するのは矛盾をはらんでいると思うが、答えは「NO」である。地方創生において重要なキーマンとなるメディアは「人」であるべきだと強く感じた。それは、小松市には本当に素晴らしい人々がたくさんいるからだ。「人」が「人」をしっかり発信し、世界につなぎ、そして次の「輪」を広げていく。

時間がかかってもいい。小松市を盛り上げようとする若い担い手たちが一人一人手を取り合い、輪を作っていく。それがこの街の礎を、新しく堅固なものにしていくであろう。私自身も、その輪の一人として本記事を執筆させていただいた。本来であるならば「GODIVA café」との取り組みやメニューについて初めに書くべきであろう。私がこの記事を通じて伝えていくべきことは、その裏側にあるストーリーや目にした景色。この記事を読んだ人がその景色を一瞬でも想像できれば、真の意味で“メディア”として成功であろう。

ここまで読んでくださった皆さんは、この小松市の取り組みをどう感じたでしょうか? また地方創生の本当の意味での今必要なこととはどんなことでしょうか? この記事を読んで皆さんの意見を、反対意見でも賛同意見でもかまいません、ぜひお聞かせください。

【共同開発メニューの提供期間】
2024 年 6 月 21 日(金)~8 月 31 日(土)

〇参加料亭・旅館
料亭 一浪、日本料理 梶助、料亭 小六庵、和餐 伸、安宅の関 長沖、日本料理 なか乃、料亭 まつ家、割烹鮨 米八、あわづ温泉 喜多八

Photo&Writing/坂井勇太朗(ufu.編集長)