春になると食べたくなる“桜もち”。今回はその元祖「長命寺桜もち 山本や」を取材。隅田川のほとりで、桜もち一筋なんと300年以上という老舗。桜の季節には多くの人が集います。
本記事では「長命寺桜もち 山本や」の歴史を深堀。その美味しさと人気に迫ります。
「長命寺桜もち 山本や」が創業したのは1717年。今でこそ日常的に食される桜もちですが、誕生のきっかけは創業者山本新六氏のふとしたアイデアから。
当時、長命寺の門番として勤めていた山本氏。桜の時期が過ぎ、境内を見ると沢山の桜葉が落ちていたそう。そこで、この桜葉を使った和菓子を考案しようと思いついたのだとか。
それから試行錯誤を重ねて出来た和菓子は、瞬く間に“長命寺の桜もち”として江戸全体に旋風を起こしました。
大きな深緑の桜葉に包まれ、剥ぐと真っ白な餅皮が顔をのぞかせる桜もち。当時の江戸っ子にとって、それは新鮮なお菓子だったに違いありません。
そして今も尚「長命寺桜もち 山本や」は同じ手法で、桜もちのみを作り続けています。
3世紀に渡り商いを続けてきた「長命寺桜もち 山本や」には数々の武勇伝が。一説によると文政7年(1824年)には38万5千個の桜もちを販売。当時、江戸の人口は100万人以上と言われていたことから、もし1人1個食べていたと換算すると、約2.5人に1人という計算に。今考えても驚愕の数字にその人気ぶりが伺えます。
他にも、画家の葛飾北斎や勝海舟など、多くの著名人が同店の桜もちを愛食していたそう。
“花の香を若葉にこめてかぐはしき桜の餅家づとにせよ”
とは正岡子規が同店の桜もちを思って詠んだ詩。詩中の“家づと”とは実家への土産のこと。彼らもまた現代の私たちと同じように、桜と桜もちの相性を心から待ちわびていたことが分かります。
「長命寺桜もち 山本や」の桜もちは、2~3枚の桜葉で包まれているのが特徴。そのため、同店に倣って作られる関東風桜もちとでは一目瞭然の違いがあります。
1つ1つ餅皮を完全に桜葉で覆うのには意味があり、こうすることで乾燥せず、しっかりと香りを桜もちに移せるんだそう。「長命寺桜もち 山本や」の女将曰く“桜もちは香りを楽しむ和菓子。葉の塩漬けはどうぞ食べずに残してください”とのこと。
江戸時代は、隅田川の桜葉を使用していたそうですが、現在はより大きく香りの良い西伊豆・松崎産のオオシマザクラの食用葉を使用。塩漬けにすることで葉が発酵し、あの独特の香りが生まれるんだとか。
見た目や利便性だけでなく、香りまで楽しむところに、江戸の粋を感じます。
300年以上、材料も作り方も変わらない「長命寺桜もち 山本や」は添加物一切不使用。小麦と水のみから作られる餅皮は驚くほどに真っ白。生地を薄く延ばして焼くことで、もちもちとした餅皮にしっかりと桜葉の香りが移り、餡子ともよく絡みます。
北海道産の小豆を使った餡子はのど越しの良いこし餡。小豆を煮て、水にさらし、水分がなくなるまで練り上げ、やっと完成するこし餡は、大変な時間と労力を要するもの。少し固めの餡子はなんとも上品な甘さです。
桜葉の芳醇な香りはお茶ともよく合い、まるで春風を身体全体に浴びている気分です。
無添加のため、日持ちはその日限りの「長命寺桜もち 山本や」。お客さんには、餅皮が固くなる前の一番美味しいときに味わってもらいたいと、焼きの時間を毎日微調整しているそう。
事前に電話予約することで、“桜もち”を一番の状態で受け取ることができます。バラ売りは1個250円。イートインは500円。土産用の箱詰めは5個1500円からです。
桜の時期(2月中旬~4月下旬ごろまで)は、店内での飲食は不可とのこと。お土産にはもちろん、この時期は隅田川のほとりで、歴史と伝統ある「長命寺桜もち 山本や」の“桜もち”と共に季節を感じるのも風流ですね。
About Shop
長命寺桜もち 山本や
東京都墨田区向島5丁目1−14
営業時間:8:30~18:00
定休日:月曜日
予約:03-3622-3266(電話番号)
園果わたげ
ウフ。編集スタッフ
ufu.の新米編集者。メンズカルチャー誌でアシスタントを経験後ufu.に転身。 特技は甘いものを食べ続けること。最近は美術館内レストランの限定コラボスイーツにハマっている。
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