ミルフィーユやエクレア、クレープなど、日本に馴染み深いスイーツの多いフランス菓子。そんなフランス菓子の歴史や魅力を、毎月1つのお菓子をテーマに紹介する連載「名店のパティシエが教える。モデル・松川星さんが学ぶ正しいフランス菓子」。
フランス菓子について教えてくれるのは、フランスの有名パティスリーやホテルでの経験を持つ「パティシエ・シマ」の島田徹シェフ。ナビゲーターを務めるのは、女優・モデルとして活躍している松川星(あかり)さんです。
連載10回目のテーマは、魚をかたどったパイ菓子『ポワソンダブリル』。じつはフランスよりも日本で人気だというこのスイーツが、日本でここまで広まった理由とは?島田シェフと松川さんとともに、その秘密を探ります。
【前回の記事はこちら】
名店のパティシエが教える。モデル・松川星さんが学ぶ正しいフランス菓子 vol.9|「イースターチョコレート」
本連載でフランス菓子について教えてくれるのは、麹町駅から約徒歩3分の「パティシエ・シマ」オーナーシェフを務める島田徹シェフ。日本で最初のフランス菓子専門店「A.ルコント」でフランス菓子の基礎を学んだあと渡仏し、パティスリー界のピカソと呼ばれる「ピエール・エルメ」パリ本店、フランス最上位の格付けホテルである「ル・ブリストル」を経て約5年の滞在後帰国し「パティシエ・シマ」へ。
2016年に東京都洋菓子協会の公認技術指導員に任命、2022年フランスに本部を持つ世界最古のシェフの会「フランス料理アカデミー」に入会を認められるなど、若くして業界全体を盛り上げ、尽力する姿は日本を代表するパティシエといっても過言ではありません。
連載10回目のテーマは、エイプリルフールにちなんだ魚型のパイ菓子『ポワソンダブリル』。日本ではポピュラーになりつつあるお菓子にもかかわらず、フランスにはほとんど存在しないスイーツのようで……?
島田シェフ
「フランスでは、4月1日・エイプリルフールの日が『ポワソンダブリル』と呼ばれます。直訳すると“4月の魚”という意味、魚のシールを使った遊びや、冗談を言い合って楽しむことが多いです。
日本では魚を模したパイ菓子が『ポワソンダブリル』と名付けられることが多く、魚型に焼いた生地の中にカスタードクリームを詰めてフルーツをのせ、魚の目を表現するパーツを付けるのが一般的です。
日本ではスイーツとして広く普及している一方で、フランスではお菓子の風習は薄れており、魚の絵やシールを相手の背中に貼る、といった遊びをすることはあっても、魚のお菓子が振舞われることはあまりありません。
もともと魚に親しみのある日本では魚のお菓子を作る理由が欲しく、このフランスの文化が活用された結果、フランスよりも根強く定着したのだと思います」
日本の『ポワソンダブリル』は、魚型のパイ生地にカスタードクリームを詰め、フルーツをのせたものがほとんど。島田シェフはその発祥と、日本でこのパイ菓子として定着した理由について話します。
島田シェフ
「エイプリルフールを『ポワソンダブリル(4月の魚)』と呼ぶようになったきっかけには、複数の説があります。一説には魚はサバを指しており、サバが季節外れの4月によく釣れることから、この呼び名になったとされています。サバはフランスでは“間抜けなサバ”という言葉もあるほど頭の悪い印象があり、それがエイプリルフールのイメージと結びついたという説もありますね。
フランスでは、エイプリルフールに楽しむ食べ物についての定義はほとんどありません。魚の形であれば、食事系のパイやチョコレート、パンなど、さまざまなものが楽しまれています。魚のお菓子に生のフルーツを使うことも、日本よりはかなり少ないです。
日本でここまで魚型のパイが広まったのはきっと、日本にも複数の店舗があるフランス料理の名店『ポール・ボキューズ』も関係しています。お店のスペシャリテである『スズキのパイ包み焼き』は、フランスの本店でも長年受け継がれている最高傑作の料理として、日本の料理人に衝撃を与えました。その影響がパティスリーにも及び、今のような魚の形をしたパイ菓子が普及したのではないでしょうか」
たくさんのお菓子に囲まれ、幸せそうな笑顔を浮かべる松川さん。ポワソンダブリルのどこかおっとり、憎めないビジュアルに「どこから食べればいいんだろう……?」と悩む姿も。
松川さん
「パイ生地がサクサクで、厚みがあるのに軽やかで驚きました!いちごのフレッシュな甘さと、カスタードクリームのコクもすごく合っていると思います。パイで作られた口やヒレ、きょとんとした目も可愛くて、癒されます」
島田シェフ
「日本では毎年4月のはじめごろに、さまざまなお店が魚の形のパイを販売します。形はサバのモチーフが基本ですが、箱に入れやすいよう、マンボウのような正方形に近いものになることも多いです。
パティシエ・シマでも例年作っており、いちごを使ったものが基本ですが、オレンジやグレープフルーツをのせて作ったこともありました。生地に詰める素材にも、カスタードクリームに生クリームやアーモンドクリームをあわせたり、コンフィチュールを加えたり、さまざまなバリエーションがみられます。
この『ポワソンダブリル』はフランスではパティスリーにもパン屋でもほとんど見かけず、絶滅危惧種のような存在です。ある意味で、“日本独自のフランス菓子”ともいえますね」
次回のテーマは、フランス語ですずらんを表すケーキ『ミュゲ』。フランスの5月1日の風習“すずらんの日”を受け継ぐお菓子の歴史と、島田シェフがテーマに選んだ理由とは?『ミュゲ』とともに、国中にすずらんの花が咲き誇るフランスの文化に迫ります。
教えてくれた人
パティシエ・シマ 島田徹シェフ
日本で最初のフランス菓子専門店「A.ルコント」でフランス菓子の基礎を学ぶ。渡仏し「ピエール・エルメ」、「ホテル・ル・ブリストル」を経て5年の滞在後帰国し、東京麹町「パティシエ・シマ」オーナーシェフに就任。フランス菓子・食文化に精通し、世界最古のシェフの会「フランス料理アカデミー」に若くして入会を認められ会員となる。また公益社団法人東京都洋菓子協会技術指導委員、日本ソムリエ協会認定ワインエキスパートとしても活躍
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パティシエ・シマ(PATISSIER SHIMA)
東京都千代田区麹町3-12-4 麹町KYビル1F
営業時間:平日 11:00~19:00、土曜日 11:00~17:00
定休日:日・祝
Instagram:@patissiershima
<衣装協力>
ワンピース¥6,490 tocco closet(@toccocloset)
Photo/Masahiro Noguchi(野口マサヒロ) hair&make/Nakashima Aki(中島愛貴)
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