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パリブレストと松川星さん

名店のパティシエが教える。モデル・松川星さんが学ぶ正しいフランス菓子 vol.6|「パリブレスト」

ミルフィーユ、エクレア、クレープ、カヌレ…。日本に馴染み深いスイーツの多いフランス菓子。そんな定番のフランス菓子が誕生するまでの歴史はもちろんのこと、まだ日本では馴染みがなく、知られざるフランス菓子を紹介する連載「パティシエ・シマ 島田徹シェフが教える 松川星さんが学ぶ正しいフランス菓子」。

フランス菓子について教えてくれるのは、フランスの有名パティスリーやホテルでの経歴も持ち、日本の製菓業界でも第一線で活躍する「パティシエ・シマ」の島田徹シェフ。ナビゲーターとして登場するのは、女優・モデルとして活躍している松川星(あかり)さんです。

12月のテーマは、リング状のシュー生地が特徴的なお菓子『パリブレスト』。フランスと日本、どちらでも愛されるスイーツの誕生の秘密と、人気の理由に迫ります。

【前回の記事はこちら】
名店のパティシエが教える。モデル・松川星さんが学ぶ正しいフランス菓子 vol.5|「クグロフ」

日本が誇る名パティシエがフランス菓子の歴史を深く教える

島田徹シェフと松川星さん

本連載でフランス菓子について教えてくれるのは、麹町駅から約徒歩3分の「パティシエ・シマ」オーナーシェフを務める島田徹シェフ。島田徹シェフは、日本で最初のフランス菓子専門店「A.ルコント」でフランス菓子の基礎を学んだあと渡仏し、パティスリー界のピカソと呼ばれる「ピエール・エルメ」パリ本店へ。そしてフランス最上位の格付けホテルである「ル・ブリストル」を経て約5年の滞在後帰国し「パティシエ・シマ」へ。

2016年に東京都洋菓子協会の公認技術指導員に任命され、2022年フランスに本部を持つ世界最古のシェフの会「フランス料理アカデミー」に入会を認められる。高校生パティシエナンバーワン決定戦「スイーツ甲子園」では審査員をつとめるなど大活躍。洋菓子界でも若手の指導や業界全体にも関わるなど、若くして業界全体を盛り上げ、尽力する姿は日本を代表するパティシエといっても過言ではありません。

12月のお菓子。プラリネとシュー生地を合わせた「パリブレスト」

パリブレスト

12月のテーマは、リング状の形が特徴的なシュー菓子「パリブレスト」。たっぷりのプラリネをシュー生地にサンドしたスイーツは、濃厚な味わいと落ち着いた色味に冬らしさが漂います。

島田シェフ
「パリブレストは、カラメルとローストしたナッツをペースト状にした『プラリネ』を使ったお菓子です。シュー生地とカリカリとしたナッツの相性がよく、年間を通して、都市部だけでなく地方でも広く作られています。

プラリネに使うナッツはヘーゼルナッツとアーモンドですが、パティスリーごとに配合は異なります。アーモンドのみを使った『プラリネ・ダマンド』、ヘーゼルナッツだけで作る『プラリネ・ノワゼット』もありますね。

大きめのホールサイズやそれをカットして販売するのが主流ですが、最近では1人用のプチガトーも作られています」

誕生と歴史。ヒントは自転車レースにあり

今では、フランス各地で愛されているパリブレスト。生まれたきっかけは、フランスの首都・パリと、西部の軍港エリア・ブレスト間で行われた自転車レースだったのだとか。

上から見たパリブレスト

島田シェフ
「このお菓子は、1891年に開催された『パリ・ブレスト・パリ』という自転車レースが着想のもとになったとされています。コースの通り沿いにあったパティスリー『メゾン・ラフィット』の菓子職人 ルイ・デュランが、シュー生地を自転車のタイヤを模してリング状に絞ったのがはじまりです。

フランス人はナッツを好むため、ナッツとカラメルを合わせたプラリネもとても愛されています。パリブレストが130年以上にわたって作られ続けているのも、プラリネの影響が大きいのではないでしょうか。

プラリネに使うカラメルは日本では甘いもののイメージがありますが、ヨーロッパのカラメルはしっかり焦がされ、苦みがあるのが特徴です。焦がす際は、熱しすぎたら当然苦いけれど、中途半端で止めるとただ甘いだけになってしまう。絶妙なタイミングで火を止めることで、苦みと甘みのバランスがとれたカラメルが生まれます」

スイーツが並んだテーブルの前に座る松川星さん

休日はカフェを巡り、ケーキやドリンクを楽しむことも多いという松川さん。撮影の間も、「甘いものに囲まれて幸せです」と美しい笑顔が。松川さんのパリブレストの感想は?

松川さん
「クリームがとにかく美味しいです!コクと香りがしっかりあるのに重たくなくて、シュー生地と一緒にすっきり食べられました。アーモンドスライスのパリッとした食感も楽しくて、どんどん手が伸びます……」

パティシエ・シマではクリスマスケーキにも。味も形も多様に変化

フランスでは季節の分け隔てなく作られ、日本でも一年を通して定着しつつあるパリブレスト。パティシエ・シマには、そのほかのお店では見かけないパリブレストも!

島田シェフ
「うちの店では、スタンダードなパリブレストに加えて、リング状のシューの空洞にショートケーキを入れた『パリブレスト・ノエル』をクリスマスの時期限定で出しています。リング型だとケーキ全体の大きさの割にボリュームが少ないので、“ショートケーキを入れてみよう”、と。

このスタイルのパリブレストはほとんど見かけませんが、濃厚なプラリネに生クリームが加わることで味にコントラストが、スポンジが入ることで食感の違いが生まれ、より美味しくなりますね。

パリブレストの側面

パリブレストのクリームは縦に絞るのが一般的な一方、1人分のサイズでは縦だとクリームの量が多すぎるため、横に絞るといった変化が生まれます。最近ではプラリネとシュー生地を使ったお菓子を包括してパリブレストと呼ぶ店も多く、ミシャラクでは稲妻のような形のシュー生地を使うといった変化がありますね。

クリームにもアレンジが加わり、プラリネにピスタチオをプラスしたり、そもそも生クリームに変えたり、うちの店ではアプリコットガナッシュや抹茶を加えて作ったこともありました。時代によって変化しながら、今でも愛され続けているお菓子です」

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クレープシュゼット

次回のテーマは、オレンジリキュールをフランベする様子が迫力満点の「クレープシュゼット」。アシェットデセールとして人気のこのお菓子が生まれたのは、じつは失敗がきっかけ?その秘密と、日本とフランスのクレープ文化の違いに迫ります。

<衣装協力>
ワンピース¥6,490 tocco closet(@toccocloset)

教えてくれた人

パティシエ・シマの島田徹シェフ
パティシエ・シマ 島田徹シェフ

日本で最初のフランス菓子専門店「A.ルコント」でフランス菓子の基礎を学ぶ。渡仏し「ピエール・エルメ」、「ホテル・ル・ブリストル」を経て5年の滞在後帰国し、東京麹町「パティシエ・シマ」オーナーシェフに就任。フランス菓子・食文化に精通し、世界最古のシェフの会「フランス料理アカデミー」に若くして入会を認められ会員となる。また公益社団法人東京都洋菓子協会技術指導委員、日本ソムリエ協会認定ワインエキスパートとしても活躍

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パティシエ・シマ(PATISSIER SHIMA)
東京都千代田区麹町3-12-4 麹町KYビル1F
営業時間:平日 11:00~19:00、土曜日 11:00~17:00
定休日:日・祝
Instagram:@patissiershima

Photo/Masahiro Noguchi(野口マサヒロ) hair&make/Nakashima Aki(中島愛貴)