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搬入時に破水トラブルも。出産を乗り越えて辿りついたパティシエの働き方「KUNON Baking Factory」久野綾乃さん(後編)【女性パティシエの履歴書vol.1】

長時間労働や過酷な環境から、結婚や妊娠をきっかけに離職する女性も多いパティシエ業界。女性パティシエがキャリアを積み、プライベートと両立しながらお菓子作りを続けるためには、一体どうすればいいのか?

女性パティシエの働き方に迫る連載1回目で紹介するのは、焼き菓子店として始まり、現在は予約制パフェでも人気を博する「KUNON Baking Factory(クノン ベイキング ファクトリー)」店主の久野綾乃さん。

後編では、お店を開業して間もなく妊娠と出産を迎えた久野さんの体験と、導き出したお店の在り方を紹介します。

【前編はこちら】
保育士から27歳でお菓子の道へ!子どもがいても働き続けられる店づくり「KUNON Baking Factory」久野綾乃さん(前編)【女性パティシエの履歴書vol.1】

「KUNON Baking Factory」店主の久野綾乃さん

落ち着いた環境になった…と思った瞬間の妊娠と出産

焼き菓子店として人気を博し、行列もできるようになった「KUNON Baking Factory」。久野さんは、妊娠がわかってからも工房で生地を焼き、販売していたそう。お菓子作りはなんと出産前日まで続き…?

「KUNON Baking Factory」のキャロットケーキ

「有名店ではないので商品のクオリティが全てだと思い、無我夢中でつくりました。その後時間が経つにつれて売り上げが伸びて環境も安定してきたのですが、開店してちょうど1年後に妊娠が発覚して、つわりのため突然4カ月間寝たきりになりました。休業せざるを得ませんでした。

ここで改めて、女性のパティシエが現場で働くことの難しさを痛感しました。

出産が近づき、ようやくつわりが落ち着いたため不定期で営業を再開。出産直前まで作り続けていました。ある日、お菓子を販売してもらっていた近所のパン屋さんに品物を運んでいるときに破水して。まさかこのタイミングで!と驚きましたが、お菓子をそのままにするわけにもいかず番重(お菓子を置くトレー)を持って走り届け、そのまま産院にかけこみました。

パフェ上部のパーツ

産後は、働き方について悩みました。以前のような営業スタイルで再開したい気持ちもありましたが、子どもを早くから保育園に預けることにも罪悪感のような、強い葛藤があって。

いざ預けてみても子どもの体調不良で結局作れない、作ったのに売れない。そんなことも続き、悩んだ末現在の完全不定期の営業に落ち着きました。

一度に作れる数も限られるため、パフェは事前予約制、焼き菓子類はできる範囲で製造してSNSで販売日を告知する形にしています」

“面白い要素”の掛け合わせ。価値を作り、伝える

お店の営業や集客においては、ロッキング・オン時代の教えが多く生きているそう。「全部で4つあるんです」と、久野さんはその秘訣を話します。

上から見たパフェ

「まず大切なのは、需要を見極めて複数の“面白い要素”を掛け合わせ、まだ世にないものを作ることです。この店で作っているキャロットケーキのパフェも、わかりやすい例ですね。

キャロットケーキのような熱狂的なファンのいる土台があると、その要素が好きな人たちが興味を持ってくれるんです。そのうえでさらに2つ以上の要素、この店だとパフェの裏テーマや焼き菓子店らしさ、静岡県産をプラスすることで独自の価値を高めています。

次に、作った価値をお客様に積極的に伝えるように心がけています。出身地である静岡県に戻って農家の皆さんからリアルな苦労話やこだわりを聞くと、私自身もインスピーレションが湧くんです。私が作るお菓子によってその思いや情熱のバトンをつなぐために、パフェを作っている間にお客様に構成や産地を含めたストーリーを説明しています。

「KUNON Baking Factory」のマドレーヌ

3つ目は品質で、“美味しいことに誠実”であることです。作り置きすれば、オペレーション上は楽ですが、できるだけ当日朝や直前に焼くことにこだわって妥協しないようにしています。フルーツも、農家さんと丁寧にやりとりして、提供日にあわせて収穫してもらう、といったところですね。

最後は、周りに感謝することです。新しいスパイスや設備もお客様やシェフの紹介で知ることが多く、追加購入したコンベンションオーブンはフランス焼菓子の専門店である『cuisson-lucca(キュイソンルカ)』さんの紹介のもとで購入することができました。

他のオーナーパティシエと比べて私は経験が浅いですが、“一生懸命やると助けてくれる人がいる”とこの5年で実感しました。周りに感謝しながら、これからも謙虚な姿勢で常に学び続けていきたいです」

流れに身を任せて、ポジティブに

「何もない人がお菓子を売れるようになるには、何でもしないといけないので」と、これまでの歩みやお店への思いを語る久野さん。そんな久野さんが考える、女性のイベントと仕事を両立するコツとは?

コーヒー店で働く久野さん
珈琲店にて

「変化をマイナスに捉えず、柔軟でいることが大切だと考えています。私自身はお店を不定期営業で再開した後、コーヒー店でバリスタの経験も積みました。『今は子どもが小さくて長時間働けないから、外で勉強しようかな』みたいに、ポジティブでいるようにしていますね。

店側に合わせた完全不定期の営業スタイルは、お客様にとっては来店しづらく敬遠されるもの。それを踏まえて、選ばれる店になるためにより一層商品力を磨き、努力し続けることも重んじています。

キャロットケーキなパフェの全体

新たに学んだことをどうお店に活かしていくかは未定ですが、この地域で移転を検討しています。これからも情熱を持って静岡の果物を使い、良さを伝えていきたいですし、お菓子を食べることで心(精神)を満たすような、日常に寄り添う菓子店を目指していきたいです。

この街の児童福祉にも貢献したい気持ちもありますし、地域に根付いた女性パティシエとして、この南砂町をどう盛り上げていけるか、ワクワクしながら構想を練っています」

取材の最後まで、笑顔をこちらに向けながら話をしてくれた久野さん。「KUNON Baking Factory」のさらなる進化、そして久野さんの経験を映したまだ見ぬお店、どちらも想像するだけで心が躍ります。

About Shop
KUNON Baking Factory
東京都江東区北砂4-29-14
営業時間・定休日:完全不定期(Instagramで告知)
Instagram:@kunon_baking_factory