若手シェフを、女性シェフを応援するスイーツメディアufu.（ウフ。）がお届けする特別企画。今回の主人公は、青山にあるミニャルディーズ専門店「UN GRAIN（アン グラン）」で、パティシエとして働く畑谷 実咲（はたたにみさき）さん。まだ20代と若いパティシエさんです。
そんな彼女が個人の活動として、アートとお菓子を掛け合わせる新しい試みを7月に行いました。お菓子の世界でもなかなか珍しい「食べられる写真展」という試み。今回は畑谷さんを取材させていただきました。
7月19日、7月26日に初台にあるレストラン「HATO」を間借りし開催されました。メインはデザートで、アシェットデセール。
まずアシェットデセールをご存知でしょうか？ 旬の素材を使って、冷たさ温かさをそのままに、出来立てを賞味する「お皿に盛りつけたデザート」を指します。持ち帰ることを前提にした一般的なケーキとは違い、パティシェが、お皿をキャンバスに見立てて自由に表現し、余すことなくその技術を発揮できる分野でもあります。
今回は写真と、その写真のテーマから紐づけられたデザートが次々に運ばれてくる、デザートコース。
写真は、ニュージーランド生まれの写真家Jaz（ジャス）さん。本来、できたお菓子を写真におさめるという事が一般的ながら逆の発想で、写真からお菓子を作ったら面白いんじゃないかと考えはじめたというこのイベント。フォトグラファーのJazさんが撮ったそれぞれの写真、場所、思い、環境、など全て踏まえて、そこからインスピレーションを受けて、畑谷シェフが一皿のデザートとして表現をします。
例えばこちらのデザートは、写真の山や湖など映っている風景をイメージ。これはニュージーランド、写真家のJazさんの故郷の写真です。写真はすべてがフィルムカメラで撮影されたもの。
デザートの土台となるのは柑橘の一種である河内晩柑（かわちばんかん）の香りをうつした水羊羹。その上には甘夏と河内晩柑を写真のススキを表現しています。スープは、グレープフルーツの果汁に畑谷シェフの故郷の宇治田原町で採れた玉露の水出しをかけていて、仕上げにはオイルを。
写真の上にのせられた英語のシートは、畑谷シェフによるメモ。デセールを作っている時の頭の中をデザイナーさんが文字に起こしたものなんだとか。デザート、畑谷シェフのメモ、写真、そしてペアリングのドリンク、すべてが揃って一つの「展示」となります。
なぜ今回のような取り組みをしたのでしょうか？ シェフの生い立ちも含め、畑谷さんに聞きました。
Q.今回はなぜ、このような取り組みをしたのでしょうか？
畑谷さん「今働いている『UN GRAIN』でシェフをしていた昆布智成シェフの影響が凄く大きいです。昆布さんは様々な異業種の方々とコラボをしていて、料理人だったり、アーティストの方だったりと、近くで見ていてすごく影響を受けました。今回、学生時代に同級生だったJazさんから写真とお菓子の展示の話をいただいたときに、昆布さんと出会っていなかったら絶対にできなかったと思うほど。私にとっては、大きな挑戦でした。」
Q.今回のデザートはどんな観点で考えられたのでしょうか？
畑谷さん「まずは写真からインスピレーションを得る、というテーマから見た目から入りました。ただし、試作を重ねることにつれて、これは見た目よりももっと違う視点から、写真に写っていない部分を表現したらよいのではないかと考える様になりました。
例えば、このデザートは枯れ葉がメインのビジュアルとして映っていますが、この草の下には土がありそのさらに下には地層がありますよね。その目に見えない部分も「想像」していく。それがデザートの「創造」となり、新しい観点でデザートを作れたのではないかと思っています。去年までは見た目でしか作れませんでしたが、色々な表現の仕方を学び、それを今回しっかり表せたと思っています。」
Q.畑谷さんは、なぜお菓子の世界へ入ったのでしょうか？
畑谷さん「実は私は高校生の時は、スポーツ科にいて、デザートとか甘いものは食べちゃダメだったんです（笑）。スポーツ推薦で高校に入ったので、スイーツとは無縁の世界でした。でも、子どものころからの夢でパティシエになりたいと強く思っていました。両親も夢を応援してくれて、高校を卒業したあとは専門学校へ行きました。専門学校を卒業後は、お台場にあるヒルトンホテルに入社しました。」
Q.厳しい世界、挫折したことなどはありますか？
畑谷さん「実はないんです。もちろん大変なことはたくさんあります。前職は、元上司のお店の立ち上げを手伝っていて、本当に凄い長労働時間でしたが全く苦ではなかったです。仕事に対してのプライドや熱量は、どんなにしんどくなっても絶えないというか、だからこの職業は絶対やめたくないし、極めたいと思っています。その根っこを作ってくださったのは高校時代の恩師かもしれません。本当に上下関係も厳しい、スポーツの世界にいたので。」
Q.今後の展望を教えてください
畑谷さん「この食べられる写真展”総造”を店舗化する事です。年に数回のポップアップで、今はこの総造という活動、そしてイベントを知ってもらうことを一生懸命やっていきたいです。店舗化した時に、既に認知していただている状態を作っていきたいと思っています。 どんなパティシエになりたいか、やっぱり私は昆布さんみたいになりたいです！（笑）。」
常に新しいことに挑戦し続けて、パティシエという枠組みに囚われず、パティシエの可能性をもっと広げていきたいし、そういう存在になれるパティシエになりたいと思っています。最近はヴィーガンという分野にも興味を持っていて、尊敬するシェフに資生堂「FARO」の加藤峰子さんがいます。一緒に沖縄の視察も行かせていただき、考えていらっしゃることやイマジネーションもですが、勉強になることばかりです。様々な先輩から色々学びたいと思っています。」
「最近のモチベーションは、まだまだ本当に未熟者ではありますが、そんな私でも、私の作るお菓子を楽しみに待っていてくださるお客様がいることです。なかなか日常の仕事では私の作るものを頻繁に届けるという事はまだ難しいですが、少しずつ私を知って下さる方が増えて『UN GRAIN』を通して私を知ってくださって今回のイベントにもお越しくださるお客様もいらっしゃいます。ポップアップではありますが、こうして自分の作ったものを数多くのお客様に食べていただける事が今のモチベーションですね。」
畑谷シェフのInstagram @mi_sakilife
Photo&Writing／坂井勇太朗（編集長）
関連記事
注目記事
オンラインショップはこちら
