みなさんは“オルタナティブ”という音楽のジャンルを知っていますか?
1970年代から世界的広がりをみせたロックジャンルのひとつで、特徴は挑戦的なメロディーと歌詞。産業ロックに対抗する“新しいロック”として生まれ、世界中で一大ブームを巻き起こしました。
そんな“オルタナティブ”というジャンルでフランス菓子をやろうと決めたお店が東小金井にあります。名前は「Les Alternatives (アルタナティブ)」。「アルカション」でスーシェフを務めたのち、「パリ・セヴェイユ」やフランスの「オ・シャン・デュ・コック」で研鑽を深めた古屋健太郎シェフとパン職人の奥様によって2022年1月にオープンしたパティスリー&ブーランジェリーです。
「Les Alternatives (アルタナティブ)」。今回は、そんな古屋シェフが作る新しい挑戦に満ちたプチガトーを紹介します。
美しく、食べるたびに再発見のあるケーキは必見です。
視覚や香りなど、あらゆる表現で“オルタナティブ”を目指す古屋シェフ。ピスタチオを使った「Verdi(ヴェルディ)」は特に、視覚的な仕掛けを感じられます。
表面はローストして粉砕したピスタチオでぎっしりとコーティング。一目で主役のわかるプチガトーです。しかし、食べるとわかる多種多様な味わいは、5層ものパーツからできています。
層の中心には濃厚で素材の甘さが引き立つピスタチオクリーム。それをサンドするように空気をたっぷり含ませたふわふわのミルクチョコレートムースが。特にこの2つのムースのバランスにこだわったそうで、ほのかな酸味を感じるチョコレートムースがピスタチオクリームの重さを軽減しています。
生地を薄く焼いたフィヤンティーヌと、2つのムース。さらにピスタチオのクリームブリュレとクリスピーが表面を覆い、外側からは絶対に予想のつかない内部構造です。
「アルカション」も「パリ・セヴェイユ」も、伝統を大切にしたお店。しかし、同時に伝統を基にした無限に広がる革新性を忘れません。「パリ・セヴェイユ」の金子シェフから古屋シェフが学び体感した“香りのもつパワー”。これを表現したのが、プチガトー「Banon(バノン)」です。もちろん主役は“香り”。
ラベンダー風味のはちみつムースが全体を覆い、中にはカシスのムースを忍ばせています。
カシスのムースのヨーグルトのような角の取れた酸味が、甘く香り高いムースとのバランスをとります。
古屋シェフが「Banon(バノン)」を作る時、理想にしたのが、食べきったときに香りと一緒に甘さえ消えてしまうくらい儚い美しさのあるケーキ。香りを率直に伝えるため砂糖のような直接的な甘さは控え、シンプルにパーツを2つにしました。
繊細な印象を持つ真っ白な姿の『Banon(バノン)』。口に運んだ瞬間にラベンダーらしい可憐なアロマの香り広がります。食べ終えたときの余韻が美しい逸品です。
「forêt-noire(フォレノワール)」は、ほのかなキル酒の風味と、素材がもつ異なる酸味が奏でる複雑な味わいが魅力的な大人のチョコレートケーキ。古屋シェフが9年の修業期間を過ごした「アルカション」(南大泉)へのリスペクトから作られました。
プチガトー全体を包む紙のように薄くしっとりとしたビターチョコレート。クリームからは口に入れるとほのかに感じるキル酒の風味が感じられます。クリーミーな舌触りに、果肉感のあるベリーソースとカカオ豆の甘酸っぱさが混ざり合い、アルコール特有のとげをまろやかにしています。
フォークの上で8つのパーツ組み合わさってできる複雑多様な味わい。その味と変化を何度も確かめたくなる美味しさです。
「Les Alternatives (アルタナティブ)」の「Mont blanc(モンブラン)」は他とは異なる筒型をしています。ありそうでなかったその形がSNSで評判を呼び、多くの人が『Les Alternatives (アルタナティブ)』を知るきっかけになりました。
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濃厚なマロンクリームに合わせるのは、軽い口当たりのバニラクリーム。ボトムに敷かれたコーヒー風味のメレンゲはザクザクとした食感で、ほのかに感じる深い苦み。余計な酸味は加えず、調和のとれた甘さと苦みのみで成り立たせています。まるで腰を据えてどっしりと構える玄人のような貫禄を感じるプチガトーです。
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説明しすぎることを避け、固定概念を上回る“オルタナティブ”なお菓子を作りたいと考える古屋シェフ。「L’arlesienne(ラルルジエンヌ)」の説明書きには“レモンのタルト”としか書いてありません。
真っ白いリボンのようなイタリアンメレンゲはホイップクリームのように柔らかく、ブラッドオレンジの香りと微かな塩味を感じます。しっかりと存在を主張する、濃くキリっとした酸味を持つシトロンクリーム。
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ボトムのサブレは程よく厚めです。淡白になりやすいレモンシトロンに、バターの脂肪感と芳ばしさ、そしてザクザクとした食感を加えることで、印象的な味わいに。
優雅で、今にも踊りだしそうな動きのある「L’arlesienne(ラルルジエンヌ)」。お茶目で若々しい印象で、思わず心が弾みます。
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誰も知らない無名なところから、ただ何かを表現したいという気持ちがあって始めた「Les Alternatives (アルタナティブ)」。“常に新しいもを”と考える古屋シェフは、次々と新たなアイディアを発信し、形にしています。
いつ訪れても新しい発見のある東小金井のパティスリー&ブーランジェリー「Les Alternatives (アルタナティブ)」。ぜひ皆さんも一度おとずれてみてはいかがでしょうか。
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About Shop
Les Alternatives (アルタナティブ)
東京都小金井市梶野町5丁目7−18
営業時間:10:30~18:30
定休日:月、火
園果わたげ
ウフ。編集スタッフ
ufu.の新米編集者。メンズカルチャー誌でアシスタントを経験後ufu.に転身。 特技は甘いものを食べ続けること。最近は美術館内レストランの限定コラボスイーツにハマっている。
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