いまや日本各地で食べられるようになったフランス菓子。
しかし、皆さんは本物の伝統的なフランス菓子を食べたことがありますか?
今回紹介するのは、目黒区・学芸大学にある老舗パティスリー『RUE DE PASSY(リュードパッシー)』。フランス各地で経験を積み、伝統菓子に魅せられた長島正樹オーナーシェフが創業したお店です。
本記事では、本場フランスを感じる『RUE DE PASSY(リュードパッシー)』ならではのこだわりを取材。長島シェフが目指す“新しい伝統菓子”を感じられるケーキを5つ紹介します。
住宅街を歩いていくと十字路の角に現れる、クラシカルな雰囲気が漂う店。
店内に入るとショーケースの中には、端正な色と形のガトーが並びます。奥にはカフェスペースがあり、ケーキと共に思い思いの時間を過ごすことも。統一された温かみのあるデザインは、古き良きフランスを思わせる佇まいです。
『RUE DE PASSY』とは仏語で“パッシー通り”の意味で、実際にフランス・パリに存在する通り。長島シェフがフランスに渡ったときに歩き、その記憶から名付けたそうです。
長島シェフ「フランスでは様々な地域でパティシエとしての経験を積んだことで、1つの地域に囚われないお店にしようと思っていました。僕にとってパリは、フランス各地のお菓子や技術が融合する場所。特に“パッシー通り”は、僕が目指すお菓子のように、伝統とモダンが融合した景色を見せてくれたんです」
『RUE DE PASSY』の代表的なケーキとして知られているのが、「キャラメルサレ」。
フランスで小さな砂糖菓子を意味するコンフィズリーの定番として、古くから親しまれているキャラメル。それを生菓子の主役として昇華させたお菓子。
「キャラメルサレ」は、アーモンドを使用した焼き菓子「パン・ド・ジェンヌ」を発展させた生菓子。他のパティスリーでは見かけることがない、スポンジをベースにした『RUE DE PASSY』の“伝統×新しさ”を象徴する一品です。
長島シェフ「フランスに居る間には既に、キャラメルのスポンジ生地を主役にしたお菓子を作ろうというアイデアを持っていました。日本人にとってスポンジ生地は馴染み深いパーツなので、親しみを持ってくれるだろうと思ったのです。
“1つの素材尽くしのケーキ”というのは、僕のお菓子作りでよくテーマにするのですが、『キャラメルサレ』は正にその代表。大変好評で、いまではうちの看板ケーキです」
何層にも重なるしっとりとしたキャラメルのスポンジと、キャラメルクリーム。
食べるとなめらかな口どけに、濃厚なキャラメルのこうばしくもミルキーな味わいが広がります。ほのかな塩味が一口、また一口と、食欲をそそり、フォークを持つ手が止まりません。
長島シェフのオリジナリティに富んだガトーとして「フレジエピスタッシュ」も外せません。フランスのショートケーキとも呼ばれるフレジエ。苺の季節に登場し、シーズンによって、食べられる期間が異なります。『RUE DE PASSY』では2月~4月辺りに提供しているそう。
元々フランス北西部で生まれたフレジエは、フレッシュの苺と、クレーム・ムースリーヌという濃厚なクリームを使うのが基本。
近年、こだわりを持つパティスリーでは、ピスタチオを使ったフレジエをよく見かけるようになりました。しかしそんな中でも、長島シェフが作ると歴然たる違いを感じられます。
長島シェフ「口に入れた時の溶け方から、違いを感じていただけると思います。クレーム・ムースリーヌにホイップクリームを入れることで、クリームが軽くなり、舌の上で柔らかく溶けるんです」
クリームはふわりと軽く、ピスタチオの香りと共に柔らかく消えていく感覚。苺のみずみずしさと酸味が丁度いい塩梅で加わり、気品ある味わいです。
長島シェフが掲げるコンセプト“新しい伝統菓子”。その根本たる魅力は、クラシックなケーキをベースとしたアレンジです。
「パリブレスト」は車輪のように真ん中が空いたシュー生地に、プラリネクリームを挟んだお菓子。1891年にパリで生まれた伝統菓子で、ナッツのペーストを使用したプラリネクリームを生地の間に挟んだものが主流です。
『RUE DE PASSY』の「パリブレスト」では、素材にこだわった自家製のプラリネノワゼット(ヘーゼルナッツとキャラメルを混ぜ合わせたペースト)を作り、バタークリームに。パーツの数は少なく、その分1つ1つ手の込んだ作りになっています。
伝統的にも、濃厚でコクのある味わいが特徴の「パリブレスト」。長島オーナーシェフはそこにカシスのコンフィチュールで酸味を加え、魔法のように食べやすい印象のガトーへと変化させました。
長島シェフ「地域の素材を活かして発展を遂げてきたフランス菓子。そのため、日本にいるならば、日本の素材を使うのがフランス菓子の思考だと考えています」
『RUE DE PASSY』の中でも、この考えが1番に反映されているのが「クールジャポネ」。見た目はまるでフランス菓子。しかし、使用される素材は金柑や黒糖、ほうじ茶など。日本になじみの深いものです。
実際の味も食感やくちどけは確かにフランス菓子。しかし、ほうじ茶や黒糖のコクと、上品な柑橘の酸味は日本らしい味わい。まさに、“新しい伝統菓子”の考えが体現されたケーキと言えます。
パリにゆかりのあるお菓子として有名なプチガトーがもうひとつ。「オペラ」は、パリ9区にあるオペラ座がその名の由来。
コーヒー風味のバタークリーム、ビターチョコレートのガナッシュ、シロップに浸したスポンジなどが、複雑に重なり合い生まれる風味が魅力的な『RUE DE PASSY』の「オペラ」。
単品で食べるときはもちろん、コーヒーと合わせても、甘すぎず、苦すぎずの絶妙さ。そのバランス感覚に長島シェフの仕事への丁寧な姿勢がうかがえる1品です。
長島シェフ「『オペラ』はとても複合的なケーキです。
『RUE DE PASSY』ではオープン初期から長らく、ピスタチオを使ったオペラを出していました。ファンの多い商品ではありましたが、現在は販売を中止しています。しかし、この取材をきっかけに、『オペラピスタッシュ』の構成を、新たに考え直しているところです。復活を楽しみにしていてください」
フランスの伝統菓子を大切にし続ける長島シェフ。きっかけは、本場フランスの風土や文化を直接感じ取りたいと、パティシエとして渡仏したことでした。
長島シェフ「フランスで一番思い出に残っているのは、南部にあるパティスリー『フィリップ・ウラッカ』での経験。オーナーのウラッカさんはM.O.F.(フランス国家最優秀職人章)を取得した名職人。
ウラッカさんの地域に根差し、細部までこだわる姿。パティシエとしての誇りを感じる仕事ぶりは、学びの多いものでした。
ここで学んだことは、どんなに伝統があっても、美味しいと思われなければ人は愛してくれないということ。フランス伝統菓子は懐が広いジャンルです。だからこそ、お客さんが美味しいと感じる革新的なお菓子を作り続けることができるし、それが作り手にとっては希望なんです」
現代の、あるいはその土地の味に合わせてクリエーションをすることこそ、パティシエとしての生きがいの一つだと語る長島シェフ。伝統とモダンが交差する“新しい伝統菓子”とは、そうした思いから生まれたケーキです。
みなさんもぜひ、『RUE DE PASSY』でオーセンティックなフランス菓子と、モダンなフランス菓子を一緒に味わってみてはいかがでしょうか。
※各種ケーキお値段(1個)
「キャラメルサレ」562円
「フレジエピスタチオ」756円
「パリブレスト」648円
「オペラ」648円
「クールジャポネ」681円
About Shop
RUE DE PASSY(リュードパッシー)
東京都目黒区鷹番3丁目17−6 サンシャイン学大
営業時間:10:00~18:30
定休日:水・木 ※2023年4月から月・火に変更
園果わたげ
ウフ。編集スタッフ
ufu.の新米編集者。メンズカルチャー誌でアシスタントを経験後ufu.に転身。 特技は甘いものを食べ続けること。最近は美術館内レストランの限定コラボスイーツにハマっている。
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