スイーツ界の中でも特に高い人気を誇るジャンル、パフェ。その語源はラテン語で”完全・完璧”を意味します。
今回紹介するのは、そんな言葉の由来に相応しい浅草・今戸にある『雨虹』のパフェ。なんと15以上ものパーツで構成されています。その多彩な味わい。驚くべきバランス感覚で組み立てられたパフェはまるで、グラスの中の小さな建築のよう。
遠方は大阪から遥々訪れる人も少なくないという今注目の人気店。『雨虹』の作り出すパフェの魅力について店主・山本さんに取材しました。
浅草駅から徒歩20分、バスなら今戸が最寄りの『雨虹』は一見住宅のような建物の2階にある店。目印は店の前に建立した熱田神社です。
2021年7月に焼き菓子、ケーキ、パフェを取り扱う小さなカフェとしてオープンした『雨虹』。訪れた人の誰もが居心地の良さを感じられるようにとデザインされた空間は清潔感と暖かみがあり、木目調のインテリアが映えます。カフェスペースに置かれたテーブルは大きく、オープンキッチンのため店内は広々としていてゆったりとした雰囲気。
店主の山本さんは元々、イタリアンやフレンチ、和食、パティスリーなど、さまざまな店でマルチに経験を積んだシェフ。そのため彼女の作るパフェはどれもジャンルレスで、選りすぐりの素材から作られる繊細なパーツと想像しえない素材の組み合わせは唯一無二と、多くのファンを生んできました。
今期は秋らしい素材と風景からインスピレーションを受けた「栗の紅葉パフェ」。レースを模したラングドシャで区切られた上段は、鮮やかに色づいた山々を連想させるデコレーション。
紅葉や楓型のフィアンティーヌは極薄でパリッとした食感。それぞれ異なるフレーバーで、ジンジャーとソルトの風味をほのかに感じます。今回の主役、渋皮和栗と和栗の甘露煮は丸々一粒をパフェのセンターに。松ぼっくりのように見えるのは「雨虹」のオリジナルで、ショーフロアというフランス料理からインスピレーションを受けたんだとか。モンブランペーストをたっぷり使い、中にはリンゴと赤ワイン、ローズヨーグルトが。モンブランの濃厚な甘みとヨーグルトの酸味が口の中で混じり合い、これ1つでも満足感ある味わいです。
山本さん「“山粧う(やまよそおう)”とは、紅葉で赤や黄色に色づく秋山を現した季語。
私が秋田県出身ということもあり自然が織りなす田園風景にはグッとくるものがあります。今回はそんな景色をパフェにしてみました。なかでも、プ―アル茶のメレンゲとポンポン菓子で作ったパーツは稲穂を表現したもの。香ばしい味わいからも日本の古き良き景色を感じていただけたら嬉しいです」
実りの秋を五感で感じてもらいたいと「栗の紅葉パフェ」では、なんと15ものパーツを使用。上段は濃厚な味わいのものが多いのですが、グラスの中は打って変わり、フレッシュのプルーンやリンゴのローズゼリー、柑橘のヘベスを用いたゼリーなどさっぱりとしてのど越しの良いものばかり。ボトムには黒糖カラメルが入っているので、少しずつパーツが混ざるのと同時に、香ばしい味わいが。食べ飽きることなく、秋の味覚をめいいっぱい楽しむことができます。
良い素材を選び、その良さを活かした菓子作りを大切にしている山本さん。旬のものが一番おいしいとパフェで使用するのは、各農家さんから運ばれてきた甘くておいしい果物ばかり。
山本さん「私たち料理人は、農家さんが精一杯育てた食材を加工しお客様に美味しく食べてもらうことが仕事。だから、どうすれば素材の良さを最大限に引き出せるかを常に考えています」
日常を過ごす中で、肩の力がふっと取れるような幸せや幸運を感じてもらいたい。そんな思いから雨の後に架かる虹をイメージして店名を『雨虹』にしたそう。パフェやお菓子には一切余計なものを加えず、身体にも心にも優しい商品であることを心がけています。
『雨虹』ではパフェの他に、フレッシュフルーツをふんだんに使用したケーキや、素朴な焼き菓子、パンも人気。カフェでゆっくりくつろいだ後に手土産として購入する他、近所の人がテイクアウトをしに来ることも多いんだとか。
秋にはリンゴと栗を使った2種類のパイを限定で販売。「リンゴのパイ」はパームフラワーシュガーでコンポートした赤リンゴとカラメルソースをかけて、しゃきっとした食感に優しい酸味と甘み、キャラメル由来の香ばしさを楽しめる1品に。
「栗のパイ」はこっくり濃厚な味わいで、ごろりと大きな栗が4つも入っています。パイ生地はバターをたっぷりと使ったリッチな味わいで、素朴な見た目ながら上品で満足感のある1品。何層にも折り重ねられた生地は、時間が経ってもリベイクすることでザクザクとした食感を取り戻します。
ついつい食べるのがもったいなくなってしまう、繊細なビジュアルのフィアンティーヌも人気。元々はパフェのパーツとして使っていたところ、お客さんの要望で単品売りを始めたのだとか。口に入れた瞬間パリッと割れ、口いっぱいに黒ゴマの香りが広がります。
創業当時は1人で全てのメニューを開発していたという山本さん。そんな『雨虹』に今年2023年から新しく仲間入りしたのが小林シェフ。専門学校を卒業後、『銀座マキシム・ド・パリ』(閉店)や『ホテル インターコンチネンタル 東京ベイ』で経験を積んだパティシエで、現在は『雨虹』のシェフとして山本さんと共にパフェや焼き菓子の開発と製造を行っています。
山本さん「私はゼロから現場経験のみでやってきました。しかし小林シェフはしっかりと知見と技術、経験を持ち合わせています。私一人だったら絶対に思い浮かばないようなアイディアや技法がポンポンと出てくるんです。だからとっても心強いし、『雨虹』の成長を感じられます。
人手が増え時間ができた分、これからは今までできなかったことに挑戦したいと思っています。お菓子にとどまらず、『雨虹』オリジナルのグッズやECサイトも強化したい。いつまでもチャレンジ精神を持っていたいですね!」
パフェを食べ終え帰る時には、まるで旧友の家を訪れた時のような安心感に満たされる『雨虹』。帰りは暖かい日差しに照らされて、ゆっくり浅草まで歩いてみようか、なんて気になります。日常の小さな幸せをたっぷり詰め込んだパフェは、確かに雨上がりの虹のように人々の心を明るくしてくれるようです。
About Shop
雨虹
東京都台東区今戸2丁目12−6
営業時間:10:00~18:00
定休日:月・火・木
園果わたげ
ウフ。編集スタッフ
ufu.の新米編集者。メンズカルチャー誌でアシスタントを経験後ufu.に転身。 特技は甘いものを食べ続けること。最近は美術館内レストランの限定コラボスイーツにハマっている。
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