これまで数々の名パティスリーを取材してきた「ウフ。」。しかし、名だたるシェフも、脚光を浴びる前は必ず“若手時代”を過ごしてきました。
そこでバレンタインが迫るこの時期に合わせて、20代~30代前半の若手ショコラティエに着目。才能あふれる3名の方に取材。なぜ、パティシエ・ショコラティエという道を選んだのか。現在の歩み。そして今後の目標を聞きました。
すると見えてきたのは、働き方の多様性。
本記事でトップバッターを飾るのは、小山裕章パティシエ35歳。現在『フォーシーズンズホテル東京大手町』でエグゼクティブペストリーシェフを務める青木裕介シェフの下、同ホテル開業と同時にチームメンバーの一人に。2022年には「ジャパン・ケーキショー」グランドガトー部門にて受賞。これからの活躍が期待されます。
艶のあるグラサージュに、チョコレートでできた細かいパーツの数々。
写真のプチガトーは、小山パティシエが「ジャパン・ケーキショー2022」にて金賞を受賞した作品。取材時にはバレンタインに合わせてハート形をあしらったチョコレートの装飾に変えるという粋な計らいをしてくれました。
今回、初となる入賞を果たした小山パティシエ。当時はどのような気持ちだったのでしょうか。
小山パティシエ「金賞をいただいたときは、単純に嬉しかったですね。
これまで何度かコンクールに出させていただいた中で、これは自分にとって大きな1歩だと感じました。しかし同時に、これで満足してはいけないとも思った。
周りには、素晴らしい作品を僕よりも若い人が作っている。さらに、金賞の上にもまだ賞がある。知識や発想力など、極めていく余地は無限です」
取材時は常に控えめで丁寧に言葉を選ぶ姿が印象的だった小山パティシエ。
世代関係なく、全国から実力のある若きパティシエたちが集まる「ジャパン・ケーキショー」。その誰もが本気で取り組む中、賞を取ることは簡単ではありません。
小山パティシエのプチガトーももちろん、当時の本気を発揮しての受賞。お菓子作りへのこだわりや、考えが詰まっています。
小山パティシエ「お菓子を作る時は、初見の印象と食べた時の印象が一致するように心がけています。賞をいただいたガトーのベースは、チョコレートムースとコーヒー、そしてバナナ。そこで、トップに飾る3つの丸いショコラで味のイメージを誘導できないかと考えました。
やんわりと光る黄色。そこに、光の加減によって緑色が加えられているのに気が付くと思います。黒い斑点は熟したバナナのシュガースポットをイメージしています」
1つの食材を細かく観察して生まれた色使いは確かに、形は違えどバナナを彷彿とさせます。また、大小さまざまな3つのボールを囲うように、曲線を描くチョコレート。そのビジュアルから味の繊細さやアンニュイな美しさを感じます。
『フォーシーズンズホテル東京大手町』に勤める前は愛知県にある『ピエール・プレシュウズ』で6年間勤めていた小山パティシエ。『ピエール・プレシュウズ』は、1895年パリで設立された料理教育機関『コルドンブルー』を主席で卒業した、寺島直哉シェフのお店。そこで小山パティシエは接客から、お菓子作りの基礎まで全てを現場で習得。
そして、さらなる高みを目指して上京。オープン以来、色鮮やかで個性的なプチガトーが並ぶパティスリーとして人気の『Ryoura(リョウラ)』(用賀)にて勤務。仕事への姿勢と、目指すパティスリー像を新たにしました。
現職に移ったのは夢に抱いていたコンクール挑戦のためだったそう。
小山パティシエ「コンクールに挑むことで、日々の仕事とは違った成長が得られるのではないかと思いました。そのためにも、自らのクリエーションにあてる時間が必要。その中で『フォーシーズンズホテル東京大手町』に決めた理由はやっぱり青木シェフの存在です。
ホテルでは、ケーキ以外にもアフタヌーンティーやレストランのデザートも作ります。青木シェフは、その全てに独自の魅せ方を持っている。例えば、僕が同じパーツを使ってお菓子をクリエーションしても、完成品に大きなクオリティの差を感じるんです。凄いセンスの持ち主ですし、人としても素晴らしい方だと思います」
全国でも秀でたモノが集まる東京で、人々を魅了し続ける青木シェフからは、日々学ぶことばかりだと語る小山パティシエ。ちょうど、取材時に顔を見せた青木シェフにも、小山パティシエの印象を聞くことができました。
青木シェフ「小山の、ずっとお菓子に向かい続ける集中力は良い意味でサイコパス。笑 そして新しいことを学び、身に着けたいという気持ちが身体から溢れています」
そんな言葉に “青木シェフから沢山の刺激を受け、自分なりの表現ができるように頑張ります”と笑顔で返す小山パティシエ。素敵な師弟関係を垣間見ることができました。
ところで小山パティシエはなぜ今の道を選んだのでしょうか。
愛知県にある大学で英語を学んでいたという小山パティシエ。就職活動を行う中で自分が興味のあるものを突き詰めていきたいと考え、パティスリーに就職しました。
元々、祝い事でなくてもケーキ屋をよく利用する家庭だったという小山パティシエ。現在でも、ショートケーキやシュークリーム、フォンダンショコラといった素朴で親しみやすいスイーツを好んで食べることが多いんだとか。
小山パティシエ「ショートケーキって、スポンジ、生クリーム、苺と、いたってシンプル。だからこそ、お店によって個性が出て面白いです。現在は独立に向けて構想中ですが、こうしたシンプルな味も大切にできるお店にしたいですね」
自分の経験や得意なお菓子作りで、地域に愛されるパティスリーにしたいと語る小山パティシエ。自分の生まれ故郷である静岡県浜松市での開業を目指します。
有名パティスリーから、ラグジュアリーホテルまで。同じスイーツという世界でありながら、異なる特色を持つ2つの厨房で経験を積む小山パティシエ。その経験を活かしつつ、これからも誠実に自分のペースで美味しいお菓子を作り続けます。
小山裕章パティシエ インスタグラム:le19_avril
園果わたげ
ウフ。編集スタッフ
ufu.の新米編集者。メンズカルチャー誌でアシスタントを経験後ufu.に転身。 特技は甘いものを食べ続けること。最近は美術館内レストランの限定コラボスイーツにハマっている。
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