前回の記事では「人形焼の旅」と題しまして日本全国の人形焼をお伝えいたしましたが、やはり原点を忘れてはいけない。ということで元祖人形焼として、今も変わらず東京浅草寺にお店を構える「木村家本店」に行ってまいりました。今回はどんっと1記事丸ごと割いて、元祖人形焼の歴史と東京浅草の変遷をお伝えいたします。
今だからこそ馴染み深い人形焼。そんな浅草のソウル・スイーツが生まれたのは江戸末期。慶応4年のこと。土産菓子として浅草寺境内の仲見世にて人形焼が生まれました。創業当時は肉体労働をする人が多かった訳ですから、甘味は甘くてなんぼの世界。いまではびっくりするくらいに甘かったといいます。「長い遷移の中で世も変われば人の味覚も変わります。代々伝えられているレシピはもちろんありますが、少しずつ時代に合わせて人形焼の味も変えております。」世の移ろいに合わせてしなやかに変化してきた人形焼の素朴なおいしさ。なつかしいな。と、つぶやいてしまう変わらぬ見た目。その双方があったからこそ、いま私たちのソウル・スイーツとして定着しているのですね。
身近で手に入りやすいものを工夫とアイディアによって長く愛されるものに変える。それが木村家本店さんの根底にあります。浅草人形焼といえば五重塔・雷様・提灯・鳩でございますが、これも身近なものをテーマにしております。「僕が知っている浅草寺仲見世だけでも様々な変化がありました。鳩がいなくなったのもそんな時代変化の一部です。」浅草の歴史を遡ると、境内で鳩用の豆を売っていた時代もあったそうです。それくらい当時の浅草はうんと鳩が多かったのですね。そうして、浅草を連想させる4つのシンボルが人形焼に起用されました。
「材料は、よくある小麦粉でやっています。あんこはずっとこしあんです。甘いものや小豆が得意でない方のためにあんこが入っていないものもありますが、やっぱり主流はあん入りです。」そうお伝えいただいた人形焼は小ぶりで、こしあんに合わせて作られた生地は、ふっくらというよりも断然“しっとり”という表現が合います。香りの豊かさはやっぱり焼き上がりが一番。しかし、人形焼は元々土産菓子として誕生しておりますから、持ち帰って冷めた際には生地にあんこが馴染んでこれまた美味しい。型の形や繋ぎの境目にできる凹凸が食感に変化を与えます。
もしも、焼き立てがお好みなら、レンジで数秒温めて、トースターでさらに数秒焼けば、焼き立てのお味に近づけることができます。にらめっこしていないとすぐに焦げてしまうらしいのでご用心を。
緑茶と一緒に家族欄団の時間を過ごすなら、人形焼ほど安定感のあるお菓子はありません。「そうそう、これだよこれ。」という感じで1口、2口、3口。次の人形焼へ。素朴な人形焼は罪深いです。予想以上に食べてしまうので、購入の際は1袋余分に買うことをおすすめいたします。
About Shop
木村家本店
東京都浅草2-3-1 仲見世商店街(MAP)
営業時間:10:00~18:00
定休日:なし
Photo&Writing /Sonoka Ueno
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