新宿三丁目駅のほど近く、2匹の看板猫がいる喫茶店「カフェアルル」。猫の様子を紹介するTikTokが話題となり、人が絶えることなく訪れています。
今回はそんな名店で出会える2匹の猫や魅力的な料理、動物とともに歩んできたお店の歴史を取材。別の世界に迷い込んだような不思議な雰囲気に包まれながら、マスターに話を伺いました。
交差点を抜けて小道を歩くと、ふと現れるベンチと旗。窓ガラスの向こうには、さまざまな年代のお客さんで賑わう店内が見えています。
お店に所狭しと飾られているのは、マスターの根本さんが集めたアンティークの数々。「僕が学生の頃は、アンティークが流行する前で値段も安かったんです。アルバイトで貯めたお金で、絵や骨董品をたくさん買っていました」と根本さん。帽子には、猫のブローチがさりげなくついています。
現在カフェアルルにいるのは、「石松」と「次郎長」の2匹。どちらも、先代の猫が旅立った後に、根本さんが保護猫ボランティアから引き取ってきた猫です。
「一緒に迎え入れたんだけど、歳が違うから、2匹の上下関係が崩れないようにこの名前にしました。今の若い人には、伝わらないかもしれないけど(笑)」
名前の由来は、幕末に活躍した渡世人・清水次郎長と、その子分にいたとされる森の石松。石松は次郎長より4歳年下のため、この名前にしたのだそうです。
「まったりとして、似合っているんじゃないですかね。猫がカフェにいるっていうのは、なんだか自然な姿な気がします。昔は顔をしかめる人も多かったけど、今は猫がいることで喜んでくれる人も多くてありがたいです」
ドアが開く瞬間を逃さず外に出たり、根本さんの足をつついたり、自由な気ままに過ごす次郎長と石松。多くの人であふれる店内を、2匹は軽やかな足取りで動き回っています。
まず提供されたのは、バナナとジャイアントコーンがお皿に盛られたお通し。お店のイチ押しメニューは、カレーピラフとオムライスを組み合わせたオリジナル料理『インドオムラ』です。
他のお店では見かけないようなお通しや料理を含め、メニューはほぼすべてマスターが考案したそう。店内には、動物とメニュー名が描かれたポップも飾られています。
「自分で考えるから、ネーミングに個性が出ちゃうんですよね。創業時から、メニューはほぼ変えていません。価格の変更も約30年間ほとんどしていなくて、人から『値上げしないの?』と言われて自分でも安さにショックを受けました(笑)」
『ぶどうしぼり』は、国産ワインの産地として有名な長野県の桔梗ヶ原から取り寄せたもの。ワイングラスに入って提供されるぶどうしぼりからは、単なる“ジュース”にとどまらない優雅な雰囲気が漂います。
マスターおすすめのスイーツは、お酒の効いた『ブランデーケーキ』。ぶどうしぼりとケーキをあわせて、大人な気分を楽しむのもよいかもしれません。
絵画やオブジェとともに店内に飾られている、カフェアルル一代目の猫・五右衛門の多数の写真。マスターは五右衛門が載った雑誌を取り出し、動物とお店の歩みをゆっくりと話してくれました。
「もともと、猫の前に犬がいました。僕は絵が好きで『絵を飾れる店をやりたい』と思って喫茶店を始めたのですが、そのくらいの時期に近所の人が犬を拾ってきたんです。
その後、街中で飲食店のシャッターにはさまった猫を見つけたんですよね。心配だったので、お店が営業してシャッターが開くまでの4日間、段ボールで日陰を作ったり、水とエサを渡したり、ひたすら通いました。
シャッターが開いた日に行ったら、その場には猫はいませんでした。でも、近くの茂みをふと見たら、その猫が茂みの中から僕をじっと見ていたんですよね。
僕が近づいて抱こうとしたら、逃げればいいのにそのままこちらのほうへ来て、『うちに来るか?』と聞いたら『にゃん』と返事したので、うちの猫になりました(笑)」
それが、一代目看板猫の五右衛門との出会いだそう。五右衛門はすぐに喫茶店に馴染み、カフェアルルの常連だった記者を通して、雑誌や新聞で“美猫”として取り上げられるように。五右衛門が旅立った後に来た2匹も、先代の猫と同様に穏やかにカフェの中で暮らしています。
「僕も店もあくまで自然体を大事にしているので、できないことを続けようという気はないんですけどね。この店を見て『こういう喫茶店をやりたいよね』と思ってくれる人がいれば嬉しいな、と思います。芸の道のように、後に続く人に何かを残していきたいですね」
先代の犬や猫が重ねてきた歴史を経て、現在は2匹の猫が過ごす喫茶店。都会のライトの中で、カフェアルルの灯りは今日も煌々と光っています。ゆったりとした時間を過ごしに、訪れてみてはいかがでしょうか。
About Shop
カフェアルル
東京都新宿区新宿5-10-8 1階
営業時間:平日11:30-21:00
定休日:日曜日
公式Instagram:@arurucafe
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