空前のパンブームに伴って、今も新店が次々登場しているベーカリー。競争が激しい世界のなか、オープン前から話題となっていたお店が「dough-ist(ドウイスト)」です。
店主を務めるのは、フレンチトーストの名店「No.4」に立ち上げ時から携わり、ヘッドベーカーとして活躍した川原司シェフ。業界が注目するシェフが手掛けた、すべてのメニューにこだわりが詰まったお店の魅力に迫ります。
お店があるのは、笹塚駅から徒歩10分ほどのマンションの中。5月のオープン前からSNSで注目を集め、平日でも多くの人が訪れています。
店内には甘いパンから食事パン、焼き菓子や冷蔵のサンドウイッチまで、多種多様な商品が。オーナーが集めたアンティークの食器に入り、高低差にまでこだわって配置されています。
店頭に行くと、すぐに笑顔で迎え入れてくれた川原シェフ。「変わった品が多くて、驚かれることも多いので(笑)」という理由から、お客さんにメニューを説明するために店頭に立つ時間も作っているそう。湯種を扱う技術の高さから「湯種の魔術師」として呼ばれており、この店でもその職人技を楽しめる品が多く提供されています。
お店で特に人気のメニューのひとつが『湯種ドーナツ』。湯種を生地の半分以上に使っているため、口の中でとろんととろける食感に。川原シェフは、「お客さんは“飲めるドーナツ”と呼んでくれていています」と話します。
「湯種がdough-istのテーマでもあるので、ドーナツにも湯種を多く使いました。レモングレーズの生地は75%、きな粉の生地は50%の粉を湯種として使用しています。
ドーナツではありますが、シュークリームのような軽さを目指した生地なんです。内側の層にもこだわって、“生より生っぽい”口溶けにしています(笑)」
驚くほど柔らかく、手に取った瞬間に違いを感じるふわふわ感。一口食べるとしゅわっと生地の甘みが広がり、後からレモンの酸味を楽しめます。
揚げているのに重くなく、油のコクによって小麦の美味しさがより豊かに。レモングレーズのさっぱりとした風味も心地よく、さらにもう1つ…と食べたくなりました。
ドーナツだけでなく、そのほかのメニューにも川原シェフの深いこだわりが。
店名を冠した『ドウイスト』は、シェフの想いが詰まったお店のスペシャリテ。50%の粉を湯種として使った小さめサイズの品であり、「おにぎりやご飯のようなパン」として開発したのだそう。
「うちの酵母は、酒粕や麹を発酵させて作っています。自家製酵母の生地は酸っぱくなりやすいのですが、酒粕などを使うと酸味を抑えられるんですよね。
日本の人に親しんでもらいやすいように、食感は柔らかめで、歯切れがよい生地にしています。使いやすいパンがいいな、と思って、カットの必要がなくて一度で食べ切れる小さなサイズにしました。
生地はもちもちで弾力があり、塩気と甘さのバランスが絶妙。出会ったことがないほどもっちりしていて美味しいのにどこか懐かしい、ほっとする味わいを楽しめます。
そのほかにも、ドウイストにあんことバターを挟んだ『あんバターサンド』をはじめ、魅力的な品がまだまだたくさん。出会ったことのない品への感動が尽きません。
『湯種スコーン』は、バターを何層にも織り込んで焼き上げた珍しいスコーン。口に入れた瞬間に感じる、バターの芳醇な風味とやさしい味わいがたまらないお菓子です。
「スコーンにバターを織り込むところは少ないと思うのですが、織り込むことで色んな食感を楽しめるんですよね。外はザクザクでクッキーみたいに、中は水分があってしっとりした質感になるようにしました。
水分の半分はヨーグルトにしてさわやかな後味を、上にはきび砂糖と塩をかけて、味に変化をつけています」
そして、名店で多くの人を魅了してきたシェフの技がつまった『湯種ブリオッシュフレンチトースト』も。トースト自体が美味しいことはもちろんのこと、染み込んだアパレイユ(卵液)、後がけのシロップの香り高さにもうっとりします…。
「フレンチトーストは、レモングレーズのドーナツと同じブリオッシュ生地を使っています。僕がNo.4でブリオッシュを作っていたこともあって、『No.4に負けないようなフレンチトーストを作りたい』と考えて開発したメニューです。
ラムシロップには、バニラのさやを漬け込んで風味を移しています。スポイトにしたのは、量をお好みで調整してもらえるようにですね。
サバランのようなブリオッシュを洋酒で浸した品や、プリンやカヌレの味わいもイメージしながら作っています」
すべてのパンやお菓子で製法を工夫し、新たな味わいを生み出す川原シェフ。なぜ、そこまでレシピをこだわり抜くのか?そこには、シェフの“日本のパン”への愛がありました。
「日本のパンって、独自に進化してるんですよね。もちろん世界中で日々進化していますが、日本には日本にしかないパンがあるし、高い技術を持った職人さんも多くいます。
海外のパンに憧れたり、技術を真似したりするだけではなくて、それをもっと伸ばすべきなんじゃないかな、と思ったんです。何十年後かに、外国の人から『なんか日本だけ変なパンあるよね』って注目されるみたいな(笑)
お店を立ち上げたのも、そうした思いからでしたね。日本のパンを進化させて、それを世界に発信していけるようなお店を作りたかったんです。それまでにはいろんな手前の目標もありますが、最終的には日本のパンを変える、そして世界のパンも変える、というところを目指しています。
お店の商品も、“すべてのメニューが究極”というのにこだわっていて。説明書きが足りないというか、説明をしたくてたまに接客します。
尖りすぎていて、『こんなのパンじゃない』となりかねないんですよね(笑)“新しいパン”を目指しているので、ある意味そうなんですが。
ラインアップの幅も、すごく広いと思います。棚の上には大きな食事パンが並んでいて、総菜系のパンもあって、菓子パンとかドーナツとか焼き菓子もあって…。
このすべての品のレベルが高かったり、こだわりが強かったりしたら面白いかなと考えていますね」
取材の間も、穏やかな空気が流れていた店内とバックヤード。「この内層いいね!」「あんの詰め方きれい!」と会話する川原シェフとスタッフ、笑顔で商品を手に取るお客さん…。
笹塚に生まれたdough-istは、日本のパンを切り開く拠点として、楽しげな雰囲気と可能性で満ちています。
About Shop
dough-ist(ドウイスト)
東京都渋谷区笹塚3-12-5
営業時間:11:00-19:00
定休日:なし
Instagram:@doughist.sasazuka
三月
ウフ。編集スタッフ
カスタードとお固めのパンが特に好きな148cm。ライター出身、ワクワクしながらメディアを作ってます。毎日おいしいものに出会えて幸せです。
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