とびっきり美味しい珈琲と、食べてあっと驚く焼き菓子。そんな焼き菓子と珈琲の時間が紡ぐ幸せなおやつ時間。2024年の師走にして、今年も終わろうとしている中で、また素晴らしいお店がオープンしました。その名前は「sarkara(サルカラ)」。東京は世田谷区の下馬に、12月14日グランドオープン。
実店舗ができる前から焼き菓子の美味しさに魅了されたファンも多く、待望の店舗OPENとなった今回。お店で初披露されるプチガトーはもちろん、豆選びからこだわり抜いたコーヒーのことについても取材させていただきました。
東急田園都市線、三軒茶屋駅を降りて徒歩で6分ほど。西太子堂方面ではなく、昭和女子大がある世田谷通りにある商店街をずっと進んでいくと地元の人たちが暮らす、ゆったりとした空気が流れるエリアへ。
もともとはずいぶん前に閉店した老舗の洋食店があった跡地であり、その場所がたまたまのご縁で空き物件となり、この場所に「sarkara(サルカラ)」が誕生しました。ブランドの名前「sarkara」の由来は、“sugar”の語源となるサンスクリット語の言葉がヒントとなっているそう。
かつては貴重であり、菓子職人にとっても意味のある「お砂糖」=sugar。有難い存在でありながら身近な存在でもあるお砂糖のように「sarkaraが作るお菓子が、お店が、そこに集う人にとって大切な存在であり、身近な存在であれますように。」そんな想いが込められて名前をつけられたんだとか。
ブランドにはあえてパティスリーという冠詞をつけないところにも注目。フランス菓子だけでなく色々な要素の入ったお菓子やドリンクを提供し今までのケーキ屋さん、パティスリーという概念を覆すようなお店を目指しているんだとか。
中に入るとズラッと並ぶ焼き菓子やプチガトー。イートインの席もあり、コーヒースタンドも併設しているため、お菓子を買うだけではなくひと息つける場所に。グリーンやウッディな色彩を基調とするお店のデザインは、シェフと奥様の二人で意見を出し合いながら作り上げたんだとか。今回、筆者を含め多くの人が開店を待ち望んだ理由の一つとして、作り手である大井シェフの存在が。
大井シェフは日本トップパティシエであり、レジェンドでもある辻口博啓シェフの「モンサンクレール」(自由が丘)で右腕を務め、辻口シェフが手掛けるショコラブランド「LE CHOCOLAT DE H (ル ショコラ ドゥ アッシュ)」ではショコラの責任者をつとめた若き実力派パティシエ。
メディアの編集長としても、筆者がずっと追いかけてきたパティシエで、大井シェフが持つクリエイティブさはもちろんのこと、お菓子を通しての「美味しさの描き方」が現代のお菓子の作り手の中でも突出しています。
作り出すお菓子の見た目、素材の選び方、食感、スパイスやハーブ、お酒の合わせ方、利かせ方すべてにおいて「クラシック」が根幹にありながらも「新しい描き方」で表現。店内に並ぶ焼き菓子がまるでお店のひとつのインテリアかのように馴染み、目が行きがちな生菓子のショーケースに負けじと存在感を放ちます。そう、大井シェフの「sarkara(サルカラ)」の真骨頂は、まず焼き菓子にあります。
店内のラインナップは、チャンククッキーやフランス菓子であるファーブルトン、フィナンシェやショートブレッドなど国籍問わない多くの焼き菓子が並ぶ中で、「sarkara(サルカラ)」の人気商品は、やはりマドレーヌ。ボソボソっとした食感のイメージがあるマドレーヌですが、口に含んだ瞬間驚くのはその“口どけ”。口の中で生地とグラスアロー(上にかかっている砂糖のソース)が溶け出すと、練りこまれている素材の香りとコクが一瞬にして際立ちます。今まで食べてきたマドレーヌとは一線を画すような、そんなマドレーヌです。
マドレーヌの中でも人気なのが、この赤い色がビビットな「マドレーヌ フレーズバジル 」。フレッシュバジルとオリーブオイルを生地に練り込み、いちごのキャラメルとグラスアローで仕上げたマドレーヌで、隠し味として仕上げにデンマークの粗塩を入れているんだとか。
他にもマンゴーのトロピカルな味わいに、ジャスミンのアジアンテイストを合わせた「マドレーヌ トロピカル」は、今までありそうでなかった組み合わせで、高貴なジャスミンの香りが口の中を抜けて、鼻の奥まで広がります。
「sarkara(サルカラ)」といえば、レモンケーキは絶対外せません。口に含んだ瞬間、じゅわっと広がるみずみずしさはまるでレモンを丸かじりしているかのよう。生地には瀬戸内産のレモンのコンフィをたっぷりと練り込み、アクセントにココナッツやジンジャーを加え、重すぎず軽やかにほどけるかのような食感に。
しみ込ませるシロップはとっても華やかで、それもレモンだけではなくベルガモット、エルダーフラワー、ハチミツを合わせているんだとか。こだわりたっぷりのレモンケーキです。
今までの「sarkara(サルカラ)」の百貨店などにおけるポップアップショップでは、焼き菓子しか販売しませんでしたが、実店舗では美しいプチガトーが勢ぞろい。圧巻のショーケースの中で輝くケーキたちは、一つ一つがしっかり個性を持ち、その見た目とクリエイションは“さすが”の一言につきます。
まず通年販売するアイテムとしてこちらを紹介します。ショコラブランド「LE CHOCOLAT DE H (ル ショコラ ドゥ アッシュ)」で経験を積んだ大井シェフ、その「LE CHOCOLAT DE H (ル ショコラ ドゥ アッシュ)」のビーン・トゥ・バーのチョコレートを使ったカカオのショートケーキは、ショコラへの想いが強い大井シェフならでは。タンザニアのフルーティーでありながらスモーキーさも感じる力強いカカオにベリーの酸味がさらに加わって、この一体感が本当に心地よく美味しい。何層にも丁寧に作られたカカオのショートケーキは、底の部分がタンザニア産のカカオを感じるクリームになっており、いいアクセントに。
チョコレートのケーキではなく「カカオのケーキ」。カカオが本来持つ、パワフルな酸味とちょっとした“クセ”が美味しくつまったショートケーキです。
また「バニーユ」は大井シェフからもオススメいただいたプチガトーのひとつ。マダガスカル産のバニラと、底がパンドジェンヌの生地、そこに合わせたのは愛媛県ひさしげ農園の早生みかんのソースとショコラブラン。マスカルポーネをあわせた独特のねっとりとしたテクスチャーでバニラの味わいを引き立てる設計になっています。
「ゼフィール」は、グレープフルーツとライチ、ローズマリーのケーキ。フランス語で「そよ風」という意味で、食べた瞬間にフルーツの香りと、敬遠されがちなローズマリーの心地よい部分が清涼感として、そよ風のように鼻を突き抜けます。ケーキを、まるでフレンチのように香りと食材を楽しんで欲しいという大井シェフの想いのこもったプチガトーです。
最後に紹介するのがシンプルなプリン。でありながらメープル。なぜメープル?と伺うと、「好きだから」とシンプルな返答が。大井シェフの「好き」がつまったプリンは口どけとともに優しいメープルの甘みと香りにほっこりした気持ちに。
また季節で変わるプチガトーも。一番左の「ルネ」はエルダーフラワーとラズベリー、バラのプチガトー。バラは埼玉県深谷市のROSE LABOさんのバラを使用し、みずみずしく食用花として品質もいい。写真中央の「マロピオ」のフランス産マロンとピスタチオの組み合わせで、オレンジのさわやかさでまとまったキレのある味わいに。写真一番右の「ボタニスト」は栗とチョコレートのプチガトーでありながら、フランスの果実ミラベルのコンフィチュールをはさみ、甘酸っぱく仕上がっています。
焼き菓子もプチガトーも美味しい「sarkara(サルカラ)」。美味しいのはお菓子だけではありません。
店内にはイートイン席があり、コーヒーとお菓子を楽しめる空間になっています。「この世田谷区の三軒茶屋、お子さんを送り出して、家事もして、一息つける場所にしたい」そう話すのはバリスタである奥様。
「sarkara(サルカラ)」がこだわるのは、お菓子だけではなくコーヒーの「美味しさ」。日本のコーヒーカルチャーシーンに大きな影響を与えた「GLITCH COFFEE & ROASTERS」のコーヒー豆を使用。もともと奥様の前職のご縁から、この「GLITCH COFFEE & ROASTERS」のコーヒー豆を使うことになったそうで、お店のコーヒーのメニューを見ると、選べる産地がほとんどコロンビア。
なぜコロンビアか伺うと、コロンビアは今最もホットな地域で、「イノベーションコーヒー」としても有名なんだそう。新しいコーヒーへの追及をしている地域で、実際にこのメニューを拝見すると烏龍茶のような香りのものから、ジャックダニエルのウィスキー樽で発酵させたラム酒やバニラテイストのものまで。
産地の違いという目線ではなく、新しいコーヒーの世界を感じさせてくれるコロンビアのコーヒー豆をテーマに、様々な体験をさせてくれる。お菓子屋さんでここまでこだわったコーヒーは筆者も初めてで、その理由を大井シェフに伺うと……。
大井シェフ「お菓子屋さんでお菓子は美味しいのに、ドリンクがあれ?って思うことが多く、凄くもったいないなと思っていました。美味しいコーヒーがあれば、ペアリングとしてお菓子もより美味しくなるし、その観点でコーヒーは絶対美味しいものにしようと、そう思いこだわっています。」
常識にとらわれないお店づくりをしたい、そう意気込む大井シェフ。取材後も、「ここまでの道のりが長かった」と喜びと達成感と、苦労と様々な感情が行き交う様子が伺えます。お店がオープンし、ここがゴールではなく、まだスタート。
ここから「sarkara(サルカラ)」の物語がスタートし、お菓子好きだけではなく三軒茶屋の人たちを、世田谷の人たちをきっと喜ばせていくはず。
グランドオープン後はしばらく込み合うかもしれませんが、美味しい焼き菓子と珈琲を楽しみながら、幸せな時間を送ってもらえたら。
About Shop
sarkara(サルカラ)
東京都世田谷区下馬2丁目36−1
営業時間:10:00ー19:00(コーヒースタンドは8:30から)
定休日:月、火曜日
Photo&Writing/坂井勇太朗(ufu.編集長)
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