世界最高峰の洋菓子コンクール「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー」をご存知だろうか? わかりやすく説明すると2年に1回開催されるお菓子の世界大会だ。アジア、ヨーロッパなど、世界各地の予選を勝ち抜いた18カ国が出場し、3つの工芸細工である氷彫刻・チョコレート細工・アメ細工と、3つのデザート(フローズンデザート、レストランデザート、ショーショコラ)を9時間という制限時間内チームで競い合い、総合得点で優勝を目指す。
1989年の開催以来、フランス・リヨンで開催され、日本代表チームが2023年の優勝に続いて2連覇の快挙を果たした。2連覇は日本史上初。1月30日、優勝を引っ提げて、団長の冨田大介シェフ(カルチェ・ラタン)と、籏雅典シェフ(アクアイグニス コンフィチュール アッシュ)、的場勇志シェフ(美十)、宮﨑龍シェフ(ブライド・トゥー・ビー)が記者会会見にのぞんだ。
前回大会2023年以前に日本が優勝したのは、実は2007年、その前が1991年に遡る。なぜ日本が2連覇を成し遂げたのか? スイーツメディア編集長である筆者が私見を交えながら、お届けしていく。
記者会見では団長の冨田大介シェフ(写真右/カルチェ・ラタン)と、籏雅典シェフ(写真左/アクアイグニス コンフィチュール アッシュ)、的場勇志シェフ(写真左から二番目/美十)、宮崎龍シェフ(写真右から二番目/ブライド・トゥー・ビー)がそろう。
籏シェフがチョコレート細工・レストランデザートを担当し、的場シェフは飴細工・ショーショコラ、宮﨑シェフは氷彫刻・チョコレート彫刻・フローズンデザートを担当。
日本チームのテーマは「Land of the Rising Sun(日出ずる国)」で歌舞伎、相撲、太鼓、錦鯉など日本文化を象徴するモチーフをちりばめ、躍動感ある日本の文化や伝統を表現した作品を作り上げた。
一方で優勝の筆頭候補のフランス代表も注目されていた。メンバーも過去最高との声もあり、会場は「フランスが優勝しそうだ」そんな雰囲気が漂っていたそうだ。
そんな中で2025年の日本代表のメンバーたちには、一つ突出しているものがあった。それは「粘り強さ」。実は国内予選大会を何度も挑戦し、落選しても諦めなかったメンバー。キャプテンをつとめた籏シェフは4度目の挑戦だ。さらに的場シェフは5度目の挑戦。
そして歴代最年長となる宮﨑シェフは53歳で、国内予選出場はなんと過去最多の8回に及び、2年に1回であることを考えると、夢を目指し16年越しとなると代表選出だ。
「今の気持ちは、予選最多出場8回、つまり16年分の想いが詰まった出場でした。本大会は全出場チームの中でも私が担当した氷彫刻は最高得点だった。最年長50代。優勝という形で帰れて本当に胸が熱くなりました。」そう話すのは宮﨑シェフ。全員が10年近い単位でこの大会に出ることを夢見てきたという。そんな「諦めない」意志が優勝をたぐりよせたのではないだろうか?
大会中は、トラブルも多発した。
籏シェフ「競技がスタートして、3時間半、4時間ぐらいの中盤に差し掛かるときでした。チョコレートの大事な柱になるパーツが壊れてしまったんです。テーブルの上に落ちて粉々になってしまった。時間的にはあと4時間ある。はたしてどうやって完成までもっていくか、スピーディーに判断しなければいけなかったので壊れたパーツを使って、なんとか作り上げました。パズルを組み上げたような感覚で。」
そんな籏シェフ。トラブルのさなか更なるピンチが。それを支えたのは「団長」の存在でした。
「団長」というポジションは、簡単に言うとコーチの立ち位置。そしてコーチでありながら、本大会の審査員も務めるという。その団長の役割も大きく、左右し、冨田コーチはこう話す。
冨田シェフ「選手は競技に集中している間、団長は他の審査員団といかに仲良くなるか、いかに日本を注目させるために何ができるかが大事です。以前は、2013年大会で代表として出場し惜しくも銀メダルでした。その時の経験もあり、団長となってからはチームをサポートすることももちろんですがこの日本代表チームをいかにみなさんに注目させられるか。そのことに徹していました。
そして今大会もトラブル続きで、籏くんが審査台のところに運ぶときに満身創痍だったこともあり、ふらふらっとしているのを見ました。作品が重かったことはもちろん、壊れたことで重心が斜めになったこともあり、運ぶこともままならなかったんです。気づいたら、私を含めみんなで支えていました。実はこの大会、団長が作品に触ったらペナルティになるというルールがありました。それはわかっていたけれど、みんなが何時間もかけて、何年も想いも込めた作品を壊すわけにはいかない! そう思うと自然と体が動いていました。結果、減点になっても優勝することができました。」
そして更なる支えは応援団にもあった。日本から持ち込まれた和太鼓で、応援するチームの存在も。歴代の代表選手も日本からフランスへと駆け付けた。
日本チームの味覚の完成度はもちろんのこと、祭りのごとく盛り上げる応援団、そして団長をはじめとした優れたチームワークが高く評価され、見事優勝に輝いたのだ。
「美味しさ」ももちろん大事である。しかしながら、諦めない気持ちと優勝への熱い想いが選手、団長そして応援団もみんなが一丸となって花開いた。そう感じた。
そして最後に、話は変わり大会の話へ。実は3位にマレーシアが入った。ダークホース的存在であり、実は2019年大会でこれまで1度も入賞したことがないのに、いきなり優勝をしたチームである。
フランスからコーチを招き、優勝を見据えて徹底的に鍛錬をつんできている。
同じ選手が毎年出場してはいけない、というルールはないため同じメンバーが出続けることも多い。マレーシアには、国際大会レベルのパティシエが少ないことも理由の一つである。
日本かフランスか、イタリアか。そんな三つ巴がアジアの新興勢力によって新しい時代に突入している。このマレーシアの作品を見ても技術力の高さ、手数の多さ、表現力の豊かさには驚いた。
今大会の日本の初連覇で、アジア全体のレベルの高さを表しているのではないだろうか。このマレーシアを筆頭に、今後の「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー」が楽しみである。2027年大会は、きっとマレーシアが大きなライバルになるであろう。
Writing/坂井勇太朗(ufu.編集長)
注目記事