今や料理だけでなく、お菓子でも主流となったドリンクとのペアリング 。元々はワインと食事を合わせるときに使われることが多い言葉でしたが、お酒だけでなく、コーヒーやお茶と合わせることが多い、お菓子とドリンクのペアリングは特に若い世代から注目を浴びています。
そして今回の主役はペアリングの“お菓子”ではなく、“ドリンク”。
紹介するのは文京区・本郷にある完全予約制バー『澱々(おりおり)』。ノンアルコールカクテルを中心としたドリンクコースを提供する珍しい専門店です。『澱々』の店主でありドリンク作家のemmyさんが作るオリジナルドリンクに合わせるのは和菓子や食事、そしてワイン。
「ちぐはぐにも思われるドリンク同士のペアリングには、味覚に集中したときに初めて感じる創造的な世界があるんです」と語るemmyさんに取材しました。
2023年6月にオープンした『澱々』は、三田線・春日駅から徒歩で約7分の住宅街にある古民家を改装してできた隠れ家のようなバー。見逃してしまいそうな佇まいで、白い布の垂れ幕が目印です。
不定期でオープンしている『澱々』は完全予約制。公式インスタグラムやHPにて予約が可能で、11:00〜12:30の1部か13:30〜15:00の2部の時間帯から選べます。
提供している「ドリンクと甘味のコース」では4種類のオリジナルドリンクに合わせて、emmyさんが選んだ4種類のナチュールワインとお菓子、甘味をそれぞれ堪能できます。
emmyさん「ワインが3種類以上と聞くと量が多いと思われる方もいらっしゃいますが、1杯1杯の量をお客様に合わせて変えています。メインはオリジナルのソフトドリンク。『澱々』では、ワインはチェイサー代わりという立ち位置で提供しています」
元々はバーテンダーだったというemmyさん。2018年頃から食以外にも様々なリセプションやイベントでドリンクを提供・監修してきました。現在はドリンク作家と名乗り活動しています。
emmyさん「ドリンク作家と名乗るようになった背景には、既存のイメージで判断されないようにという思いがありました。バーテンダーと名乗るとどうしてもお酒のイメージが強くなってしまいます。しかし、私がやりたかったことは、もっと表現性の高いドリンクを作ること。ノンアルコールは繊細でまだまだ未開発な分野なので、創造力を膨らませていくことで全く新しい体験ができるのです」
emmyさんが作るドリンクはどれも、自身が見た景色や情景、体験した土地の食文化や歴史を反映して作っているそう。素材には茶葉や果実だけでなく、花、スパイス、出汁、ビネガーなどを使用し、様々な方法で香りと風味を抽出していきます。店には蒸留器も設置され、まるで科学のような世界です。
最近では飲食店でもノンアルコールメニューを増やす店が増えてきました。その代表格がオリジナルドリンクであるモクテル。日本でも少しずつ認知度を上げているんだとか。
Emmyさん「アルコールを使用しないからこそ、作り手も飲み手も素材の味わいに敏感になれる。それがモクテルの魅力です」
今回、取材時に頂いたのは煎茶がベースのオリジナルドリンクと、自家製餡蜜。ドリンクは口元に運ぶと柚子がふわりと香りとても優しい印象です。飲むと僅かにピリッとした炭酸の感覚があり、その後、今まで飲んだことのない複雑な味わいが口いっぱいに広がります。
emmyさん「ドリンクには柚子の他に、濁酒(どぶろく)のビネガー、茎の部分を使った煎茶、ライチの味をより濃厚にしたような味わいの木の実“竜眼(りゅうがん)”、松などが入っています。松は以前、知り合いが山に素材を探しに行くというので同行させてもらったときに着想を得ました」
心をほっとさせてくれるアロマのような唯一無二のドリンク。飲みやすくさっぱりと涼しげのある後味は、残暑が続きじれったさを感じていた晩秋にぴったりでした。
オリジナルドリンクと合わせて出された自家製餡蜜もまた、舌鼓を打つ美味しさ。全てemmyさん自らソフトドリンクに合わせて微調整をしながら作っているんだとか。
emmyさん「寒天の上には餡子、紫芋餡、白ワインで煮込んだ杏子と無花果、白花豆の甘露煮をのせています。最初はそのまま食べていただき、お好みで別添えの薔薇のシロップをかけて召し上がってください」
濁りのない寒天はつるんとのど越しが良く、しっとりとした餡子や紫芋餡と一緒に食べればとても上品な味わいに。薔薇のシロップをかけることで華やかさが増し、ワインと杏子の芳醇でフルーティーな風味との相性抜群です。
emmyさん「『澱々』に訪れた人には非日常的な体験を楽しんでいただきたいです。ドリンクは液体なので食事に比べて視覚情報が限られています。その特性を活かすために室内を暗くして、できるだけ無駄な情報を削ぎ落すよう空間作りにもこだわりました。この瞬間を充実した時間と感じてもらえたら嬉しいです」
最後にemmyさんの今後の展望を聞くと、『澱々』の店頭ではもちろん、各地へ訪れ、ポップアップや宿泊施設でドリンクを提供するなど、多くの人とコラボレーションをしていきたいそう。食に関わる人だけでなく、様々なジャンルや地域と関わることで、その経験をドリンクに表現出来たらと語ってくれました。
About Shop
澱々
東京都文京区本郷4丁目30−5
@oriori_kikuzaka
園果わたげ
ウフ。編集スタッフ
ufu.の新米編集者。メンズカルチャー誌でアシスタントを経験後ufu.に転身。 特技は甘いものを食べ続けること。最近は美術館内レストランの限定コラボスイーツにハマっている。
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