鎌倉と言えば、鎌倉時代の歴史的建造物と自然の調和が美しい観光名所。東京から電車で1時間弱というアクセスの良さと日本らしい風景は特に今、欧米や南アメリカからの観光客から人気を集めています。
そんな鎌倉の地で注目の店がフレッシュフルーツを使ったパフェとカクテルの専門店『fruteria 7(フルテリアシエテ)』。海外放浪歴の長い、バーテンダーの矢島さんが店主を勤めています。世界的にも評価の高い日本の果物をふんだんに使用したパフェは国内ならず、海外の観光客からも人気。パフェ専門店でありながら40代以上のお客さんも多いんだとか。
今回は、『フルテリアシエテ』店主・矢島さんに取材。お洒落でシームレスな店作りと、バーテンダーとして活躍してきた矢島さんだから語れるカクテルとパフェの関係についてお伺いしました。
鎌倉駅から若宮大路を通り鶴岡八幡宮へと向かう途中、大きな鳥居前の津多屋ビル1階にある『フルテリアシエテ』。土産屋や食事処で賑わう中、まるで大人の隠れ家のような佇まい。
コンクリート打ちっぱなしの壁に、ドイツのインテリアブランドで統一された家具など、矢島さんのセンスが伺える店内。バーカウンターや調理場には海外のお酒がずらりと並べられています。
矢島さん「ここをオープンする前は都内で2店舗を運営していました。独立前は、中南米に旅をして。独立後も店舗経営をしながら南米やスペインなど様々な国に行きましたね。『フルテリアシエテ』はそんな旅の影響も受けてオープンした新しい業態の店です」
再度、店内を見渡すと、メキシコの祭りには欠かせない頭蓋骨のカラベラや、気球船、中南米にまつわる本がいたるところに。まるで、ラテンアメリカにあるローカルなバーを訪れたかのような異国情緒あふれる雰囲気です。
2021年にオープンした『フルテリアシエテ』では、バーテンダー矢島さんならではのアイディアから生まれたフルーツパフェが楽しめます。小さなディフューザーに入っているのはパフェに合わせて作られたカクテル。
矢島さん「使用するフルーツは産地や気候によって味が変動するので、いつも自分がベストだと思うものを選んでいます。そのまま食べても美味しいフルーツの隠れたポテンシャルを引き出せるかがパフェの難しくも面白いところ。
ディフューザーは味や香りの変化を楽しんでいただきたいと思い考案しました。カクテルを噴射することでアルコールと一緒に特有のアロマが鼻腔を伝い、果物の芳醇な甘さや香りを引き出してくれるんです」
撮影時のパフェは無花果をメインに、ハーブやスパイスを加えた芳醇な味わいのパフェ。愛知県知多半島の無花果で、合わせるのはマサラチャイのアイスクリームやスパイスの効いたスペインの伝統的なパン「コカ」。ボトムには葉や花から抽出したハーブのジュレが。
食べ進めるにつれてほぼ手を加えていないはずの無花果の味わいが、みるみる変化する面白さ。食感や温度の変化が味の緩急になっています。そして気が付けばグラスは空っぽに。
不思議なのが、充分な満足感がありながらお腹がいっぱいという感覚があまりないところ。
矢島さん「甘いものが苦手な僕でもぺろりと2つ食べられるかが、構成を考えるときの判断基準。実は僕自身、キビ砂糖アレルギー、バニラアレルギー、化学物質過敏症なんです。だから必然的に身体に良いものを選ぶようになりますし、お酒と合わせて頼む人もいるので、乳製品などこってりした素材の使用は最低限にしています」
素材へのこだわりや計算つくされたパフェは、今まで沢山美味しいものを食べてきた食通も納得の味。パフェ専門店でありながら、年齢層の高い人たちの憩いの場となるのも頷けます。
※無花果のパフェ提供は10月末までを予定しています
バーテンダーから現在、パフェを提供するようになった矢島さん。カクテルとパフェはどちらもフルーツを使用したり、味や素材を組み合わせる点で親和性を感じますが、実態はどうなのでしょうか。
矢島さん「確かにパフェとカクテルは一緒にフィーチャーされることが多いですよね。僕も初めはパフェ作りにカクテルのメソッドを活かせないかと思いました。でも、これらは全く別物ですね。
まず、カクテルは液体なので“混ざる”ことが前提で構成を考えます。しかし、パフェは固形なので、“食べる経過”を考える必要がある。立体的に考えてパーツを配置していきます。上手に考えれば、お客さんがスプーンを入れる場所を誘導することもできるんです」
パフェもカクテルも可能性は無限大、難しさに優越はつけられないと語る矢島さん。どちらもほんの些細なことで味や印象が変化する点で、カクテル好きとパフェ好きの人たちは、それぞれ楽しみを見つけているのかもしれません。
学生から社会人になってからは長く池袋でバーテンダーを勤めていた矢島さん。お客の多くは常連やその紹介という高級志向の店だったそう。
矢島さん「当時のことを振り返ると、仕事と店が僕の人生という感じだった。しかしある日、情熱を注いできた店を閉店せざる得ない状況に追いやられてしまい、そこで完全にやる気を失ってしまったんです。いわゆる燃え尽き症候群。ちょうど30歳になったばかりでした。
そんな時、僕の大親友が背中を押してくれて。自分は今までよくやったし、一度飲食から離れて旅に出ようと思えたんです」
矢島さんが旅先に選んだのは当時、特に治安が心配されていた中南米。なぜ、アメリカやヨーロッパのような先進国ではなかったのでしょうか。
矢島さん「僕がラム酒専門のバーテンダーだったからね。ラムが誕生したのがカリブ海周辺。キューバやジャマイカ、プエルトリコと言われています。それで、歴史や文化を含めて本物のラム酒を知りたいと思ったんです。
キューバにはモヒート発祥の店があってレシピを教えてもらいました。現地でバーテンダーとして働いたこともあります。このままメキシコに住んでしまおうとも思ったのですが、友人からの一報で帰国。
帰国後は、初めて日本でトラディショナルなモヒートを提案し、直ぐにブームとなりました」
長い旅を通して気が付いたのは、作り手という立場で自分が食材とどう向き合うか。矢島さんは食材と会話をし、それを楽しむことが大切だと語ります。矢島さんにとって飲食の仕事は好奇心を満たす1つの手段だったようです。
長年バーテンダーを勤めてきた矢島さん。そのため話の引き出しが驚くほど多い!
専ら映画に関しては少年時代からよく観ていたそうで、時に3~5件梯子映画をすることも。都内のローカルな映画館には行きつくしたという矢島さんがおススメする映画が、ブラジル出身のウォルター・サレスが監督を務めた「モーターサイクル・ダイアリーズ」。キューバの革命家チェ・ケバラの若き日を描いたロードムービーです。
矢島さん「元々ロードムービーが好きなんです。『モーターサイクル・ダイアリーズ』を観ている間は画面を通して、ラテンアメリカの風を感じられて心地いい。中南米の人なら知らない人はいない革命家チェ・ケバラについて知るのにもおすすめの映画です」
一見お洒落でモダンな印象の店ですが、しっかりとバーらしいディープな魅力も備えた店『フルテリアシエテ』。みなさんもぜひ訪れてはいかがでしょうか。
About Shop
fruteria 7(フルテリアシエテ)
神奈川県鎌倉市雪ノ下1丁目8−36 津多屋ビル1F2号
営業時間:11:00~17:00
定休日:不定休
園果わたげ
ウフ。編集スタッフ
ufu.の新米編集者。メンズカルチャー誌でアシスタントを経験後ufu.に転身。 特技は甘いものを食べ続けること。最近は美術館内レストランの限定コラボスイーツにハマっている。
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