街の「喫茶店」。古いお店は明治や昭和時代から続く日本の古き良き文化。世の中が変わっても、周囲が変わっても、まったく色あせない喫茶文化を伝えるべく、今月のウフ。の特集は「喫茶」特集。
今回は、そんな特集で後世に伝えたい喫茶店を紹介していきます。今回は、取材旅で四国を回っていたところ、道中でたまたま出会った喫茶店。取材のアポイントも取っていない中で、快くお店のことを話してくださった88歳のマスターと、その涙なしでも読めない素敵なエピソードを紹介していきます。
徳島駅から徒歩5分ほど。住宅街の中でひと際異彩を放つ「シャガール」。たまたま歩いて出会いましたが、その雰囲気やセンスの良さに惹かれて、足を思わず止めてしまいました。
店内に入ると、営業中と表札が出ていたのにかかわらず誰もいない雰囲気。奥のカウンターで声をかけると、マスターである大西さんが優しい表情で出迎えてくださいました。店内の写真を撮ってよいか聞くと、快くOKしてくださいました。
お店の至るところに飾られた作品は、ロシア出身フランスの画家「マルク・シャガール」。時期によって飾る絵を変えているというこだわりも。色彩豊かな絵画が、レトロな色合いの店内とマッチし、まるで西洋の豪邸にいるかのような気持ちに。美術が好きな人にぜひおすすめしたい空間です。
お店の中に飾られた数々の雑貨、インテリアは店内を散策しているだけでも、ウキウキワクワクしてきます。
木漏れ日がさす空間。誰もいない静かな空間。最高のぜいたくで、最高に居心地がいい。
メニューを見ると、オムライスやサンドイッチといったメニューが。またコーヒーにはとびっきりこだわっているとのことで、コーヒーを注文しました。
コーヒーだけだど、ちょっと申し訳ないと思いマスターに「何か甘いものはありますか?」と聞くと、そこで出てきたのがチーズケーキ。
カットしたパイナップルに、かわいらしく盛り付けたホイップクリーム。そしてチーズケーキは、懐かしのあのアプリコットジャムののったスフレチーズケーキです。ふわしゅわなチーズケーキは、懐かしい気持ちにさせてくれます。
コーヒーとの相性もよく、酸味のある東京でトレンドのサードウェーブコーヒーのようなものとは異なり、重みがあってスモーキーな感じです。
なぜシャガールなのか? マスターに聞くと、お店を開く前に銀座へ奥さまといった時に、たまたま展示会で出会ったのがシャガールだったんだとか。
そのシャガールに魅了され、1点だけ購入をし地元徳島に戻ることに。夫婦ともに心から気に入った「シャガール」。
店名もそのシャガールから取ったんだとか。このお店を最初に開いたのは奥さま。大西さんはもともとサラリーマンで退職を機に、このお店を手伝うようになったんだそうです。徳島でもこのような美術館のようなお店はなかなかなく、当時は凄く話題になったんだとか。今は死語になっているかもしれませんが、徳島でとびっきり「ハイカラ」なお店ができたと、多くの人が連日訪れたそう。
そこから約48年以上の時が経ち、内装も外観も何もかも当時のままであると語るマスター。奥さまとの思い出がこもったこのお店には、マスターの愛がつまっていました。そして、そんな奥さまの姿は店内には見当たらず。お話を聞くと、昨年腰を痛めてしまい、現在はリハビリ中なんだとか。今年で88歳という、マスターがたった一人で切り盛りしている姿に感銘を受けてしまいました。
現在お店の周辺には飲食店はほとんどなく、人通りも少なかったこの場所。昔はどんな場所だったのか、お話を伺うと昔はこの周辺は旅館も多く、徳島を観光で訪れる人があふれていたんだとか。
それが時代を経て、多くの人が都会に出てしまい、周囲の環境は48年前と今では全く違うものに。それでもなお、この年齢でも頑張る理由を伺うと……。
マスター「歳のことは全く考えていないです。来年辞めようかとか、高齢だからとか、考えていません。今こうして働いているのは、活力があふれ出るんです。日々が挑戦、これからも続けていきます」。
そんな力強いメッセージに心打たれました。内装も空間も、一生懸命入れてくださったコーヒーも、すべてが後世に残すべき喫茶店の一つだと感じました。きっと飲食を営む人なら誰しもが、大西さんに心打たれると思います。そんな日本人の古きよき熱い魂にリスペクトを込めて、この記事を書き上げました。記事の執筆にも快くOKしていただきました。
About Shop
シャガール
徳島県徳島市通町2丁目15
営業時間:10:30~18:00
定休日:土・日曜日
Photo&Writing/Cream Taro(編集長)
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