写真は、「茶の花」と「椿」
「僕は主に“上生菓子”をつくっています。上生菓子は、生菓子の中でとくに上等な生菓子のこと。細工の美しさ、色どり、季節感、和菓子的なみやびを表現したとても優美な和菓子です」
と、上生菓子について三納氏は教えてくれた。
半生菓子や干菓子などより水分量が多い上生菓子。水分量が多いということは、しっとりした味わいがあるということだ。
また、美しさの最大の理由は職人が技術を駆使して、一つ一つ手作りで仕上げているからこそ。それゆえ、大量生産が難しいそう。
「他のお菓子のように日持ちするようになれば、もっと多くの方に楽しんでもらえる選択肢が増えると思います」
「和菓子は茶席には欠かせないアイテム。抹茶にぴったりです」
そもそも和菓子は茶席の主催者のおもてなしの心からはじまったといわれている。抹茶と一緒にいただくため、その渋みに合うのが和菓子だ。味だけでなく美しさも求められるため、上生菓子がぴったりなのだという。
代表的なものは、練り切り、きんとん、こなしなど。練り切りは、白あんに砂糖や求肥、山芋などのつなぎを加えて練った生地のこと。
きんとんは、餡をふるいでこし出し、ソボロ状にしたものをきんとん箸で餡玉に植え付けた和菓子。こなしは、白あんを主原料に砂糖と小麦粉を混ぜ合わせ、蒸してつくったもので、もみこなす工程からの由来。
「どれも口当たりがよく、季節とともに楽しめます」
たとえばクリスマスやバレンタインデーなどのイベント時。
「多くの人がたくさんのお菓子やケーキを買いに行き、お店はとてもにぎわっています。商品を選べば日持ちしますし、流行も取り入れられる。はっきりいって、うらやましい」
確かに、日常で和菓子に触れる機会は、圧倒的に少ない。クッキーやチョコレートなどが家にあるのは普通だけど、和菓子があると特別感がある。
「洋菓子と同じようにとはいいませんが、和菓子も大きく広がる可能性があります」
インスタグラムやツイッターなどのSNSの発信が功をなしていて、日本にとどまらず、世界中の若い人たちにも好評だ。
写真は、グラデーションが美しい「宵花火」
「僕の上生菓子は、伝統的な部分と、振り向かせるための美的センスを大切にしています。女性に“かわいい”“きれい”とときめいてもらえるような、和菓子をつくり続けていきたい」と少し照れながらいう。
「ときには、女性のアクセサリーのトレンドを意識したりするときもあります。女性誌のブランド広告を参考にしたりすることも。味の面でも、おいしさだけでなく、ときめいてもらえる工夫として女性の目線は欠かせません」
写真の「宵花火」は、少量の練り切りで濃い色の練り切りを薄く包み、ぼんやりと中の色を透けさせる包みぼかしという伝統技法を用いている。
さらにへらや押し棒を使って、夜空を彩る大輪の花火を表現している。きれいですね! と多くの人に称賛された上生菓子の一つ。
“まるで宝石みたい”と女性ファンの声が聞こえてきそうだ。
三納寛之
Sannou Hiroyuki
和菓子
愛知県瀬戸市生まれ。愛知県の名店で基礎を学び、2019年フリーの和菓子職人として独立。名和会新年菓技術コンテスト最優秀賞、全国菓子研究団体連合会技術コンテスト総合1位、グランプリ受賞、全菓研連合技術コンテスト優秀技能賞など多数受賞。フランス、ドイツ、上海など世界各国でセミナーを開催。
「和の菓さんのう」https://wanoka-sanno.com/
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