先月より始まった「金曜日、秘密のデザート」。元東京カレンダーで、現在はソーシャルメディアマーケティングをしている、鈴木セイラさんが大人のための秘密のデザートを教えてくれる連載も二店目を迎えます。今回は、パリで人気を博した「Sola」でシェフパティシエを務めた勝俣孝一さんが、2019年7月恵比寿にオープンさせた「Yama」。“こだわり”という4文字だけでは語りつくせない、勝俣シェフが提供する圧倒的な空間、想像を超えるデザートの数々とサプライズいっぱいのひと時は、多くの人が魅了され、現在は予約困難になるほど。今回は、お店に込められた秘密と、美しいデザートの数々を鈴木セイラさんとお届けしていきます。
新宿や渋谷と、東京の中心からも近く、アクセスもよい恵比寿という街。恵比寿駅、東口から徒歩5分程度の場所に店を構え、地下へ降りていけばそこに広がるのは広々とした天然大理石のカウンター6席。
お店のコンセプトは「お菓子なレストラン」。料理とお菓子、その境界線と常識を覆す勝俣シェフの世界を楽しめるアシェットデセール。その場で作る、作り立てが食べられるその時間は、至福のひと時となります。
店名、“山 – Yama”に込められた意味とは? 勝俣シェフに伺いました。
「店名には、色々な想いとエピソードがあります。もちろん、フランス時代にSolaにいたことも理由の一つですが僕自身の実家が山梨で、山沿いの町だったことも大きいです。山に囲まれた町、僕の人生に“山”が切って離せないです。そしてもう一つ、“平坦で平凡なお店”ではなく、“山 ”という頂上を超えて上へ上へ、そういう意味を込めています。」
「大人の隠れ家」「デートにぴったり」という薄くて脚色された言葉では、語りつくせないほどの想いが、このお店の空間に施されています。勝俣シェフ本人の考えが、お店の名前やコンセプト、ブランディング、内装、食器すべてに投影された圧倒的な世界。
カウンターに使われているのは、本大理石。フランスの伝統的な内装、ヨーロッパにおける大理石は、博物館でもお店でもずっと歴史が深く残っているもの。普遍的で、永久的に美しく、愛され続けていて、時代が変わっても時が経っても“風化しないもの”として、大理石を採用したんだとか。
またお店の壁のテーマの一つとして「ジャガイモ」と勝俣シェフ。スロープの壁はシェフ自ら削ったそう。また店内の壁も、元あった様相をあえてそのまま残したそう。この壁に薄っすらと残る青い部分は、以前あった状態をそのままに。天井は作りきらず、あえて不完全に。一方で、本大理石が完璧で美しい「フォアグラ」。完璧に作りこんだロッシーニ風ではなく、ジャガイモとフォアグラのような素朴さと高級感を組み合わせることで空間のバランスを創り出しているんだそう。
ズラリと並ぶ食器や器、グラスはどれもヴィンテージものやなかなか入手できないものばかり。そして、お店のテーマとなる、金とガラス、白の世界がお店の世界観を一層美しく演出します。
10月「丹波栗」満席、11月「熟成丹波栗と抹茶」満席、12月「林檎のスフレ」満席。毎月の季節を感じるデザートコースは、どれもすぐに満席に。現在は12時と、15時開始のデザートコースがメインとなっており、予約はオンラインから。
今回、取材の時期はちょうど「イチジク」がテーマ。その時のコース料理の一部をお見せしながら、勝俣シェフの世界をお届けしていきます。
今回のメインとなったのは、イチジクのブリュレ。焼いたイチジクに合わせるのは、アオカビで熟成されるブルーチーズの代表格で、最古とも言われるロックフォール。また勝俣シェフが「ソースが本当に美味しい」とおっしゃったフランス産赤ワインソース。まるでお肉のメインディッシュを食べているかのような一皿で、“お菓子と料理の境界を超える”究極の形へと昇華されています。
続いていただいたのは、梨と無花果の葉のソースで仕立てあげられたこちら。ピュアな甘みがぎっしりと濃縮されたソルベは、一度乾燥させたイチジクの葉で瞬間的に香りを取り出したソースを組み合わせ、口の中で広がる味わいはとってもクリアで、梨をまるでかぶりついたかのよう。みずみずしい甘さに、心が踊ります。
「一口食べて、感じるこの甘さは普段砂糖の甘さに慣れている方は、新鮮かもしれません。素材のよさ、香り、それぞれを感じてもらえる一皿です。」と勝俣シェフ。
勝俣シェフが扱う今回のイチジクを始め、季節の食材はどれも市場になかなか出回らないものばかり。有名な産地、有名な生産者にとらわれず、自ら生産者を探し、コンタクトをとり、極上の一皿を提供してくれる、それが「Yama」のスタイル。「美味しい」では語りつくせない、その食材の美味しさ。風味だけではなく、食感から大きな違いを生み出します。
食材選び、メニュー選びなど、すべてにおいて「毎月テーマを変える」ということ自体が、パワーがかかり実現しているのは奇跡にも近いこと。その労力、こだわりすべてにおいて、100%を超えたものを提供し続け、「Yama」という頂を超えていく世界を堪能できる。「アシェットデセールでミシュランの星を狙っています」という勝俣シェフの意気込みと迫力、そして創造性を体感できる最高のデザートコースは、一度は足を運んでみたいもの。きっと、食への考えや発見がそこにあります。
About Shop
Yama
東京都渋谷区恵比寿1丁目26−19 B1(MAP)
営業時間:12:00~、15:00~の2コースのみ。完全予約制
定休日:月、火曜日
衣装提供:Rentable Runway
Photo/Akira Ishiwatari Writing/Cream Taro(坂井勇太朗)
注目記事