予約困難なレストラン、知る人ぞ知る名店、大人のバーetc. 大人のための秘密のスイーツをお届けする連載「鈴木セイラ『金曜日、秘密のデザート』。秘密のスイーツを毎月紹介してくれるナビゲーターは、元東京カレンダーで現在はソーシャルメディアマーケティングをしている、鈴木セイラさん。
前回の記事でご紹介したデザートコースのお店「John」(鶯谷)は、一見謎に包まれたお店。どのメディアにもまだ出演していない吉村シェフ、2年間という期間限定のデザートコース、住宅街の古民家での出店。そんな謎に包まれたお店の秘密を、吉村シェフにインタビューし、紐解いていきます。
JR鶯谷から徒歩6分。お店のマップに導かれ裏路地に入れば、「本当にここにお店が?」と思うほど、静かな住宅街。そこには、近隣の住宅に馴染みながら、ひっそりと佇む古民家「John」があります。シェフ自ら作った銅板看板には、画家「ジョアン・ミロ」から名付けた店名が輝き、訪れる人々を出迎えます。
エントランスを開いて中に入れば、ヒバの香りがふわっと広がり、自然とリラックスするような日本家屋の空間が。祖父母の家にやっと帰ってきたかのような、ノスタルジックな気分を彷彿とさせます。
デザートを頂くリビングは深緑を基調としたインテリアで、和と洋、古さと新しさが溶け合っているような不思議な心地よさ。家具やオブジェ、ペンダントライトなど、そこかしこに店主自らDIYしたものが散りばめられています。その理由を聞くと、「スイーツに限らず、物をつくる過程って勉強になるんですよね」と吉村シェフ。
「例えばこの机は木と木を組み込んでつくったのですが、『この方法、チョコレート作りにも使えるかも!』と気づくことが出来たりして面白いんです。それでスタッフみんなで色んなものをつくって飾ったら、こんな空間になりました」
提供するのは、全6皿、3800円という破格のデザートコース。旬の素材のおいしさをダイレクトに伝えつつ、新たな組み合わせにハッとするようなデザートばかり。テーマは月変わりで、お客さんの約半数がリピーターなのだとか。2年間という期間限定ということもあり、連日満席が続いているのだそう。
そんな話題のお店「John」ですが、謎に包まれたその全貌を、今回は弱冠28歳と、若さあふれるオーナーシェフ吉村シェフにインタビューしていきます。
Q.「John」のOPENは2022年2月。お店をはじめた理由を教えてください。
「より多くの人に、“食を楽しむ”体験をしてほしかったから、そういった人口を増やしたかったからです。日本は四季もあるし食文化が盛んな国だと思いますが、一部のセレブな方や美食家以外は、レストランを身近に感じられる機会が減ってきている気がして。それはつまり、純粋に“食を楽しむ”機会が減っているということだと思うんです。具体的に言えば、食材の組み合わせを楽しんだり、食で季節を感じたり。単に空腹を満たす為だけの食事ではなく、そういった食を楽しむ空間をつくりたいと思ったんです。」
「その理由は価格もありますし、レストランなどの高価な食事の、斬新な組み合わせや高尚さによる敷居の高さだったり、色んな理由があると思うんですけど。自分は、ふだんコース料理を体験していないような、極端に言えば大学生の方とか、そんな方にも楽しんでもらえるものを作りたいと思って。
だから、斬新な組み合わせも『発見』だと思ってもらえるようにコースのコンセプトも“味覚の旅”にしたり、高くなりがちなデザートコースも手が届きやすい3800円という値段設定にしました。」
Q.2年という期間限定でデザートコースをはじめた理由を教えてください。
「初めての出店なので、これから会社として長く続けていくために、組織のチーム作りやコンセプト、つまり地盤をしっかり固めていく準備期間にしたかったからです。今、ありがたいことに満席になる日も多く、それをこなしつつ未経験のパティシエを育てたりしています。
それに私は、実はデザートを扱うレストランではなく街のお菓子屋さんであるパティスリー出身なんです。デザートメニューをもっと試行錯誤したいという気持ちもありますね。」
Q.鶯谷の小さな古民家という空間に、出店を決めたことには理由がありますか?
「実はちょっとした社会実験なんです。今の時代に、どのくらい立地が大事なのかなという。
一等地や大通りに出店すればその分お店を見つけてもらいやすいと思いますが、高い家賃を払えば、社員の給料も減り、提供するメニューの値段も上がる。“誰もが食を楽しめるように”という目標が達成できなくなってしまう。だから、あえて住宅街の裏路地に出店して、SNSで集客してみようと考えたんです。
結果として、お客さまにはInstagramなどで見つけて頂けているので、間違いではなかったかなと思っています。」
Q.2022年2月に開始したデザートコースは、開始して約半年。現在の今後の展望があれば教えてください。
「まだハッキリとはしていませんが、“食を楽しむ人口を増やしたい”という目標に一人で立ち向かうのは難しい。もちろん、現時点で助けてくれたり、育てているスタッフもいますが、色んな道のプロをチームに呼んだり組んだりして、スイーツの様々なプロジェクトを仕掛けていきたいですね。
いわゆる“geek”(何かに一点集中している人という意味)な人を集めたいです。すでに何人か声をかけている方もいますが、2年後に何か形にできていたらといいなと思っています。」
若きシェフの第一歩となる店「John」。ノスタルジックな古民家で味わう、美しく、優しい願いが込められたデザートコース。幻になってしまう前に、ぜひ2年以内に味わってください。
About Shop
John
東京都台東区根岸3丁目6−23−12
営業時間:12:00~20:00
定休日:月曜、火曜
@john_uguisudani
Photo/Cream Taro Writing/Nanako Maeda
注目記事