皆さんはパティシエが、お菓子を作るだけではないとご存じでしょうか? お菓子において、飴やチョコレート等を使った菓子細工は世界でも競技されるほどのポピュラーなジャンルであり、お菓子の時代と文化を築いてきました。日本でも毎年行われる大会があるほど。
そんな中で、日本の洋菓子界でも大きな変化が。日本トップレベルの技術を持つ菓子細工職人達によるアート団体「DECORE」が発足。しかも協会といった大きな団体が運営するのではなく、20代のパティシエを中心とした若いシェフによる集まりが主体。そんな「DECORE」初となる展示会が4月27日に開催され、たったの4日間で500人を超える来場者が来たという。どんなイベントか、そしてその世界をお届けしていくと同時に今回「DECORE」立ち上げのメンバーであり、溜池山王の「パスカル・ル・ガック」で腕をふるう松田みどりさんに取材をさせていただきました。
「DECORE JAPAN」は10人のパティシエたちによる集まりで、20代・30代前半の方々が中心に。有名店で働くパティシエやコンクールで賞を取る技術のあるパティシエたちが集まり、飴細工やマジパン、バタークリーム、チョコレートといった様々な得意分野で作品を作り上げていきます。
中でも、シュガーアート大会で1位を取り、テレビでも取り上げられ話題の長谷川健太シェフの作品は圧巻。「神々のケーキ」と題名がつけられたこの特大のウェディングケーキは、目視しきれないほどの繊細な細工、まるで絹や衣服のような装飾のされたレース等、その技術は日本が世界へ誇れるほどの素晴らしいもの。
またSNSでも人気の大阪のhannocで腕をふるう「あめくん」こと岡村シェフの飴細工は、SNSでも4万いいねを超えました。雨と花をテーマに、美しいブルーのカラーリングと世界観に引き込まれます。
また世界大会にも出場した佐々木元シェフの飴細工も華やかで美しく、エレガントさを感じます。シンプルでありながらも華やか、見ているだけでも時間がどんどんと経っていきそう。
続いては小型工芸が得意な古山陽一シェフの作品。雲平といった和菓子の材料を使った繊細な作品を作るものの、残念ながら昨今のコンクールでは無くなってしまったジャンル。その貴重な技術を受け継ぐパティシエなんだとか。こちらもお菓子とは思えない繊細さです。
紹介しきれないほどの展示、飴細工だけではなくマジパンの作品も並びます。マジパンとは、アーモンドと砂糖を混ぜてペースト状にまとめて伸ばしたもの。質感、カラーリング含め、他とは異なり個性的な作品が作れます。過去に名だたる賞を獲得してきた藤島江里シェフの作るマジパンは細部まで世界観がしっかり描かれています。
よく見ると、小人の下には川の水しぶきや勢いまで、しっかりと描かれています。
そしてバタークリームの作品も。こちらは横山梨帆シェフが作り上げたもの。千葉県洋菓子コンクール バタークリーム部門 金賞をとった実力者でもあります。
そして続いて紹介するのは、今注目のチョコレートでお菓子の世界を変えようとする小清水圭太シェフ。「DECORE」の立ち上げメンバーでもあり、株式会社chocolart設立し、チョコレートの面白さや楽しさをあらゆる角度から伝えていこうとしています。今回小清水シェフが作り上げた作品は多くの人を驚かせました。
「stellar sprout 」という題名がついた作品。規模感、細かさ含めて今回の展示会最大クラス。お菓子×アートというコンセプトがそのままここに詰められたかのような世界観。細部に見える歯車やメタリックなカメレオン、雫がのった葉っぱなど、すべてがチョコレートで表現されています。
今まで菓子細工を知らなかった人でも、作品としてのクオリティがあまりにも高いので美術館感覚でも楽しめるほど。
なぜ今、このタイミングでこのような取り組みを始めたのでしょうか? 松田みどりさんに話を伺うと……。
Q.今回の展示のテーマ、そして展示に至る経緯を教えてください。
松田みどりさん「もともと小清水さんと、お互い菓子細工が好きだったこともあり、一緒に立ち上げてみる?とずっとお話をしていました。ちょうど小清水さんも新しい事業を始めたこともあり、話が前に進みました。この細工というものを、もっと世の中に広く知ってもらい、将来的には買ってもらえるようなものにできたら、というのが根底にあります。
また既存の大会もありますが、規則やルールに縛られず自由な発想で、自分たちが表現したいものを作れるのがこのDECOREです。今回の展示のテーマも、自由にみんなが作りたい大きさで、作りたいテーマ感で各々用意しました。だから展示されている作品のサイズや種類も全然違います。」
Q.使っているお菓子は何を使っているのでしょうか?
松田みどりさん「作るメンバーによって様々で、食べられる素材で作っているメンバーもいますが、私の作品はお店で使いきれなかった材料を使い、これらをいかにアートに昇華させられるかという観点で作品を作りました。」
Q.実際に制作期間はどれぐらいなのでしょうか?
松田みどりさん「作る規模感にもよりますが1カ月前から準備し始めて、実際に段ボールなどで下絵ではないですが形を作って、そこに向けて各パーツを作ってという流れです。仕事の合間になるので、お店が閉店後に準備をしているので結構時間がかかってしまいますね(笑)。でももともとケーキを作るのも好きですが、菓子細工が大好きで。なので、とても楽しいです。」
Q.今回はどんな作品になりそうでしょうか?
松田みどりさん「鷲が魚を狙う、“狩”をテーマに考えています。もともと動物が大好きで。この鷲の羽がすごく難しくて、上からきれいに重なるよう、接着は下の羽からつけなければいけないので加減がすごく難しいんです。しかも一発勝負です。」
Q.今後もこういったイベントをやっていくのでしょうか?
松田みどりさん「はい、今後も定期的にやれたらと思っています。今回の展示が、どのような影響を持って、どんな人に喜んでもらえるかがすごく楽しみでした。これからも細工の魅力を発信していけたらと思っていますし、少しでもいいなと思ったら、ぜひ次回足を運んで見て欲しいです。」
この記事を読んだ人は、こんなにもすごい菓子細工の世界があるとご存じでしたでしょうか? どうしても日本の洋菓子業界は狭くクローズドな部分があり、業界の人だけが知っているようなものになりがちです。
とくにコンクール、大会等は一般の人に知られることも少なく、ここまで技術力、そして若いパティシエたちのユニークなセンスが光るものでワクワクすることができるのにもったいないと思います。そんな中でも今回開かれた「DECORE」はSNS上でも話題になり、若いシェフの集まりだからこそ、多くの人の目に入り、興味を引いた革新的なイベントになったのではないでしょうか?
古き良き伝統も大事であるし、リスペクトするべきものですが、若い彼らの“希望と、あふれるパッション”へのリスペクトも、同等程度にあるべきではないでしょうか? それを認めていくのが、メディアの仕事であり、僕たち本当のプロのメディアとライターが発信すべき情報だと思っています。次回の「DECORE」に注目しましょう。
クリーム太朗
ウフ。編集長
編集責任者。ショートケーキ研究家として、日本全国のケーキを食べ比べる。自身でも、ケーキやチョコレートの製造・販売を目指すべく、知識だけではなく実技も鍛錬中
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